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子豚のクッコローゼと世界樹の家  作者: のの原兎太
第1章 病気を治す、すごい蓮の実
20/27

20.クッコ、鼻が溶ける

 子豚のクッコローゼには、子豚のような鼻があった。


 世界樹のミミルのおかげで人間に近い美意識があったから、クッコは自分の顔が好きではなかった。

 二つのおめめはくりくりとして形は悪くないけれど、小さくって顔の真ん中から離れている。少しめくれ上がったお口も可愛(かわい)くない。なにより上を向いている大きなお鼻が(いや)だった。

 オークとしては可愛い顔だと思うけれど、エルフという生き物の姿からすれば、あんまりにもひどすぎる。

 幸いクッコの住み家には鏡というものがなかったから、水鏡に映る姿を見る以外で自分の顔を見ることは無かったけれど、わざわざ自分の顔を見ようなんて思ったことはなかった。

 それは今もおんなじだ。大泣きしている子豚の顔なんて、どんなにひどいことになっているだろう。


「ウワアアァン!」


 やっとこ住み家に帰り着いた後、クッコは大きな声でたくさん泣いた。

 一人ぽっちの寝床はとっても広くて、新しい森狼の毛皮も入っているのに、なんだかとっても寒かった。


 泣いて、泣いて、泣いて。

 おめめが溶けるんじゃないかというほど、たくさん、たくさん泣いたあと、クッコはようやく寝床からもそりと起き上がった。


「……お腹空いた」


 クッコは意外とタフなのだ。

 半分オークなせいなのか、胃袋の声には逆らえない。


(のど)も乾いた。うぅ、顔が気持ち悪い。水浴びしよう」


 後でミミルにお行儀(ぎょうぎ)が悪いと(しか)られそうだけれど、クッコは適当なパンを口にいれ、もぐもぐしながらお風呂場に向かった。大きな水の槽にざぶんと飛び込み、ごくごくお水を飲みながら、涙でぐしょぐしょになったお顔を洗う。


「あれ?」


 なんだかおかしいぞ? なんだかお顔がつるんとしている。

 そう思ったクッコは、水鏡に自分の顔を写す。


「鼻! お鼻が溶けちゃった!」


 何ということだろう。泣いて、泣いて、たくさん鼻水が出たせいか、クッコの豚のような大きな鼻がなくなって、小さくて丸いぽっちりが顔の真ん中についている。


「ミミル! ミミル! たいへんだよ!」


 大(あわ)てで服も着ずに走ってきたクッコに、ミミルは“はしたない”ことだと叱ったけれど、クッコのお鼻が無くなった理由もちゃんと教えてくれた。


「クッコの心が、人に近づいたからなの?」


 クッコは自分のためでなく、ガウルードや会ったこともない子供たちや親たちのために、大切な蓮の実を(ゆず)った。

 クッコは自分の望みのままにガウルードと一緒に行かずに、仕事をまっとうするためにミミルの所に戻ってきた。

 悲しいし、(さみ)しいし、蓮の実が無くて不安だし、クッコは顔が溶けちゃうくらい、たくさんたくさん泣いたのだけれど、クッコのやったこれらのことは、人として、とても(とうと)いことらしい。


 クッコは半分エルフで世界樹の守り人をしているけれど、もう半分はオークで自分のために生きてきた。

 ミミルはクッコにいろんなことを教えてくれたけれど、一人ぽっちのクッコの心は、獣のそれに近かったらしい。

 その心のありようが、オークの顔として現れていたけれど、ガウルードのおかげで色々な感情と、正しい行いを学んだクッコは、人に一歩近づけた。


 だから、クッコの子豚の鼻は、丸くてぽっちりとした人間の鼻に変わったのだという。


「これ、鼻なんだ。もげた残りかと思ったよ」


 鼻水が()まって気付かなかったけれど、匂いも変わらず感じ取れる。


「クッコ、ちょっと可愛くなったかも!」


 ガウルードが見たら、可愛くなったとほめてくれるだろうか。正しい行いをしたクッコの頭を、たくさんなでなでしてくれるだろうか。

 蓮の実が足りなくなったら、ガウルードはまたここへ来てくれるかもしれない。


()まってたお仕事頑張らなくっちゃ!」


 仕事をするのは大事なことなのだと、ミミルもそう言っている。

 ガウルードにだって、もう会えないわけではないのだ。


 すっかり元気を取り戻したクッコは、たまった仕事をかたずける前に、ちゃんと服を着なくちゃとお風呂場へと戻っていった。

 だって、折角(せっかく)可愛くなったのだ。


「クッコ、苺ちゃんだもん。はしたないのは、良くないんだからね」


 クッコはきちんと服を着て、くるりと回ってウププと笑った。



クッコのヒミツ:クッコが人間らしく成長すれば、クッコの見た目も人間らしく変わっていくんだ。

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