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燭蛾  作者: 美輪神 龍也
42/53

第42話 算段

西が双眼鏡で監視を続けていると、大川がソファから腰を上げるのが見えた。

目隠しの男も立たされ、背中を押されながら部屋の入り口の方に歩き、大川たちが西の視界から見えなくなった。

何か動きがあるかも知れないと察した西は、慌ててビルの一階まで降りると本部側の道路まで走り、十メートルほど後ろの電柱の陰から本部の入り口の様子を伺った。西からは本部の前に路駐したバンの後部が見える。


しばらくすると、入り口から出て来た黒木や柴崎ら数人がバンに乗り込み、続いて目隠しの男と最後に大川も乗り込んだ。右のウィンカーが雨の中点滅し、バンが走り出す。

西も水を弾きながら走って追いかける。

バンが靖国通り手前の赤信号に捕まっている隙に、西はタクシーを捕まえて後部座席に乗り込んだ。


英二が銀座で丸ノ内線に乗り換え新宿に向かっていると、場所を移動するが一先ず新宿に来て欲しいと西からメッセージが入った。

新宿で降りた英二が西の二通目のメッセージを開くと位置情報の場所が貼り付けてある。

英二は住所をタップし、地図の目的地に足を向けた。目的地はオレオレ詐欺のマンションの近くだ。



英二が十階建てビルの非常階段を上がると、四階の踊り場にしゃがみ込んだ西が双眼鏡を覗き込んでいる。

向かい側はオレオレ詐欺のマンションだ。

「伊吹さん悪いな、土砂降りのなか」

西はロッカーの鍵を英二に手渡し、すまなかったと頭を下げる。

「あんたが番頭だったのか……」

「……伊吹さん、オレを憎くてしょうがないだろう……ただ、少し待ってくれ」

復讐を終えたら自分を好きにしてくれとでも言いたいのだろうが、雨で冷えたせいか艶の悪い肌の唇は紫色で、目の下を濃い隈が縁取る。悲壮な姿の西に英二は返す言葉がみつからなかった。

「向かいのマンションにいるのか?」

「そうだ。リンを殺せと指示した野郎だ……」

英二も姿勢を低くし、狭い道路を挟んだ向かいの角部屋に目を向ける。

雨で濡れた窓ガラス越しに、三人ほど人影が見える。背中を向けていた男がおもむろに振り返り、窓を開け、空を見上げる。

英二が咄嗟に頭を下げ、手摺り越しに部屋の中を見ると、目隠しをされ椅子に座る男の姿を捉え、眼が止まった。

「貸してくれ」

西の双眼鏡で確認する。

–––– 隆君? ––––

椅子に座り顔は下を向いているが、間違いない。

シャツにも見覚えがある。

なぜ隆が新道組に捕まったのか、意味がわからない。英二自身は詐欺を阻止した件で新道組に恨みを買っているが、自分と隆の接点など連中に知られるわけがない。

隆との連絡は電話かメールで、頻繁に会うわけじゃない。仮に新道組が北千住の家を探し出したとしても、そこから隆に手が及ぶはずがない。

双眼鏡を片手に、じっと動かない英二に西が気づく。

「……どうかしたのか?」

「妹の婚約者だ………」

え?と西が意味を探る。

「どいつだ?」

「あの目隠しされてるのが、隆君だ……」

「なにっ?間違いないのか?」

「……ああ、間違いない」

「そのタカシ君は、組関係なのか?」

「いや、堅気だ。暴力団なんかとは無縁だ」

「それがなんで……?」

英二は俺にもわからないと首を振る。

「伊吹さん、助けないと不味い……」

向かいのマンションは西が逃走して以降は使っていないはずだ。そこに捕まえた奴を目隠しで連れて来た目的は一つ、殺すことだ。

「西さん、奴らは何人いる?」

「……五、六人だと思う。ただ、何人かは銃を持ってるはずだ……」

「あの部屋は、あんたが詐欺に使ってた部屋だよな?」

バツが悪そうに西が頷く。

「あ、伊吹さん、これがある」

西がバッグを開けて中を見せる。ドンキホーテで双眼鏡や雨合羽と一緒に買ったものだ。

「使い途は考えてなかったけどよ、使えそうだな」

英二と西は階段の踊り場で、隆を救うための算段を練った。

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