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子豚のクッコローゼと世界樹の家  作者: のの原兎太
第1章 病気を治す、すごい蓮の実
13/27

13.クッコ、乳の実のパンをこねる

 子豚のクッコローゼはパン焼きが得意だ。


 クッコのパンは『乳の実』というとても珍しい果実を使うから、しっとりとしてほんのり甘くてとってもおいしいのだ。

 乳の実自体は、結構その辺に生えている背の低い木なのだけれど、自然のなかでは栄養が足りなくて(かた)くて苦い実しか付けない。だから、クッコはぎりぎり運べるサイズの乳の実の木を根っこから掘り返し、住み家の中に植えなおして、栄養をたっぷりとあげている。世界樹ミミルの次くらいにお世話をしたおかげで、まだまだ数は少ないけれどおいしい実をつけている。


 お世話の仕方はミミルが教えてくれるのだけれど、角兎の骨を砕いたものをまいたり、麦の殻を与えたり、森から腐った落ち葉を集めてきたりと、最初は本当に手間がかかった。


 クッコのおてては小さいから、乳の実は両手に余る大きさだけれど、ガウルードの大きな手なら、片手でつかむことができる。

 乳の実はそんなサイズで、(うす)い皮をむくと(したた)るほどの果汁が(あふ)れ、とろっとろの真っ白な果肉が現れる。甘い匂いと滴る果汁は上等な乳の実の(あかし)だ。そのままかぶりつきたいのを我慢(がまん)して、果肉をつぶして果汁ごと麦の粉に加える。

 乳の実の種は大きくて、実の半分くらいある。クルミのように半球が合わさった形をしているから、つなぎ目のナイフを当ててぐりぐりすれば、ぱかんと割れて中からクリーム色の中身が現れる。ミミルによれば胚乳と言うのだそうだが、乳の実の胚乳はこってりとして(あぶら)が豊富でパン作りにだけでなく、料理にも使えるそうだ。


「今はね、パンを作る分の乳の実しか採れないんだけどね、いつか乳の実をたっぷり使ったごちそうを食べるの。クッコの、えぇと、野望(やぼう)なの。野望を持つのは大事だってミミルが言ってた」


「そりゃ、すげぇ野望だが、もしかして目標のまちがいじゃねぇか?」


「もぐひょう? もぐもぐするからそっちかも」


 材料を全部混ぜて、こねこねしたら、()れた葉っぱをかけておいておく。そうすると、パンの種がぷくぷくに膨らむのだ。


「ミミルが言うにはね、パンにはお部屋がいるんだって。パンのお部屋でこねて、パンのお部屋で寝かせてあげたら、(ふく)らむパンができるんだって。不思議でしょ。違う部屋で寝かせても膨れないんだよ?」


「へぇ、面白いな。そういやパン屋じゃねぇとうまいパンができないって聞いたことがあるな」


 そんな他愛(たあい)もない話をしながら、たくさんのパンを丸めていく。

 後は、外の(かまど)で焼くだけだ。

 クッコの住み家は石化した世界樹で、ミミルの住み家でもあるから、調理場でも火は使えない。世界樹のミミルが(こわ)がるからだ。お湯だけは火鳥の卵で沸かせるけれど、パンを焼くには外の竈に行かないといけない。


「ちゃんとクッコの後を付いて来てね。違う葉っぱを()んだら駄目だよ!」


「クッコはどうやって(わな)の葉っぱを見分けてるんだ?」


「わかんない。守り人になったら分かるようになったの」


 クッコとガウルードはパンの種を両手いっぱいに抱えて、湖の上の蓮の葉っぱを渡っていく。


 ガウルードはハズレの葉っぱに舞い降りた鳥が、あっという間に湖に沈んで、魚の(えさ)になるところを偶然見ていたから、初めは蓮の葉っぱに乗ること自体、おっかなびっくりだった。

 けれど、重い荷物を持ったクッコがジャンプをしてもびくともしない様子を見て、アタリの葉っぱは安全だと理解してくれたようで、クッコの乗った後をちゃんと付いて来てくれた。


「なぁ、クッコ。偶然、森の獣がクッコの住み家までやってきたりはしないのか?」


「入り口の近くには当たりの葉っぱがないから大丈夫だよ。出入りするときは、こうやって呼ぶの。

 《陽は我に、来たれ幼いとけき素直な葉 植物の美意識エステティック・プランツ》」


 クッコが樹魔法を唱えると、一枚の蓮の葉が風もないのにすすいと近くに寄ってきて、しばらくすると再びすすいと戻っていった。

 この湖の蓮の葉は、呼べばすぐに来てくれるけれど、飽きっぽいのか放っておくとすぐに元に戻ってしまう。上にクッコが乗っているときは、じっとしていてくれるから、(かま)って欲しいだけかもしれない。よくわからない葉っぱだ。


 よくわからないと言えば、クッコが住み家にしている石化した世界樹の入り口には、なぜかアタリの葉っぱが一枚もない。蓮の葉っぱは毎日当りが変わるのに、入り口付近には今まで一度もアタリが来たことがないのだ。

 クッコが初めてここに来た時は、乗った葉っぱがススーッと入り口まで運ばれたから、世界樹の不思議な力なのかもしれない。


 しかも、入り口の近くには、解体部屋があるから、餌付けされた魚たちが常にたくさん群れている。入り口まであと少しだからと水に入った瞬間に、どう猛な肉食魚たちがワーッと襲い掛かってくるのだ。

 だから、鍵も扉もないけれど、クッコの住み家はとっても安全だ。


「そうか、世界樹もクッコも、守られているんだな」


 ガウルードは安心したようにそういうと、クッコの後をついて岸辺まで蓮の葉を渡っていった。





クッコのヒミツ:クッコが初めて住み家に来た時は、クッコの前に蓮の葉っぱが流れてきて、それに乗ったらすいーっと入り口まで運ばれたんだよ。

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