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燭蛾  作者: 美輪神 龍也
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第51話 Mission complete

「ショーは中止になりました。係員の指示に従って入場ゲートに進んでください。繰り返します––––」

会場のアナウンスと被さるように、空港に続々と集まる救急車やパトカーのサイレンが幾重にも重なり鳴り響く。

空港の北にあるサウスウッド・ゴルフクラブのあたりから高く立ち昇る黒煙が見える。右翼のエンジンと機体の一部はゴルフ場に墜落していた。


セシル・エバンズは携帯で何度かアーロンに電話をかけてみたが、回線が輻輳ふくそうで繋がりにくく、アーロンは出ない。

そのうちに、アビエイターホテルの被害が大きいと耳にしたセシルは、まさかと思いながらもホテルに足を向けた。


ホテル周辺には白地に青で『DO NOT CROSS POLICE LINE』と書かれた非常線が張られ、何十台ものパトカーと救急車のライトが眩く周囲を照らす中、警官と救急隊員が慌ただしく行き交っている。

セシルが煌々と回転する救急車の白とオレンジのライトに向かっていると、セシルと後ろから声をかけられた。

セシルが振り返ると、ゼネラルマネージャーのベン・デイビスが「アーロンが……」と零したきり口を閉ざした。

「アーロンは?ベン!アーロンは?」

セシルはベンにすがりつき大声で叫ぶ。

「セシル…………アーロンは屋上で発見され、病院に向かっている……」

セシルは両手で口を覆い、はっと目を大きく見開くだけで言葉が出ない。

「……救命隊員が、蘇生措置をしながら、病院に……」

ベンは途切れ途切れに言葉をつなぐと、セシルの両手に小さなサテンのケースを握らせ、その手をやさしく包み込んだ。

膝の力が抜けたようにアスファルトにぺたんと座ったセシルは、まだ血が乾かないケースを、ゆっくりと開ける。

ふんわりとしたベルベッドの上に輝くブルーサファイアが、セシルの頰を流れる涙を青く光らせた。

そのとき、青い空からさーっと風が吹きわたり、–––– セシル –––– とアーロンの声が聞こえた。

セシルが見上げた空には無邪気なアーロンの笑顔が浮かび、アーロンから吹く風が、セシルの涙をそっと拭っていった。


※※※


四菱重工の武藤ら三人は大事故の渦中にいた。

本社や防衛省から電話やメールが相次ぎ、部長の三沢と課長の橋本が対応に追われる中、取締役の武藤はプレスセンターに大挙する世界中の報道陣に囲まれていた。

事故の原因が不明のため、武藤は事故の被害者とその家族にお悔やみを述べるだけで精一杯だった。

三沢や橋本が受けた連絡の中には、四菱の小型ジェット機YRJのキャンセルが相当数あった。


※※※


F36の爆発事故発生からおよそ一時間後の日本時間夜十時、隆はネットニュースで、この大惨事を知った。

慌ててテレビをつけると、どの局も夜のニュースで繰り返し概要を流している。

死者は十数名を超え負傷者も二百名以上ということ以外、日本人の被害者の有無も不明だった。


–––– 世界中が注目するエアショーでF36ライトニングを墜落させること。しかも四菱重工の自衛隊落札が決定した後に……。これが、argusの本当の狙いだったのか ––––


四菱重工名古屋の航空宇宙システム製作所が、およそ一年半前に、C&Cサーバーと不正な通信を行なっていた痕跡を隆は検出していた。

つまり、すでに一年半前から今回の事故は計画されていたことになる。

そして、おそらく、そのための隠れ蓑がクレイオスの事故だった。

隆の中で全てのピースがはまり、ようやく一枚の絵が完成したが、時すでに遅く、argusとレイセオンが仕組んだ陰謀は見事に計画通りに進行し、そして完了した。


端緒を掴んでいながら阻止できなかったことに隆が拳を握りしめ、慚愧ざんきの念に歯噛みしていた頃、argusの口座に報奨金の全額がビットコインで振り込まれた。


その額は日本円換算で二十億円にも及んだ。

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