表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見る異界の魔王さま  作者: ミカヅキモ
1/1

第一話 異世界は居眠りと共に

初投稿です

気ままに書きます

睡眠。生物がその生命活動を営む為に周期的に意識を喪失させる生理的な行動である。その効果には脳や身体の休息や傷の治癒などが挙げられるが、全容を述べていくと長々と駄文を続けることになるのは明白であり、安らかに眠る死霊や眠る必要が無くなった超生物の方々には誠に申し訳無いが省略させて頂く。


高校生、北白川順也は完全なる規則正しい生活を送っていた。毎日朝は7時丁度に起き、夜は11時には眠る。所謂、体内時計に沿った生活はまるで──


「小学生みたいな生活だよな、お前。」


廊下を歩く順也の背後から声を掛けてきたのは彼の友人、上沢悟であった。悟は順也のクラスメイトかつ同じ部活である文芸部に所属している。普段は仲のいい二人だが、今日の悟は声色に苛立ちを忍ばせ不機嫌そうな表情を浮かべながら順也の肩を腕で重くズシリと叩いた。


「お、おはよう、悟。えーと…昨日はその・・・申し訳ない!」


順也は悟の表情を見るまでもなく全てを理解し頭を下げていた。

悟はその様子を見るなり怒る気力を失ったのか力なくため息を吐いた。


「順也がさ、11時に寝ることは知ってたよ。でもまだ30分も過ぎてなかったじゃん!ってか、通話中のモンハンで寝落ちするか普通!?」


昨晩、彼らはモンタージュ・ハンティング、通称モンハンの通信をしていた。通話で互いにコミュニケーションを取りながら強敵を迎え撃つ。手に汗握る白熱したバトルの最中、悟に起こった悲劇こそ、「唐突すぎる戦友の音信不通」であった。正確には呼吸の音は聞こえるのだが、その音が聞こえたら最後、画面に映る同胞が動く事は二度と無くなるのである。


「とりあえず、モンハンで寝落ちされると悲しくなることがわかった。」


「そうなのか?」


「想像してみろ…BGMとSEの間に混ざる寝息を聞きながら一人黙々と敵を切り裂く俺の気持ちを。」


「うわ、なんか嫌だな……」


「お前いい加減にしろよ???」


特に変化のない平凡な朝。いつも通りホームルームを終え、昼休みが過ぎ、本日最終の六限の授業が始まった。しかしこの日、最後の最後で順也にとって一つだけ平常通りではなかった事が起こった。睡魔である。

昼食後の六限の授業は眠くなるものだが、彼の場合は無意識ながら秒単位で規則的な生活を送っているせいか昼間の中途半端な時間に眠くなることはまず無いのである。

寝まいとする必死の抵抗も空しく、遂に、教壇に立つ教師は勿論、隣の生徒ですら気がつかない程の一瞬の間、彼はうたた寝してしまった。



────

「お、おお!!おおおお!!!遂に、遂に召喚成功したわ!!!私の使い魔よ!!」


唐突に響く鼓膜をつんざくような叫声は順也を襲っていた軽い睡魔を砂塵と化して吹き飛ばした。

驚くよりも前にポカンとした。何が成功なのか何が使い魔なのか。

黒板にチョークを滑らせるハゲた数学教師の顔が、突如として意味不明な単語を並べながら感嘆するゴスロリ少女へと変わったら思考は容易く吹き飛ぶものである。

少女の声のボリュームに慣れてきた辺りで冷静になって辺りを見回してみる。

見慣れた教室は中程度の広さの部屋となり、家具やら小物やらはとにかく無茶苦茶に部屋の壁際へと寄せられていた。

それよりも順也を驚かせたのは部屋の床である。何故か正座する彼を中心に、周りは大小様々の見たこともない文字列や奇妙な図形の羅列、散乱する焦げた紙くず、ボロボロに朽ちた床etc……まるでRPGのダンジョンさながらのカオスを生み出していた。というより、彼からすれば中々に気持ちの悪い光景だ。

少女は長めのダークブラウンの髪をはためかせ胸を張り順也に視線を向けた。かっこつけているようだが、勢い余ったサイドテールの髪がその顔面にぶつかる様は何とも言えない間抜けさである。


「フフフフフ……混乱するのも無理は無いわ。今は何も考えずに喜びなさい。数奇なる運命を勝ち取り、我が下僕として迎え入れられる幸運を噛み締めなさい。」


一方で順也は少女が噛み締めているサイドテールの髪の数本が気になっていた。


「明晰夢。夢を自覚しながら見る夢か。普通に感覚もあるな。……これが俺の望む夢なら俺の脳内どうなってるんだろ……って事はちんまりゴスロリは俺の願望!?俺はロリコンじゃないぞ……妹の影響であれ……」


「・・・?夢のようでしょう?夢のような紛れもない現実よ。……そうね、貴方にはヴェートの名を与えましょう。二千年もの長き時の巡り合わせに感謝し我が下僕として存分に──」


「はいはい、そういうのいいから。とりあえずこの散らかった部屋なんとかしてよ。俺の夢なんだから居心地ぐらい良くしてくれなきゃ。」


少女の深紫の眼が光る。動じずに見つめ返す順也と少女。順也は平然としているが、少女の方は放心していた。


「・・・記憶が混濁してるのかな?とりあえず再召喚してみよ。」


「……。」


完全に素の口調が出ていたが、あくまでも設定は曲げないらしい。ただ、ここまで曲げない鋼の精神力には順也も天晴れであった。



────


「じゃあ問二を・・・北白川。……聞いてるか~?」


不運にも先生に指名されて目が覚めてしまった。


「あっ!すみません、聞いてませんでした。」


時計を見ると眠ってから五分も経っておらず、番書も殆ど進んでいなかった。とは言え順也にしてみると授業中に眠ってしまった上に夢まで見てしまったのは大失態である。

授業終了のチャイムが鳴ると案の定、悟が冷やかしにやって来た。


「おはよう、順也君。よく眠れたかな?」


「お陰様でよく眠れたよ。変な夢まで見たしな。」


「夢?面白そうじゃん。ちょっと聞かせてくれよ。」


悟は趣味で小説を書いている。恐らく順也の見た夢が気になる理由も小説のネタ探しなのだろう。文芸部に入った理由も順也は文章力向上の為なのに対し、悟は趣味の延長なのである。

夢の内容を話したところ、悟には中々の好評だった。


「魔方陣の部屋に中二病の女の子に遭遇ねぇ。もしや最近話題の異世界転生って奴?チート主人公誕生だな!」


「おいおい。目の前にいる俺は何者だよ。」


「予知夢って可能性もあるだろ?帰り道には気を付けろよ。特に交差点だ。くれぐれもトラックにだけは跳ねられるなよ?」


「トラック以外にも気を付けるのでお構い無く。」


とは言ったものの、授業中のうたた寝で見た夢にしては少々リアル過ぎる。明晰夢だったとは言え、夢の内容をここまでハッキリと思い出せるのも彼にしてみれば奇妙だった。

そんな思案を広げている間に、順也は無事に自宅まで辿り着いた。


「ただいま。」


「───!!」


返事は無かったがリビングの方から声が聞こえる。恐らく妹だろう。


「──瞬く刃は光を薙ぎ、込められし秘玉は闇を裂く。輝剣よ、我が貴き魂に呼応せよ!ソード・オブ・オレイカルコス!!」


「ただいま──!!」


「きゃあああああ!!!!?」


彼女は北白川理沙。弱冠十四才の自称魔法戦士である。つまるところ、そういうお年頃である。

誰もいない時のリビングや深夜の自室など、ブツブツと彼女の声が聞こえてくる時は決まって何かしらの呪詛を詠唱している。

未来に醜態と化すであろう一連の行動は家族全員にバッチリ聞かれているのだが、本人は気付いていない。

一番くじA賞の剣の玩具を天井に擦らない程度に高く掲げる姿は情けない事この上無かった。


「お、お兄ちゃん。今日は随分と早いね……」


「今日は顧問がいないからさっさと帰ってきたんだ。……まあ文章さえ書いていれば参加も必須じゃないしね。」


「そうなんだ。……あのさ。」


「ん?」


「誰にも言わないでね。」


「何を?」


「何って……そう、劇の練習よ!未完成の演技は見せられる物じゃないしね!」


これで誤魔化せていると思っている妹のお気楽さは見習いたい程である。

とはいえ、授業中に見た夢が妹の影響だとすると、まだ心の何処かで中二病が眠っているのかも知れない。


そして夜。翌日の時間割、スマートフォンの充電、歯磨き、風呂etc…諸々の支度を終えて時計はまもなく十一時の時を刻もうとしていた。

時間が経ち、その日見た夢は勿論、学校で居眠りした事すらも忘れかけていた。

順也はいつも通り指差し確認をするとベットの上に寝転がった。



──その時、時計の秒針は頂点を指した──


全身を包む暖かい感覚。今、順也は意識がない事を意識している。また明晰夢という物だろう。

ただ夢心地とは少し違う、妙に実態のある感覚を覚えた。登頂部に感じる重力。そう、彼は今座っているのである。


「──再召喚成功。不覚にも子供の姿になってしまった事を忘れていた。この姿では見覚えが無くとも無理は無い。どう?我の顔に見覚えがある筈よ?」


瞼を開くと、昼間のデジャブのような世界が広がった。今度は例の少女が彼の正面に顔を近付けていた。


「また出たな、中二病少女。」


順也の先と変わらぬ反応に、少女は遂に痺れを切らせた。


「リリアよ!リリア・メルト=シアー!リリアの名、メルトの姓、何よりシアーの階級!!二千年前に私に仕えていた身の上の貴方に知らないとは言わせないわ!!」


リリアと名乗る夢の少女は必死だが、何度も夢に出てきて大騒ぎされてはたまった物ではない。思えば、屈辱の授業中の居眠りも彼女の召喚術とやらの睡眠導入のせいに違いない。

そう思うと順也も腹が立ってきた。


「では存じ上げません!!!六限に引き続き人の夢で偉そうに!だいたい威厳もクソも無い偉そうなちっこいガキになんで俺が仕えなきゃならん!!俺の夢の住人ならもう少し謙虚な日本語を喋れ!!」


「無礼者!!それにちっこいって言うな!!!それに私は 二千年も復活出来ないでいたのよ!威厳を保つ余裕があったらこんなヒョロッヒョロの使い魔なんか召喚しないわ!!それにニホン語……?私たちはずっと『ダアト統一語』で話してるじゃない。訳の分からない事を言っているのは貴方の方じゃない!」


「ヒョロッヒョロで悪かったな!不満なら最初からゴリッゴリのムキムキマッチョでも呼べ!あーもう、こっちまで恥ずかしくなってきた。早く目覚めないかなー!!」


リリアは怒りを足音に込めながら歩きだすと、壁際に寄せられていたスタンドミラーを順也へと向けた。


「いい!?ヴェート、貴方は魔族の一人にして我が軍、『ケテルの金剛』の生き残りの筈なのよ!私の魔術に失敗は無いわ!」


銀色の髪、鋭い犬歯、そして深紫の眼。鏡の向こうに映る者、それは順也ようで順也でない、『ヴェート』であった。

唖然とした。自分が青ざめると鏡の中の魔物も青ざめた。そして瞬間、自然と体が動いた。


「……今更隠す?」


何よりも彼を驚かせたもの。それは全裸で少女の前で堂々としていた自分の姿であった。

リリアは恥ずかしい存在が何となく哀れに見え、クローゼットから男物の服を一式取り出すと、依然として素っ気ない顔で彼に投げ付けた。

渡された服も彼女に負けず劣らずのゴスロリ衣装だったが、今の彼にそんなことを気にする余裕は無かった。

暫くして、二人はようやく落ち着きを取り戻したが、それに伴い順也は怒りの感情がすべて焦燥へと変換されつつあった。


「俺が……悪魔…………?夢……なんだよな?」


順也は鏡を見ながらぶつぶつと不安を吐露していた。


「自己の喪失に加えて別人格の発生……手順も合ってるし、陣の魔力回路と流動属性もミスは無いのに。それにしても、さっきから夢じゃないって言ってるのに貴方も強情ね。とりあえず、状況の把握は貴方が落ち着いてからするとして……」


焦燥を隠せない順也ことヴェート。思う以上に動揺する使い魔に段々と罪悪感が沸いてきたリリアは一つ提案した。


「ちょっと外に出ない?貴方が本当にこの世界を知らないのなら、少しでも知る必要があるわ。ついでに買い物にも付き合って貰いたいしね。」


訳も判らぬまま手を引かれ、家の外へと飛び出したヴェート。

真っ赤な草原、美しい紫色に染まる木々。そして何より、空に浮かぶ二つの太陽。彼の知る世界の常識から逸脱した光景が波のように押し寄せて来た。


「『イールト・シトリフィス』。魔族と精霊の戦いの果ての世界よ。そして──」


胡蝶の夢もとい使い魔の夢で見る異界、シトリフィス。そこに差す二つの太陽が煌々とリリアを照らす。


「──私が作った世界。私が愛する世界よ。貴方にはこの世界がどう見える?」


彼女は子供らしく無邪気に手をいっぱいに広げて見せた。

その手は順也を導く少女の腕なのか、はたまた引きずり込む悪魔の腕なのか。今のヴェートには判断の仕様が無かった。

「もう少し夢を楽しむのも悪くない、か。」

とリリアの思うままに進むことにした。



──To be continued……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ