教会編 46話 アブゾル降臨
誤字報告いつもありがとうございます。
「第一部隊は、左へまわれ!! 第五部隊は後方で民間人の避難を補助しろ!!」
私はブレイン。元部下であり、今はファビエ王国の要職に就く友人ケンより、教会軍が我が国へと進行中という報告が入った。
我が軍も先遣隊として数人をアブゾールに派遣していたのだが、レティシアの御付きのカチュアの話によると、アブゾールにいる者は全て操られている可能性が高いとのことだ。
つまりは、我が軍から送り込んだ者も、操られたか、殺されたかの二択だろう。
しかし、ケンを疑うわけではないが疑問もある。
教会軍と言えば、エラールセ皇国との戦争で、枢機卿が処刑され、壊滅に近い被害が出たと聞いていた。
それにもかかわらず、この短期間で進軍? アブゾルが魔族を都合のいいように作っていたように、神兵も新たに作ったのか?
答えのない疑問を考えていても仕方が無い。
魔族と人間ならば、ほぼ間違いなく魔族が勝つだろうが、私はもしもの時のことを考え、エラールセに援軍を要請する。
今更だが考えてみればおかしな話だ。
少し前までは人間と魔族は教会……アブゾルの教えでいがみ合っていたというのに、今は援軍を頼むことができる。魔族と人間は手を取り合えることが証明された。
これも全てレティシアのおかげというわけか……。
アイツの性格が無茶苦茶なせいで、あまり感謝などはしたくないが、今のこの状態はレティシアが作り出したものだ。
アイツは今、エラールセにいるはずだ。もしもの時はアイツに介入してもらうしかない。
「ブレイン様!! 教会の連中が見えてきました!!」
私は高台に上がり、教会軍を見下ろす。
数は少ないが妙に魔力が荒れた軍勢だ。アレが神兵か……。
エラールセを襲った神兵とは、また違うみたいだな。少なくともあちらにいた神兵は、人間だったはずだ。
「おい。クランヌ様に報告だ。神兵の強さを三倍以上に上方修正……あれは人間じゃないと伝えろ」
「え?」
「アレは、私の魔獣族に匹敵……いや、アブゾルのやりそうなことを考えると、生命力と理性を全て戦闘能力に振っていると思った方が良い。そう考えれば魔獣族よりも遥かに厄介な戦力だ」
チッ……。
アブゾルの奴は本気の様だな。
しかし、あの軍勢を見る限り、アブゾルが想定している魔族の軍勢はレティシアとかかわる前の我が軍の戦力だ。
レティシアに鍛えられた今の戦力ならば、そこまでの被害は出ないはずだ。
「報告します!! ハヤイ様の部隊が教会軍との交戦を始めました!!」
何? ハヤイには諜報を任せていた筈だ。何故、交戦になる?
「詳しい報告を頼む」
「はい!! ……」
報告を聞いて頭が痛くなってきた。
ハヤイは手柄欲しさに、防御の薄い側面からならば突破できると考えたらしい。
ハァ……。
仲間にこんなことは言いたくないのだが、下らないプライドのせいでレティシアからの特訓を拒否したまでは別にいいが、自身の昇格の為に部下まで危険に晒すとは……。
「至急パワーの軍を救援に向かわせろ!! 私も出る!!」
私は、魔獣族兵の前に戻る。
彼等は突然変異で生まれたアブゾルの被害者と言っていい存在だ。私を慕ってくれているが、その彼等を利用しようとしているのだ。
「済まないな。本当はお前達を戦場に……」
「止めてください。ブレイン様は俺達の寿命を延ばしてくれました。感謝こそすれど恨むなどありませんよ。これは俺達全員の総意です」
「あぁ、分かった。私も前線に出る。行くぞ!!」
私達が前線に出てしばらく経った。
正直、見誤った。戦況としては、かなり不味い状況だ。
この改造された神兵の力は数こそ少ないが、一体一体がかつての私達くらいの強さだ。いくらレティシアに鍛えられているからと言って、これを相手にするのはキツイ。
恐らく改造された神兵は、この戦争が終わった後すぐに死ぬだろう。そのくらい無茶な改造をされている。
私は魔族だ。だから人間にそれ程の思い入れもあるわけではないが、これが自分を信じた人間にたいしてすることか?
「一旦退け!! 奴等は普通じゃない!!」
後方から声が聞こえる。この声はクランヌ様か? 何故、あの御方が前線に?
私は後方を見る。
そこにはマジックとクランヌ様、それにパワーが三人で神兵を薙ぎ払っていた。
マジックは私に近付き、「良く堪えた。後は俺達に任せろ」と言ってきたが、私にも意地がある。
「私も参加する!!」
「ダメだ!! お前はエスペランサの頭脳なんだ!! 最悪俺達に何かがあってもお前が生きていればエスペランサは生き残る!!」
な、なにを!? 私が言い返そうと一瞬空を見た。
空には、一人の人間の少年が浮いていた。
な、何者だ? あの圧倒的な存在感は!?
「初めまして、魔王クランヌ君。君は本当に愚かだよ。飼い主であるボクに逆らうなんてね!!」
飼い主? ま、まさか!! アレがアブゾルなのか?
レティシアは髭爺と言っていた。確かにカチュアから少年に化けているとは聞いていたが、アレがそうなのか?
「久しいな。アブゾル」
「様を付けろよ。君は僕の作品なんだからね」
アブゾルが手を翳すと闇で出来た槍がクランヌ様を襲うが、パワーとマジックがそれを叩き落とす。
「意外だね。闇属性なら効かないと思い込んで、喰らってくれると思ったんだけどね」
「よく言う。私に闇属性の弱点を仕込んでいることに気付いていないと思ったか?」
「あはははは。あの役立たずの勇者とは違うね。さて、結論から言うよ」
結論だと?
「僕はこの世界を破壊する。もう要らないんだ。ここにいる者全て死ね!!」
アブゾルは両手を挙げて、巨大な魔力球を作り出す。
あの魔法は……!?
「これを防げたら命は助けてあげるかもしれないよ?」
アブゾルは両手を私達へと向ける。その動作と共に魔力球が私達へと襲いかかる。
これは……防げない!?
だが!!
私は、三人の前に出て魔力の壁を作る。
こんなものでどこまで耐えられるかは分からないが、何もやらないよりかはマシだ。
「ブレイン!!」
クランヌ様が私の魔力に自身の魔力を上乗せしてくれる。
これなら防ぎきれるか?
魔力の壁と魔力球がぶつかりあい大爆発が起こる。
私達は何とか爆風の被害から逃れることは出来たが、教会軍である神兵達は全滅している。
私達の後方にあるエスペランサも無事だ……良かった。
「へぇ……防ぐとはムカつくねぇ……」
アブゾルは私達を睨みつける。
私達は防いだとはいえ、間近かで爆風を受けた為、ボロボロだ……。
「本当に薄汚いね……そんな汚らしい魔族は死ぬといいよ」
アブゾルは、二発目の魔力球を作り出す。
「キサマ!! 神が嘘を吐くのか!!?」
「あははははは!! 何を今更。ボクがこの世界で一番正しいんだよ? ボクが死ねと言ったら死ななきゃいけないんだ」
こ、こいつ……。
命に代えてもエスペランサとクランヌ様は守る。
私は、何とか立ち上がる。パワーとマジックも同じ気持ちみたいだ。
「あははははは!! じゃあ、バイバイ!!」
アブゾルが魔力球を放った。
く、クソ!!
私は魔力の壁を作ろうとするが魔力が足りない。
せめてクランヌ様だけでも!!
「よく頑張りましたねぇ」
え……?
私達の前に立っていたのは、レティシア。
レティシアは、手をグルグル回している。何をするつもりだ?
「えい!!」
レティシアが放った拳は魔力球を殴りアブゾルへと押し返した。
「返しますよ」
「な!!?」
魔力球はアブゾルに直撃する。これでアブゾルを……。
倒せるわけがないか。
爆風が止むと無傷のアブゾルが浮いていた。
「久しぶりですねぇ……髭爺」
「れ、レティシアぁああああ!!」
次の話からレティシア視点に戻ります。
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