15.クッコ、岩牙猪を食べる
子豚のクッコローゼは弱っちい。
力はあるけれど体が小さく、そのくせ早くは動けない。
だから、武器はもっぱら弓を使っているけれど、手足の短いクッコの弓はこれまた小さい弓だから、あんまり皮の硬い獣は仕留めることができないのだ。
「おぉ、これはすごいな!」
クッコが焼いた大量のパンを見て、帰ってきたガウルードが驚いていた。
「ガウもすごいね! 岩牙猪やっつけたの!?」
ガウルードの帰りが遅いなと思っていたら、焚き木だけではなくて猪まで捕ってきてくれた。岩牙猪は森狼よりも体が大きいし、鋭い牙と硬い毛皮を持っている。
力も強くてクッコの仕掛けた罠なんて蹴散らしてしまうし、クッコの矢だって跳ね返すから、クッコは追いかけられるばっかりで、やっつけたことは一度もなかった。
大きな大人の岩牙猪は、群れになった森狼がてこずるくらい強いのだ。
「血抜きは済んでる。焼きたてのパンと一緒に焼いて食べよう。解体は……湖の水は使えないんだったな」
「湖に手を入れたら危ないよ。湖のお魚は、岩牙猪が大好物だから、もうあんなに集まってるよ」
岩牙猪は強いのだけれど、頭がちょっぴり弱くて真っ直ぐどーんと突っ込んでくる。
だから、クッコは追いかけられる度、右へ左へぴょいぴょいよけて、岩牙猪の突進をかわして逃げる。クッコが岩牙猪をかわすたび、岩牙猪は森の木に頭をごーんとぶっつけるのに、すぐにまた元気になってクッコのことを追いかける。
クッコのことが好きなのだろうか。
それとも頭をぶっつけすぎて、おバカさんになったのだろうか。
「しつこい獣は、好みじゃないのー!」
何回頭をぶつけてもあきらめてくれない岩牙猪は、クッコの住み家にご案内だ。
クッコはぴょいぴょい器用にアタリの蓮の葉っぱに飛び移るけれど、おバカな岩牙猪は真っ直ぐ湖に飛び込んで、お魚たちの餌になるのだ。
いくら強い岩牙猪でも、この湖のお魚たちにはかなわない。なんどか岩牙猪を湖まで案内するうちに、お魚たちは岩牙猪の味を覚えたようで、大好物になってしまった。
クッコだって食べたことがないのに、贅沢なお魚だ。
「クッコ、岩牙猪初めてたべる! 楽しみだなー。強くなれるかな? あ、アタリの葉っぱを案内するね!」
焼きたてのパンに岩牙猪のお肉。今日はなんてごちそうだろう。
楽しみ過ぎて、クッコのお口は自然にあいて、にっこり笑顔の形になった。
「おいおい、クッコ、よだれ垂れてるぞ、食いしん坊だなぁ」
「ぷ!?」
そして膨らんだ期待とともに、クッコの口からはヨダレがあふれて、ガウルードに笑われてしまった。
これじゃ、もう、「苺ちゃん」なんて呼んでもらえないかも!
クッコは慌てて口元をぬぐうと、お嬢さんらしくおすまし顔をして見せたけれど、そんなクッコを見てガウルードはさらにげらげらと笑っていた。
初めて食べた岩牙猪のお肉は、すごく噛み応えがあって、飛び切りにおいしかった。どーんと突っ込んでくる猪らしく、どーんと主張する味だ。
湖のお魚たちがとりこになるのもよくわかる。
「クッコ、ちょっぴり強くなった気がする!」
「へぇ、どこが?」
「えぇと、皮がね、硬くなった!」
「どれどれ」
ぷにぷにぷに。
クッコより強い岩牙猪を食べたおかげで、クッコの表皮は岩牙猪みたいに硬くなったと思ったけれど、ガウルードがさわったクッコのほっぺは、ぷにぷにとしてやわらかく、突っつくとぷるぷるしていた。
「ぷにぷにじゃねーか」
「ぷぅ!」
やわやわなクッコにガウルードは笑って、クッコは丸い顔をさらに真ん丸にぷーと膨らましてすねて見せた。
クッコのヒミツ:クッコは半分魔物だから、強い魔物を食べるとちょっぴり強くなれるんだ。




