第34話 イギリス・ファーンボロー
アーロン・ウイリアムズは、二週間後に迫った『ファーンボロー国際航空ショー2018』の開幕準備に追われていた。ただ、ここ三週間ずっと興奮気味で、嬉しい忙しさだ。
一年毎に、イギリス、ベルリン、パリで開催される航空見本市は、今年、イギリスのファーンボロー国際空港で開催される。
この世界最大規模の航空宇宙ビジネスショーには五十二カ国から一千五百社が参加する。
日本からは富士重工、IHI、四菱重工などが出展し、アメリカはボーイング、ロッキード、そしてレイセオンなどの軍需産業が顔を揃える。
民間、軍用の新型航空機や宇宙関連製品の商談が目的で、エアバス、ヘリコプター、戦闘機の実機や、エンジン、鋼材、通信機器まで出品され、七日間の開催でおよそ八万人が来場する。
そのうちの五日間は商談会で、残りの二日間はパプリックデイとして、一般参加者も参加できる。
そして今年のパプリックデイの目玉が、イギリス空軍のアクロバットチーム”レッドアローズ”によるエアショーと、F36ライトニングによるデモ飛行だ。
アーロンの幼馴染で同僚のセシル・エバンズが、東京ドーム二つ程の広大な屋内展示会場を入念にチェックしながら確認する。
「アーロン、いよいよ来週には、レイセオンかヨツビシ、何れかのエンジンに決まるのよね」
「イエス!レイセオンは米軍で培ってきた安定感、ヨツビシはジャパンクオリティの高性能エンジン。ニホンのエアフォースがどちらを選ぶか楽しみだよ」
「アーロンの予想は?」
「うーん……それはここだけの話、ヨツビシ」
「やっぱり」
「だってセシル、パブリックデイのエアショーで、技術の粋を集めたニホンのエンジンを積んだ、F36が観れるんだよ!想像しただけでワクワクするよ!」
アーロンは子供の頃から航空機オタクで、ジャパニメーションも大好きなインドアな青年だ。
そんなアーロンが、子供の頃からの夢だった、ファーンボロー航空ショーの屋内展示チーフとして重要な仕事を任された。
ニホンは、神と崇めるオサム・テヅカやAKIRAのオオトモ、そしてハヤオ・ミヤザキを産んだ国。
今年公開した映画、スピルバーグのレディプレイヤーワンは、4DXで五回も観て、セシルに呆れられたほどだ。
そんなニホンのエンジンを搭載した、世界最速の戦闘機が滑空する姿を、この目で見ることが出来る。
これほどテンションが上がったのは、セシルにプロポーズをして、OKを貰って以来だった。
「セシル。ショーが終わったら、ゆっくり二人でバカンスを楽しもう」
「うん、アーロンが大好きなニホンに行くの楽しみにしてる」
そこに屋内展示のゼネラルマネージャー、ベン・デイビスが通りかかる。
「どうだいアーロン、調子は?」
「あ、ベン、大丈夫です。今のところ問題ありません」
ベンが安心した様子で、会場をぐるりと見渡す。
ジェット機やヘリコプター、ロケットエンジンのモノコックなど、大型の展示物はすでに設置済みで、それらを囲むように大小の企業ブースの設営が始まっている。空港スタッフの他にも多くの内装業者が大きなステージの周囲で慌ただしく動いている。
「アーロン、セシル、来週からいよいよ出展企業のスタッフも入り、もっと忙しくなるが、二人とも頼んだぞ」
「はい!任せてください!」
航空ショーの閉幕後に式を挙げる二人は、その後も広い会場を丹念に確認して廻った。




