21.クッコと罠とイモ畑
子豚のクッコローゼは罠を使って狩りをする。
「ぶぅ。また壊されてるー。吸血蔓、採って来なくっちゃ」
クッコが罠に使うのは、吸血蔓という魔物の蔓植物だ。
泥だらけの沼地に生息している植物で、沼地から伸ばしたつるを獣が踏むと、そのまま強い力で巻き付いて血を吸いながら沼地に引きずり込む。
吸血蔓が絡みつくのは動物だけで、温かさに反応しているのだという。
だから採取するときは、万が一踏んずけてもいいように、脚に泥をたっぷりと塗りたくって、長い棒で吸血蔓がいないか確認しながら探すのだ。
吸血蔓を見つけたら、適当な長さにチョンと切ったあと、クッコを襲わないように樹魔法で選別する。吸血蔓は魔物だから、樹魔法が効かなくてクッコを襲おうとするもの、襲わないけれど言うことも聞いてくれないものがいて、罠に使えるのは半分くらいだ。
罠の仕組み位は簡単で、穴を掘って中にちょん切ってきた吸血蔓を植え、枯れないように水をたっぷりやったあと、枝や葉っぱで穴を分からないように隠すだけだ。
獣がうっかり穴に足を入れれば、吸血蔓が絡みついて血を吸いながら捕獲してくれるという寸法だ。
獣が暴れて吸血蔓がちぎれないように、穴は片足が入る程度の小さいものの方がいい。穴掘るのも楽ちんだし、隠しやすい。
その反面、大型の獣や力の強い獣だと、吸血蔓を引っこぬいて脱出してしまい。罠が壊されてしまう。
「畑のおイモをねらって、猪とかが来たのかなー」
クッコは世界樹の裏手にイモの畑を作っている。ほとんどほったらかしの畑だけれど、そこそこ美味しいイモができるし、周りに罠を仕掛けておけば獣なんかもよくかかる。
最近はよく罠が壊されているから、大型の獣が餌を求めてこの辺りをうろうろしているのかもしれない。冬は食べ物が乏しくなるから、冬眠をする獣たちは秋の間にたっぷりと餌を食べて丸々と太るのだ。
クッコも住み家にたっぷり食料を蓄えていて、保存食を作る時についついつまみ食いをしたせいか、冬眠をしないのに丸々としている。
「岩牙猪、おいしかったなぁ。クッコも大きな獣、倒せたらいいのに」
角兎は楽勝で、森狼は面倒だけれど木に登れば何とか倒せる。
鹿は、普通の鹿なら倒せるけれど、魔法で攻撃してくる稲妻鹿やものすごい速さでジャンプする跳ね鹿は無理だ。クッコの腕では矢が届く範囲に近づく前に気付かれて逃げられてしまう。
「クッコ、大きくなったら熊とか倒せるようになるかな」
熊はとっても大きいから、随分食いでがありそうだ。
「熊をやっつける前に、おイモをやっつけないといけないんだよねー」
おイモ畑はちょうど収穫期だ。鹿やら猪やらゴブリンやらに多少荒らされてはいるけれど、まだまだおイモは残っている。世界樹の周りは世界樹ミミルの縄張りみたいなものだから、ゴブリンみたいな野蛮な魔物でも遠慮をするらしく、大勢で荒らしに来たりはしない。まだまだミミルは苗木で護りの力が弱いから、お腹を空かせた魔物や獣が作物を食べに来たりはしちゃうけれど、クッコ一人の分くらいは十分に残っている。
「おイモ、掘っても掘ってもあるんだよねー」
豊作で嬉しいけれども、面倒くさい。
こういった単純な作業をする時の、とっておきの方法をクッコは教えてもらったはずだ。
「お歌だ! お歌をうたえばいいんだよー。
トントコトーン、、何の音ー? クッコがおイモを掘る音だー。
……って、おイモ掘るの、トントコトン、じゃないよね。サクサクザックリかなぁ?」
ガウルードと別れて以来、クッコの独り言はちょっぴり激しい。
「サクサクザックリ、何の音ー? クッコがおイモを掘る音だー」
新しいフレーズも、メロディーとぴったりだ。クッコはなんだかノッてきて、ご機嫌で歌をうたう。
クッコの歌に合わせておイモがざくざく、ごろごろ顔を出すからまるで樹魔法のフレーズみたいだ。
大漁だ。豊作だ。今夜はホクホクおイモパーティーだ。
クッコは楽しくなってきて、一層大きな声で歌いながらおイモを掘った。
「サクサクザックリ、何の音ー?」
「クッコにお客が来た音だ」
「!!?」
クッコの歌に入った合いの手。
その声にクッコが振り向いてみると。
「!!? ガウ? ガウだー!」
なんと、ガウルードがクッコの後ろに立っていた。
クッコのヒミツ:クッコは舌ったらずな可愛い声でお話するよ。




