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燭蛾  作者: 美輪神 龍也
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第49話 Take off

この日のイギリス・ファンバローは日本の秋口を思わせるほど涼しかったが、パブリックデイに湧く会場は航空ファンの熱気に覆われていた。

開幕を告げる何十発もの花火が打ち上がり午前十時に開場すると、エアショー目的のツアー客がどっとなだれ込み、常連のマニアは管制塔を目指して我れ先に走る。全ての航空機に指示を出す管制塔付近は絶好の観覧スポットだ。


青空を背にそびえる二五メートルの巨大な二塔のパイロンの向こうからレッドブルの派手なデコレーションを施した副翼機が猛スピードで疾駆し、機体を斜めにしてパイロンの間すれすれを駆け抜ける。

副翼機がそのままきりもみ飛行で飛び去り、宙返りで空に大きな円を描くと、口を開けて目で追っていた何万人もの観客からどっと歓声が上がる。

その目線の向こうから、世界で一番売れているプライベートジェット、フェノム300Eが空を横切る。

ファンボロー空港はビジネスジェット専用の空港で、敷地内のホテルに滞在するビジネスマン達も、羨望の眼差しでその姿を目で追う。

そこに交差するように日本のホンダジェットが北から南に飛び去ると、低い位置を人が乗ったドローンが横切り観客を驚かせる。

観客はみな上空を見続け、気がつくと首が痛くなっているほど、空を縦横に使ったデモンストレーションに魅せられていた。


十二時二十分を過ぎた頃、アーロン・ウィリアムズは敷地内に建つアビエイターホテルで、予約していた婚約指輪を受け取っていた。

プロポーズはしたが、指輪はまだ渡していない。

ダイアナ妃が好んで身につけていた、ロイヤルブルーのサファイアをあしらったリングだ。

ダイアナ妃に憧れる恋人のセシルは、私服もダイアナを真似てポルカドット柄を好んで着ている。

アーロンは、指輪を受け取ったセシルが喜ぶ姿を想像して、目尻を下げた。

ただその前に、自分へのご褒美とばかりに、アーロンはホテルの屋上に出た。

F36ライトニングの勇姿を出来るだけ近くで見るためだ。

もちろん、ショーのゼネラルマネージャー、ベン・デイビスの許可は得ている。

十三時のフライトまであと二十分。

アーロンはそわそわしながら、F36の登場を待った。


その頃F36のパイロット、キース・ジョンソンは、コックピットに乗り込むとキャノピーを降ろした。機体の外のエンジニアがタラップを外し、遠くに走り去る。

キースが分厚いグローブをはめた手を伸ばし主電源を入れると、インパネを彩るLEDのインジケーターがヘルメットや上部のキャノピーに目まぐるしく映る。

キースは機体正面のヘッドアップディスプレイで、機体に異常がないことを確認すると、与圧服のホースを機体に繋ぐ。

補助動力のハンドルを引きエンジンがアイドリング状態になったことを確認すると、補助動力を左右のエンジンに繋ぎ、F36のエンジン回転数を上昇させる。

そのまま機体を滑走路に沿ってゆっくりと直進させ、出力を上げて行く。

ブレーキで速度を調整しながら、管制塔の指示を待つ。いつでも飛び立てる状態だ。


–––– ハリケーンキース、レッツゴー・テイクオフ!––––


インカムで管制塔の許可を確認したキースはアフターバーナーを点火し、加速を身体で受け止めながらレバーを引き機体を斜めに浮き上がらせた。

視界から地平線が消えると白い雲と青空に向かい、キースはさらに上昇を続けた。


一分前に飛び立った九機のレッドアローズも、一糸乱れぬ編隊を組みながら、キースが操縦するF36との合流するタイミングを計っていた。

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