17.クッコ、いっぱいなでなでしてもらう
子豚のクッコローゼはとても目がいい。
小さくくりくりしたお目めだけれど、昼でも夜でも遠くまでよく見える。
ガウルードは住み家には戻ってこなくて、湖のほとりで何とか蓮の実が取れないか、いろいろ試しているようだった。
蔓草の端っこを輪っかにして、蓮の実めがけて投げてみたり、何とか魚をやっつけて湖に入ろうとしてみたり。
けれど、なんかい試しても、うまくいかないようだった。
上手く蓮の実に蔓草が届いても、当たった振動で蓮の実はこぼれて湖に落ちてしまうし、魚はすごくたくさんいるから、倒しても倒しても次の魚がやってくる。
何時間もガウルードはあきらめなかったけれど、やがて日がとっぷり暮れて、水と土の区別もつかなくなってしまった。これ以上は無理だと思ったのか、ガウルードはパン焼き竈のあたりで焚火をしながら夜明かしをし始めた。
ガウルードの様子を住み家の入り口からこっそりのぞいて見ていたクッコは、のろのろと立ち上がると、蓮の葉の上を渡ってガウルードの所へ近づいていった。
「ガウ、夜の森はあぶないよ」
「クッコか、なんだ、迎えに来てくれたのか」
クッコは黙ってガウルードの隣に座ると、いつもの背負い籠に入れてきたパンとお水をガウルードに渡す。
「ありがとよ。ここの魚は厄介だな。水すら飲ませてくれないときた」
「だから、このへんの動物は、湖の近くに穴を掘るか、水の実苔の水の実でのどを潤すんだよ」
ガウルードは蓮の実の話をしない。
クッコも蓮の実の話をしない。
国中の子供たちの命がかかっているのだ、ガウルードにとって蓮の実は、絶対に持って帰らないといけない大切な物だ。
それはクッコにとっても同じことで、まだ子豚のクッコが一人で森で生きていくにはなくてはならないものなのだ。
子供たちを治すには、たくさんの蓮の実が必要で、クッコの分はなくなってしまう。
それが分かっているから、ガウルードは蓮の実を何とか自分で採ろうとしている。
「もう少ししたら、冬になってあたり一面雪で真っ白になるよ」
「冬になったら、湖に氷がはるのか?」
「ううん。湖は凍らないの。蓮の根っこが水をぐるぐる回しているから、凍らないんだってミミルが言ってた」
そんな他愛もない話をしながら、クッコは籠の底に入れてあった乾かした苔を焚火に放り込む。
「クッコ、それはなんだ?」
「いいことが起こる苔だよ。ねぇ、ガウ。クッコの頭なでなでして?」
「ん? こうか?」
クッコはフードを外してふわふわした金髪の頭をガウルードの方に向ける。
ガウルードはクッコの頭をよしよしと撫でてくれた。
「もっと。もっとなでて。クッコね、これからいい事するの。すごくすごくいい事をするから、だから、クッコの事、もっとエライ、エライってして?」
「おう。……なんだ? おかしいぞ、なんだか眠くなってきた……」
クッコの頭をなでるガウルードの手の動きがだんだん遅くなってくる。
「……クッコ、おまえ……」
「大丈夫だよ、ガウ。この苔は、蜂さんから蜜をもらう時なんかに使うの。眠くなるだけだから、大丈夫」
ガウルードは寝てはだめだと思うのだけれど、まぶたが重くていうことをきかない。
遠のいていく意識のなかで、ガウルードはクッコの声を聞いた気がした。
「クッコ、ガウの子供だったらよかったなぁ……」
クッコが泣いているように思えて、ガウルードは重たい手を何とか動かして、泣くな、お前はいい子だ、大丈夫だとクッコの頭をなでてやった。
クッコのヒミツ:この辺りの動物は、湖のそばに穴を掘るんだ。すると水が染み出してきて、そこから水を飲むんだよ。湖には肉食の魚がいるからなんだけれど、賢いなぁと感心したよ。




