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子豚のクッコローゼと世界樹の家  作者: のの原兎太
第1章 病気を治す、すごい蓮の実
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02.クッコ、オーガを拾う

 子豚のクッコローゼはしっかり者だ。


 まだまだ遊びたい年頃なのに、冬に備えて毎日せっせと蓄えている。

 もっとも冬を迎えるのは3回目で、最初の冬は備えが足りずに飢えと寒さで死ぬかと思った。

 それ以降、毎日せっせと働いて、冬に備えるようにしている。


「わぁい、大漁! 血抜きしたいけど、ここじゃぁさすがに森狼に気付かれるから、とりあえず持って帰ろう」


 クッコが見つけたお宝は、森狼と、人型をした生き物が戦った跡だった。

 恐らく相打ちなのだろう。

 十匹以上の森狼の死体と、武器を握り締めた人型の生き物が木にもたれかかったまま動かなくなっていた。


「森狼の毛皮はガサガサだけど、これだけあればこの冬は暖かく過ごせそう! 肉はまずいけど、魚のエサにすれば冬でも太った魚が食べられるかも」


 クッコは腰に下げた(なた)で、あたりの適当な細い木を払うと、これまた適当な(つる)を使って器用に組み上げ持ち手の付いた板を作った。


「軸は、……これがいいかな。《陽は天に、伸びよ(いとけ)き素直な樹 植物の美意識エステティック・プランツ》」


 根元から何本も真っ直ぐな枝が伸びている樹を選んで、クッコは樹魔法を使う。すると魔法をかけられた枝は、ピンと姿勢を伸ばしたように真っ直ぐに伸びた。ついでに太さも一定だから、軸木としては申し分がない。

 油分の多い木の皮を巻き付けてから、車軸を板にくくりつける。車軸が回れば(こす)れた木の皮から油が染み出て、くるくると滑らかに回ってくれる。

 あとは車輪だけれど、これはいつも持っている。クッコは背負い(かご)の底にくくりつけていた二つの車輪を外すと、慣れた手つきで取り付けて、簡易台車を完成させた。


 この車輪は便利なのだ。こうして背負いきれない獲物が手に入った時に、簡易の台車を作って持ち帰れるように、背負い籠にくくりつけて持ち歩くようにしている。

 植物の美意識エステティック・プランツは、樹木の形をちょっと矯正するのに便利だけれど、美意識というのは維持するのが難しいから、泥にまみれ石に当たる車輪なんかに使ってしまうと、途端に樹木のやる気がなくなってしまう。だから、車輪は魔法で作らず、手作りして持ち歩いている。


「狼だけでも結構重いなー。どうしよう、これ。まだ生きてるっぽいけど、この……オーガ?」


 森狼と戦って力尽きた人型の生き物。

 初めて見る生き物で、クッコの倍くらい身長がある。

 似た生き物の情報はいくつか知っているけれど、これだけ大きいのだから、きっとオーガという生き物だろう。

 剣を握っていて、体には防具を付けているから、結構強い個体かもしれない。


「このオーガを食べたら、きっと強くなれちゃうよ。暴れられたら困るけど、生きてたほうが肉は長持ちするんだよね」


 クッコも魔物のはしくれなのだ。

 もう、森狼を食べたくらいじゃ強くなったりしないけれど、森狼をまとめて十匹以上倒せるオーガを食べたら、強くなれるかもしれない。でも、今日は角兎の肉もあるし、おいしくないけど森狼もたくさん手に入った。死にかけのオーガでもしばらく生かしておいたら、肉は傷まなくて済む。

 けれども、すごく元気になって暴れられたらどうしよう。


 クッコは悩みながらもてきぱきと狼を台車に積み込んで、落ちないように蔦を使って縛り付ける。

 このオーガは一番上だ。

 つんつんと、棒きれでつっついてもピクリとも動かないから、死にかけなのは間違いない。

 あまり長持ちしなさそうだから、生かしたままでも大丈夫だろう。


「よいしょ」


 自分の倍はあるオーガのお腹をひょいと持ち上げるクッコ。

 半分だけ受け継いだ種族特性上、それなりに力持ちなのだ。

 しかし、まだ子供で背は小さいから、バンザイの姿勢でオーガの体を持ち上げても、うつぶせになったオーガの手や(ひざ)が地面から離れない。


「よいしょ、よいしょ」


 ずるずるとオーガの引きずったまま台車のところに移動していく。

 座っていたオーガを持ち上げたから、クッコの顔はオーガの足元を向いていて、オーガの顔はクッコのお尻を向いている形だ。


 味はともかく森狼はたくさんいるし、珍しい獲物も手に入った。こんなに食べ物が手に入るなんてめったにないことだ。

 クッコはとても食いしん坊なのだ。

 だから、目の前の食料の山に夢中になって、あたりの警戒がおろそかになってしまっていた。


 グルルルルッ……。がさっ。

 背後から唸り声と茂みを揺らす音がした。


「ぷひぃ! しまった!」


 気付いた時にはもう遅い。

 重たいオーガをバンザイ状態で抱えたクッコは、茂みから飛び出してきた森狼をかわすことも反撃することもできない。


 しかし。


「ギャン!」

 剣を握ったままだったオーガの腕がシュッと動いたと思ったら、森狼の首は胴から離れてごろんと地面に落ちていた。


「ぷわっ、生きてた!? ……って、あれー?」


 オーガの顔はクッコの後ろ側にあるから、どうなっているのか見えないけれど、オーガの体が動いたのは一瞬だけで、クッコに抱えられたオーガの体は再びぐにゃりと力なく項垂れていた。


「と、とにかくここを離れなきゃ」


 あの森狼は斥候だろう。慌てて森の噂話(サーチ・フォレスト)で調べてみると、こちらに森狼の群れが向かってくるのが分かった。


「よいっしょー」

 ぽいと、オーガを台車に乗せて落ちないように蔦で固定すると、クッコは台車を掴んで走り出した。


「アッケの実、おいしいけどしかたない。《芽吹け育てよ森の種、実りの版図を塗り替えよ 仮初の繁栄(インスタント・グロウ)》」


 クッコが謡いながらぽい、ぽいとアッケの実を後ろに放ると、地面に落ちたアッケの実からぶわわと芽が出て蔓が地面を覆い、見る間に花が咲きみだれる。アッケは樹木に絡まって育つ蔓植物で、とっても甘い実をつける。

 急激に育ったアッケはその成長と同じくらい急速にしおれて枯れてしまうけれど、しばらくの間は地面に広がった蔓が森狼たちの足に絡みついて進行を遅らせてくれるし、アッケの実の甘ったるい匂いがクッコたちの匂いをかき消してくれるのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ。走るのは苦手なんだよね」


 しかも重たい荷物を積んでいるから、余計にしんどい。

 こんな時こそ甘いアッケの実が欲しいところだけれど、たくさんあったアッケの実は、森狼から逃げるのに全部使ってしまった。


「ぷぅ、森狼め……。仕返し……はしても美味しくないからなー。あー、余計腹が立つ」

 毛皮なら今日の分で充分あるし、肉のまずい森狼を狩るのは時間の無駄だ。


「まー、珍しいのが手に入ったし、いっか。このオーガ、おいしいといいなぁ」


 助けてくれたお礼だとか、そんな考えはクッコにはない。

 何しろ魔物というのは、喰うか喰われるかの生き物なのだ。種族にもよるけれど同族喰らいも珍しくない。


 話の出来る種族もいるが、たいてい知性は低いから、言葉は通じても会話が成り立たないなんてしょっちゅうだ。

 理性的に物事を考えられる、クッコが珍しいだけなのだ。


 だから、クッコは群れを離れて一人で暮らしているのだけれど。


「お家まであとちょっと。がんばるぞー」


 いっぱい働いた日は、特にごはんがおいしいのだ。

 そう自分を励ましながら、クッコは重い台車を引いて家路を急いだ。


クッコのヒミツ:クッコは子豚さんだから、時々「ぷぅ」とか「ぷひぃ」って鳴いちゃうんだ。

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