表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
燭蛾  作者: 美輪神 龍也
30/53

第30話 彫金

中井を離れた英二と西は、英二の判断で、南千住のビジネスホテルに入った。南千住は山手線の外側に位置し、中井からは二十キロほど離れている。

英二が住む北千住とは荒川を隔てて一駅の距離だ。


狭いワンルームのベッドに腰掛けた西は、煙草を咥え、英二にも箱を向ける。

「いや、俺はやらない。構わず吸ってくれ」

頷いた西はポケットを探り出した。

「これで良ければ」

火を探していると察した英二が、ジッポのライターを投げる。

キャッチした西は火をつけようとして、手に馴染む感じに気付く。

銀無垢のジッポの蓋の上側に”L to M”と彫金が施されている。

探していた、リンがプレゼントしたジッポだった。

–––– なんで、この男がこれを……?こいつは何者なんだ?……

西は動揺を隠しホイールを回して火花を散らそうとするが、指の力加減が上手くいかず、何度目かにようやく着火した。


「あ、あんた、名前は?」

「伊吹だ。あんたは?」

「俺は…西」

「……西さん、彼女のことは…残念だったな……」

西はカーペットの染みにしばらく目を落とし、ボソリと口を開いた。

「–––– 俺のせいで…リンを殺した……」

「……あんた、復讐しようとか、考えてないだろうな?」

西は急に顔を上げ大声でまくし立てる。

「考えるに決まってんだろ!全員ぶっ殺す!リンが浮かばれねぇだろ!」

「そうか。ただその身体じゃ、返り討ちに遭うだけだろう」

「ああ…今すぐはやらねぇ。隙を狙ってやる。じきにだ……ぶっ殺す」

西は指先に怒りを込め煙草を揉み消す。

「伊吹さん、あんたも新道組と揉めてんのか?」

「いや、俺は、ばあちゃんの二百万を取り返しに行っただけだ」

西が煙草を咥えながら聞く。

「二百万?……何の金だ?」

「詐欺に遣られたんだよ。オレオレ詐欺」

火をつけようとした西の動きが、一瞬固まる。

「あの新道組がやってる詐欺に、コツコツ貯めてきたばあちゃんのお金を、騙し取られた……」

「そ…そうなのか……」

「ああ。必ず取り戻す。それだけだ」

真っ直ぐに迷い無く言い切る英二の眼を、西は直視出来なかった。

「……でも伊吹さん、相手はヤクザだ。あんた、怖くないのか?」

「いや、ヤクザを怖いとは思わない」

英二の半端ない強さを目の当たりにしていた西は頷いたが、ひとつ疑問が浮かんだ。

「だったら、あんた怖いもん無いのか?」

「いや…俺が怖いのは……」

言いかけた英二が壁時計に目をやる。深夜の十二時を回ろうとしていた。

「もうこんな時間だ、俺は帰る。明日、包帯とか持ってきてやる」

英二はそう言い残し、部屋を後にした。



独りになった西がジッポの彫金を指先でなぞっていると、リンと過ごした思い出が脳裏に溢れてきた。

自分に優しくしてくれた、ただ一人の人だった。

その人はもういない。

優しく微笑んでくれたリンは、もういない。

どれほど足掻あがこうが、二度とリンに会えない。


ベッドに浅く腰掛け背中を丸めた西は、煙草を咥えたまま火をつけることなく、ジッポを握りしめた。

ジッポの蓋は小刻みに震え、カチャカチャカチャと鳴り続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ