1.記憶の欠片
冒険者だったという話は、目を覚ましてから、というか意識がはっきりしてから、というかまあすぐに聞いた。場所も場所だったし。明後日の方では爆音が鳴りやまないし、吹き飛ぶ魔物の臓器やら人の足やら…吐かずに済んだのは私の昔取った杵柄というやつだろうか。覚えてもいないのにこんなところで…過去にもこういった経験があったらしい。
「まだ起きては!」
体を起こすとそばにいた医師が声をかけてきた。とりあえず状況が呑み込めていなかったので、「は?」と素っ頓狂な声をあげてしまった。そして、自分の様子を見て驚いた。包帯ぐるぐる巻き。ミイラか!
どうやら、戦いの最中に負ったケガが原因で気を失って、ここで治療を受けていた、ということなのだろう。
「ガーランドさん、まだ治療は済んでいませんので!安静にお願いします!」
ガーランド?なんだそれは。
「貴方の名前ではありませんか!しっかりしてください!」
どうやら私はガーランドというらしい。5分と経たずに自分の名前を聞いて、それが自分のものかどうかすらわからない。
「先生」
「なんです?ガーランドさん」
「どうやら私は記憶がなくなったようだ。」
「は?」
今度は医師が素っ頓狂な声を上げた。
治療を受ける間、事の経緯を教えてくれた。
「発見当時、近くにはオークロードの死骸が転がっていました。傷を見ると、あなたの武器の傷だということが分かりました。オークロードと討ち果たし、力尽きたかと思って脈を見たら、どうやら生きているようだったので、こうして治療した次第です」
ふむ。私はオークロードとやらを倒したようだ。ところで、オークロード?
「オークロードもわからないとなると、記憶がないというのは本当のようですね。オークロードというのは、オークという豚鼻の怪物を纏める親玉です。豚鼻が分からないかな…」
と医師は絵を描いてくれた。豚鼻は分かっていたが、幼少期の記憶は残っていた、ということが分かった。幼いころに、隣の家で豚を飼育していた。
「これがオークで…これが…オークロードです」
中々絵が上手いらしい医師(知らないものでもリアルに見えたりするが、この医師の絵はまさにこれであった)の、見ただけで分かるくらいの絵だった。他の負傷兵が見たところ、すぐに分かった上に「お上手な絵ですね。どなたが書かれたのですか?」と言っていたので、そう思ったわけだが。
見た目がいかついこのオークロードは、実際に相対してしり込みする者が多い中、私はきやつに立ち向かっていったという。勝ったからよかったものの、倒れていたということは負けかけだったのではないか?
元の私はなかなかに無鉄砲だったようだ。