第39話 As soon as possible
隆が通信ログにハッキングの痕跡を発見してから数時間後、レイセオン社の幹部宛にargusからメッセージが届いた。
『Please sweep asap』と一行のみで、横尾隆の顔写真、会社名、会社住所、自宅の住所が記載されたプロフィールが添えてある。
メッセージを一読した幹部は左手の親指を立て、首の前で右から左に搔き切る真似をすると、メールを転送した。
与党代議士森川の秘書林田は、レイセオン幹部からのメールを確認するや、新道組の大川に電話を掛けた。
「林田です、先日はお世話になりました」
「いや、こちらこそ」
「じつは折り入ってご相談がございまして……それも、急を要します」
「何かお困りですか?」
「ええ……先生は先ほど、夕餉に魚を召し上がったんですが、どうやら喉に小骨が刺さったようでして、気分を害されていまして……」
「ほう、それは宜しくない……」
「先ほど大川さんにメールを送りました」
大川はメールを確認する。
「……まだ、稚魚ですな。これを取り除いて欲し
いと?」
「ええ。As soon as possible、可及的速やかにと、先生も望まれています」
「なるほど、わかりました。早速手配いたします……ところで、大阪の提案はご覧いただけましたか?」
「ええ勿論。先生は偉くお気に召して、早速に進めろと」
「ありがとうございます。さすが林田さん、頼りになります。稚魚の件はお任せください。しっかりと駆除いたします」
「よろしくお願いします」
数時間後、四菱ホールディングスの周辺を一台の黒いワゴンが徘徊し、社員通用口を見通せる路上に停車した。
深夜一時近くになり、写真の男、横尾隆が通用口から出て来る。
「あいつだ」
ワゴンがゆっくりと動き出したとき、横尾隆は呼んでいたタクシーに乗り込み、ワゴンの脇を通り過ぎた。
黒いワゴンは、隆の自宅マンションの前まで尾行を続け、マンションの入口が見えるコインパーキングに駐車し、そのまま夜が明けるのを待った。




