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子豚のクッコローゼと世界樹の家  作者: のの原兎太
第1章 病気を治す、すごい蓮の実
18/27

18.ガウ、国の近くで目を覚ます

 ガウルードが目を覚ましたのは、国の近くの森だった。


 森はほとんど切れかけていて、木々の隙間(すきま)からは国をぐるりと囲む城壁が見える。

 そばには焚火(たきび)がくすぶっていて、魔物がいやがる薬草がぷすぷすと煙を上げていた。


「クッコ? どこいった?」


 ガウルードはあたりを見渡して、クッコを呼んだけれど、ホウ、ホウとキジバトが返事をするばかりでクッコの姿は見えなかった。


 ホウ、ホウ、ホウ。

 ひんやりとした朝の空気と、白んでゆく空の色。キジバトの鳴き声が朝の訪れを告げている。


「クッコが連れてきてくれたのか」


 ガウルードは焚火の前で剣を抱えるように座ったまま眠っていたようだ。

 寒くないようにとの心遣(こころづ)いか、背中には森狼の毛皮までかけてある。


「……これは?」


 状況を確認していたガウルードは、(ふところ)見慣(みな)れない包みが入っているのに気が付いた。

 分厚くて丈夫な緑の葉っぱは、永年蓮の葉だろう。


 そうっと包みを開けてみると、中からは長持ちがするように乾かした蓮の実が、たくさん入っていた。


 考えるまでもない。ガウルードが欲しがった、子供たちの病気を治す、永年蓮の実だ。


「クッコ……。大事な蓮の実だろうに、俺たちのために……」


 中には採ったばかりのような瑞々(みずみず)しい実も混じっていたから、クッコはありったけの蓮の実をガウルードに持たせてくれたのだろう。


「これだけあれば、子供たちを助けられる!」


 ガウルードは蓮の実を丁寧(ていねい)に包みなおすと、王国の方へと走っていった。


 国にはガウルードの子供たちの他に、たくさん病気の子供がいる。

 その数は蓮の実よりも多いけれど、薬には蓮の実の効果を高める薬草も加えるから、一つの蓮の実からは何人分もの薬が作れるのだ。


 ガウルードが持ち帰った蓮の実は、すぐさま王さまに届けられて、国一番の薬師(くすし)がとても良く効く薬を作った。

 薬は王さまの子供だけでなく、ガウルードの子供たちや、兵士や商人や農民の子供たち、国中の子供たちに届けられた。


 国中の子供たちは薬のおかげで元気になって、大人たちは本当によかったと心の底から喜んだ。

 森から戻ったガウルードは、悪い竜のいなくなった森には、まだまだ危険な魔物がたくさんいるけれど、森の奥深くには新しい世界樹が芽吹いていて、幼くともしっかり者の守り人が(まも)っているとみんなに話した。守り人はどんな人かと聞かれたら、「可憐(かれん)可愛(かわい)い、とても(やさ)しい女の子だよ」とクッコの事を話して聞かせた。


「悪い竜がいなくなり、森には新しい世界樹が芽生えたらしい」


「世界樹のそばには幼い守り人さまが住んでいる。とても優しい守り人さまで、貴重な蓮の実を子供たちのために全部(ゆず)ってくれたらしい」


「守り人さまは、苺のように可愛らしく、薔薇(ばら)のように可憐な幼い少女らしい」


「とても優しく愛らしい守り人さまのお名前は、薔薇苺(ばらいちご)というらしい」


 (うわさ)が噂をよんでいき、しまいに姫の語尾まで付いて、王国では森の深くの世界樹のそばに『薔薇苺姫』という可愛く可憐で優しい子供の守り人が住んでいるのだと人々は語り合った。


 ガウルードが噂を否定しなかったから薔薇苺姫の存在は、森の聖女さまとして国中で大人気だ。


「ぷ、ぷうぅっ、変な名前で呼ばないで!」


 クッコが噂を聞いたなら、すごく恥ずかしがりそうだ。苺のように赤くなって、ぴゅーっと走って隠れるだろう。

 ガウルードは、クッコの事を思い出しながら、元気になった子供たちに世界樹の守り人の少女の話を聞かせるのだった。



クッコのヒミツ:クッコの実は野イチゴの一種で、甘酸っぱい実をつけるよ。ジャムにするとおいしいんだって!

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