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燭蛾  作者: 美輪神 龍也
17/53

第17話 接触

香織が事故に遭った翌朝、英二はカプセルホテルから聖路加中央病院に向かった。

昨日、一旦帰宅した際にラーメン屋に寄り事情を話してあるので、今日も一日休める。

病院に着いた英二は、二階の集中治療室に足を向ける。

香織を見舞えればと思っていたが、容態が安定するまでは、たとえ親族であっても入室は許可されなかった。


病院を後にした英二は地下鉄を乗り継ぎ、高田馬場で山手線に乗り換え、新大久保で降りた。

南に向かい十五分ほど歩き、歌舞伎町にある稲荷鬼王神社いなりきおうじんじゃに足を踏み入れる。

この神社の撫でまもりは、病気平癒びょうきへいゆの御利益があるとされ、お守りで身体の悪いところを撫でると、病気が回復すると言われている。

お賽銭を託し、香織の回復を願った英二は撫で守りを頂くと、次の目的地に足を向けた。


神社から五分ほど歩くと、大久保中央公園が見えてきた。

新宿区百人町にある大久保中央公園は、周囲をビジネスホテルや雑居ビルにぐるりと囲まれ、そこだけが周囲から浮いた感じだ。

意外に広い公園では、若者がバスケットボールに興じている。


英二が正面の入口から入ると、すぐ右手の細い木の周囲に、スマホに夢中の若者が四、五人、所在無げに立っている。ほとんどが大学生風だ。

英二が近くで様子を見ていると、奥の喫煙ブースから、肩に黒いバッグを掛けたスーツの男が、こちらに向かって来た。

「求人見て来た人、集まって」

若者がスマホから顔を上げ、男の元に集まる。

英二も、その輪に入る。


男がさっそく説明を始める。

「仕事は、指示された家に行って、お金を受け取るだけ。たったこれだけです」

「指示は、この携帯に出します」

男はバッグからガラケーを取り出し、左右に動かす。

「今日応募してくれた人には、この携帯を無料で貸すので、仕事の連絡用に使ってください」

「それぞれ、都合のいい平日を言ってくれれば、その日に仕事をして貰います。一日だけでもオッケーです」

「ここまでで質問は?」

メガネの若者がおどおどしながら手を挙げる。

「はい、あの、時給は幾らですか?」

「あ、この仕事は時給じゃなくて、完全歩合制。受け取った金額の五パーセントが皆さんの報酬です。なので、百万だと五万、二百だと十万」

「お金を受け取るだけで?」

「そう、受け取るだけ。受け取った金は、別のスタッフに渡して貰います。そのときに、五パーセントをその場で現金で渡します」

「マジ……スゲェ……」

英二の隣の若者が、思わず漏らす。

普通のバイト一月分の収入が数分で手に入る。しかも現金取っ払いだ。

「応募する人は、身分証を見せて、都合のいい曜日、板橋区とかの希望エリア、連絡先の携帯番号をこの用紙に書いたら、ガラケーを渡します」

若者たちに混じり、英二もガラケーを受け取った。

「これで解散しますが、渡した携帯は仕事以外では、絶対使わないように。使わない時は電子レンジに入れるか、電源オフで」


若者は散り散りに公園から居なくなった。

集まった全員が躊躇ちゅうちょなく、オレオレ詐欺の受け子に応募した。

おそらく全員が、詐欺の片棒を担ぐ内容だと知っていて、申し込んだ。


公園の奥からは、同い年くらいの若者が、バスケットに熱中する歓声が聞こえてくる。

対極にいるような二種類の若者を目にした英二は、複雑な心持ちで公園を後にした。

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