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子豚のクッコローゼと世界樹の家  作者: のの原兎太
第1章 病気を治す、すごい蓮の実
14/27

14.クッコ、ふわふわのパンを焼く

 子豚のクッコローゼの樹魔法は便利だ。


 森中の植物を、一時的に加工したり、成長を早めたり、森の様子を教えてもらったりできる。

 形を変えたり急いで育ってもらうのは、植物に無理を()いることだから、変えた形はじきに元にもどってしまうし、急いで育った植物はその分早く()れてしまう。実った果実はスカスカでおいしくないから食料の調達には使えないけれど、普通に育てた果実がおいしくなるように手助けすることだってできるのだ。


 外の調理場は、雨が当たらないように大きな木の下に作ってある。石を積み重ねて作ったドーム状のパン焼き(かまど)と、石を重ねただけの肉を焼く竈だ。パン焼き竈は石と石の間に、動物の骨を焼いて砕いた粉に泥を混ぜたものをぬっている。こうすると、泥が石みたいに固まって雨でも流れなくなると、世界樹のミミルに教わったのだ。だから、パン焼き竈の中には、雨が降っても中に水は入ってこない。


「雨で()き木がぬれてるな」


 焚き木は時間のある時に拾ってきて、竈の近くに積んである。

 雨除けに上に水の実(ごけ)という、水をよく吸う苔を()いているけれど、昨日のようにたくさん雨が降ると、屋根も床もない調理場は、びしょ()れになってしまう。焚き木は濡れると火がつかないし、湿気(しっけ)ているだけでもすごく煙が出てしまう。

 折角パンをこねたのに、焼けないのではないかとガウルードは心配してくれたのだけれど。


「大丈夫だよ」


 クッコは平気な顔で焚き木の上に敷いた苔のマットをよしよしとなぜる。


「《飲めや歌えの大(さわ)ぎ、からから乾かせ空騒ぎ。実れ、水の実ウオーター・フリテージ》」


 クッコが呪文を唱えると、苔からは細い根っこがにゅにゅにゅと伸びて、下の焚き木に(から)みついた。

 絡みつかれた焚き木はあっという間にからからに乾いて、代わりに苔にはぷくぷくとした小さな透明な実がたくさんなった。


「へぇ、水の実苔を使って乾かすのか。樹魔法って便利なんだな」


「えへん」


 自慢げに胸を張るクッコ。今日は魔法だけじゃなくて、水の実苔よしよししてあげたから、いつもより上手に乾燥できた気がする。

 よしよししてもらうのは、とっても気持ちがいいのだ。クッコもまた、ガウルードによしよししてもらいたい。


「えへん」


 また頭をなでてくれないかなと、もう一度「えへん」と胸を張って見せるクッコ。ぽこんとしたお腹を突き出すクッコをみて、ガウルードは少し考えたあと、「クッコはすごいなー」と言って頭をなでなでしてくれた。


「うふふふふ」


 よしよしをしてもらえて、クッコはすごくご機嫌だ。

 今日はなんて楽しいのだろう。今日はいっぱいパンを焼こう。竈の中で、パンがふくふく膨らんでいくのは見ていてとっても幸せだ。

 クッコはすごく張り切って焚き木を竈にくべていった。


「じゃあ、俺は焚き木を集めてこよう。ついでに獲物がいないか探して来るよ」


 ガウルードはクッコに返してもらった剣を握って右手をあげる。

 いってきますの挨拶(あいさつ)だ。


「うん。ガウ、い……いってらっしゃい」


「おう、いってきます」


「うふふふふ」


 いってらっしゃい、だって。

 いってきます、なら、ミミルに言っているけれど、いってらっしゃい、なんて初めて言った。


 クッコは焼きたてのパンみたいに、ふわふわ、ほかほかの気分になって、ガウルードが帰ってくるまでに、パンをたくさん、たくさん焼いた。



クッコのヒミツ:水の実はぷちぷちした触感が楽しいよ。遠出するときは水筒の代わりに水の実を持っていくんだ。

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