第26話 潜伏
同じ月曜日の午後、新道組本部の会議室に、東西南北のブロック長四名と、所属エリアの番頭が勢揃いしていた。総勢二六名だ。
しかし、午後一時開始予定の成果報告会が一時半になっても始まらず、事務長大川の怒りは極限に達していた。
「おい!西はどうした!柴崎!」
「はい!電話を入れてますが、まだ連絡が––––」
大川が投げつけたガラスの灰皿が、木製のテーブルでワンバウンドし、ガランガランと大きな音を立てた。
汗ばむ柴崎の顔が灰まみれになり、青ざめる。
「す……すいません!」
切れると容赦無い大川の憤怒に、全員心臓が縮み上がり、柴崎から目を逸らす。次は灰皿で滅多打ちにされ、病院送りにされてもおかしくない。ここにいる全員が、生きた人間が大川の手で虫の息になる姿を見てきた。皆、自分の名前を呼ばれないことだけを願い、身体を硬直させた。
板橋区のエリア長が、慌てた様子で柴崎に耳打ちする。
「柴崎さん……たった今連絡が入りまして、西の住所は、全然違う奴が住んでるそうです……」
「なに?……ウソだろ……あの野郎…」
「柴崎ぃ!」
ビクッと反応する。
「は、はい事務長」
「柴崎、これは城北全員の連帯責任だ。お前らは今すぐ、西の身柄押さえろ。回収班も全員使え。野郎と七千五百万、きっちり俺の目の前に持って来い。いいな」
柴崎がゴクリと喉を鳴らす。
「は、はい……おい!行くぞ!」
柴崎と城北のエリア長たちは、逃げるように会議室を出て行った。
※※※
西守は中井のマンションで、じっと息を潜めていた。もちろん仕事用のスマホは電源を切った。
おそらく何十件もの着信や留守電が入っているだろうが、もはや関係ない。西はスマホをバッグの札束の奥に押し込んだ。
西は宅配便の配達員が来ると、慎重にインターフォンのモニターで顔を確認してから鍵を開け、食料の調達で外に出るときは帽子を深く被り、早朝か深夜にコンビニでまとめ買いをし、極力人目を避けて行動した。
リンには、組同士の抗争になったため自宅待機の命令が出たと話し、組に追われていることは隠した。
用心深い西は、組の誰にも家を明かしていない。下手に動かなければ当面は安全だと踏んだ。
ただ、ここ中井と、新道組が仕切る歌舞伎町界隈とは、車で一五分程度の距離だ。
自分一人ならどうとでも逃げ果せるが、身重のリンがいる。
逃げ延びる手立てを考えていた西は闇サイトにアクセスし、偽の戸籍とパスポート、念のため改造銃を注文した。
制作には二日要するらしく、水曜日まで西は、じっと息を潜めた。




