11.クッコ、世界樹の話を聞く
子豚のクッコローゼは世界樹の守り人だ。
守り人というのはお世話係みたいなものだけれど、今は先代の世界樹が石化してミミルのことを守っているから、クッコの仕事と言えば世界樹のミミルにお水をあげたり、余計な草を抜くくらいだ。
守り人に選ばれたおかげで、言葉やいろんな知識をもらえたし、樹魔法も使えるようになった。これが、世界樹の恩恵なのだそうだ。それに、この石化した世界樹を住み家にしていられるので、クッコの方が守られているくらいだ。
クッコにとって「おはよう」だとか「ただいま」だとか、その日一日あったことをお話しできる相手はミミルしかいなかったから、いろいろな恩恵を抜きにしたって、ミミルはとっても大切だ。
「これが、ミミルだよ。絶対傷つけたりしないでね」
「おいおい、これは……世界樹の苗木じゃねーか。ってことはクッコ、お前まさか、"守り人"か?」
お風呂に入ってさっぱりしたガウルードを、クッコはミミルのところに連れて行った。
檻から出たガウルードが、間違ってミミルを折ったりしては困るのだ。
「約束だよ、ミミルを傷付けたら、針千本! だからね!」
「おう、世界樹を傷つけたりなんて、絶対しねーよ。絶対にだ。
ちゃんと、新しい世界樹が芽生えてたんだな、本当によかった……」
ガウルードはクッコがびっくりするくらい真剣な表情で、なんだか安心しているように見えた。
「ミミルのことを知ってるの?」
クッコがそう尋ねると、ガウルードは世界樹ミミルの前で胡坐を組んで座り、お膝の上にクッコを乗せて世界樹のお話をしてくれた。
「俺が知っているのは前の世界樹が倒されてしまった話だよ。
世界樹の太さは、まぁ、この通りだが、梢は天に届きそうなほどで、世界で一番と言われるほどに立派な樹で、周りにはエルフや人間が住むでっかい都があったらしい。
立派な世界樹のある場所は、魔物も寄り付かないし、土地が豊かで繁栄するんだ。
そこじゃ、世界樹の守り人っていうのは、すげぇエライ。
だから、エラそうにしたい奴が、選ばれてもいないのに、守り人のふりをした。
何代も何代も、にせものの守り人がエラそうにしていたせいで、世話をしてもらえない世界樹は少しずつ弱っていった。なんてったって、にせものの守り人じゃ、世界樹の声は聞こえないからな。
悪い奴っていうのは、そういうところをよく見ているもんで、魔物を率いた悪い竜がやってきて、世界樹は折られちまった。もちろん都は跡形もなく壊されて、今じゃご覧の通りの森になった」
「人間もエルフも、みんな死んじゃったの?」
「逃げ延びたやつもいたさ。そいつらは森のほとりに逃げ延びて、俺が生まれたころには小さい国ができてたよ」
「悪い竜は、まだ森にいるの?」
「いんや。ミミルだっけか、新しい世界樹が生まれる少し前に、英雄が現れて仲間たちと一緒に退治したんだ」
ガウルードのお話はとっても分かりやすかった。
クッコは英雄が悪い竜を退治する話を聞いてみたかったけれど、今日は遅いから、また今度話してやると言ってくれた。
「ミミルが生まれてくれたってことは、この土地がまだ生きてるってことなんだ。
世界樹が生えない土地は、大地が腐って水がかれる。わずかばかり残った水場は、悪いものが集まって、鉄さえ溶かす毒になる。じきに魔物さえも住めない死んだ土地になってしまうんだ。
だから、ミミルが元気に育ってくれて、俺も、きっと国のみんなもすげぇうれしい。
クッコ、ずっと一人でミミルを世話して、えらかったな」
そういってガウルードはクッコの頭をなでてくれた。
ガウルードの手は大きくて温かくて、クッコはなんだかお腹の中までぽかぽかと暖かくなった。
クッコがえらかったから、ガウルードは頭をなでてくれたのだろうか。だとしたら、昔の人が嘘をついてにせものの守り人になった理由も、ちょっとだけ分かる気がした。
クッコのヒミツ:ミミルの周りには、時々見たこともない新しい草が生えるんだ。クッコが食べられる野菜が生えることもあるんだよ。




