教会編 44話 アブゾルの言葉
誤字報告、いつもありがとうございます。
しかし、僕だの俺だの一人称がごちゃごちゃしてて分かりにくい……。
目の前にいる少年がアブゾル?
どう見ても普通の少年にしか見えない。
それに俺の記憶にあるアブゾルとは姿が違う。まさか、魔王レティシアが倒したアブゾルは、偽物だったとでもいうのか?
それとも……この少年の姿が本当のアブゾル? もしくは自ら姿を変えている?
混乱しそうだ……。どうなっている。
「君が神・アブゾルだというのか?」
「そうだよ。記憶が戻っているんだろう? タロウ。ボクの計画よりも早く記憶が戻ったみたいだね」
ど、どういうことだ?
アブゾルは僕の記憶を戻すつもりだったのか? わざわざ記憶を消したというのに、何故だ?
「あぁ、ボクが記憶を消しておいて、何故戻すのかを疑問に思っているね。そうだなぁ、だってその方が楽しいだろう?」
「た、楽しいだと?」
こ、こいつは、僕を何だと思っているんだ……。
僕は怒りが込み上げてくる。だけど、今は仲間の命を守らないと……。
そのためには、何とか逃げ切らないといけない。
す、少しでも時間を稼ぎたい……どうする?
「そうだね。話をしよう。聞きたいこともあるだろう?」
「な!!?」
「時間を稼ぎたいんだよね? でも無理だよ。転移魔法は発動しない。神から逃げられるとでも思ったのかい?」
僕はジゼルを見る。
ジゼルの顔が青くなっている。まさか、転移魔法に必要な魔力を練り上げられないのか……?
クソっ……、考えろ……。
「まぁ、いいよ。逃げようと思うんなら逃げる努力をすればいい。その方が僕は楽しい。ただし……」
アブゾルが手を翳すと、僕の足に光の剣が刺さる。
「ぐぁああ!!」
「痛いだろう? 勇者は光属性に弱いんだよ。魔王の闇の属性を無効化するために、そう作ったからね」
「つ、作った? ふ、ふざけるな……人間を何だと思っているんだ……」
「人間をどう思っているかだって? おもちゃかな? さて、お話の続きをしようか? エレーナ、タロウを癒してやってもいいよ。長く生きて貰った方が、僕の楽しみの時間は増えるからね」
弄んでやがる……。
しかし、どうにか逃げる方法を考えないと……。
「あ、アブゾル!! 答えろ!! 僕を召喚した後にソレーヌ達、彼女達に何をした!!」
「君の都合のいいように性格を弄ったよ? それがどうかしたのかい??」
アブゾルの言葉に、仲間の三人は青褪める。
「ふざけるな!! 俺はそんなことは望んでいなかった!!」
「君は深層心理というのを知っているかい? 君が望んだんだよ。ボクは君が本能のまま、楽しめるように作り変えてあげたんだ、感謝して欲しいね。君の体も召喚される前より若返っていただろう?」
俺が本能で望んでいた?
嘘だ!! そんなことは望んでいない!!
俺は……俺は……。
(あぁ~。親もいねぇし、犯罪でも起こしてやろうかなぁ……。どうせなら、強姦でもするか? 俺も楽しいしなぁ……)
な、なんだ? い、今の下衆な発想は……? あれが、この世界に来る前の俺?
う、嘘だ!!
「いやぁ、面白かったよ。君達が盛っている姿は本当に滑稽だった。君は獣のように腰を振るし、あぁ、僕の分身体も君と盛ったっけ? あの時は本当に面白かったよ。じじい相手に腰を振っているんだからね。まぁ、僕としては、君達の記憶が戻った後、殺し合いをしてくれることを望んでいたんだけどね。そんなに都合よくはいかないらしい」
「な、何を言っているのよ!! 人を何だと思っているの!?」
この下衆なのが神だというのか?
神は人間を救うんじゃないのか? こいつの言葉を鵜呑みにするのなら、こいつは人間を弄んでいるんじゃないのか?
「だからさっきも言ったじゃないか。弄んでいるんだよ? 君達、人間の子供だっておもちゃで遊ぶだろ? 同じだよ」
「な……!?」
「あぁ、驚いたかい? 自分が考えていることが読まれているのに」
僕は驚きを隠せなかった。
こいつが心を読んでいるのなら、僕達が逃げ切ることは……。
「あぁ、無理だね。ボクは君達を作ったんだよ? 君達の考えなんて手に取るようにわかるよ」
アブゾルが手を上にあげる。その瞬間、右腕に激痛が走る。
何が起こった? 僕が右腕を見ると、そこにあったはずの僕の腕が無くなっている。
「あぁあああああああ!!」
「「「「「た、タロウ!?」」」」
仲間達が僕に駆け寄る。が、アブゾルが間に入る。
「ダメじゃないか。君達を守る為にタロウは傷ついているのだから」
「え?」
クソっ……。僕の考えていることがわかる以上、僕達にはどうしようもない……のか?
「さぁ、話の続きをしようか。君の疑問にすべて答えてあげるよ。あぁ、口にしなくていいよ。読めるからね。どうしてそんなことを教えるのかだって? 楽しいからだよ」
こいつは完全に僕達を舐め切っている。ぼ、僕だって勇者だ……絶対に殺してやる。
僕は、左腕で剣を握る。どうせ僕の考えもアブゾルには筒抜けだろう。
「アブゾルぅうううううう!!」
僕は最後の力を振り絞ってアブゾルに斬りかかる。が、アブゾルは片手で僕の剣を止め、自分の剣の腹で僕の顔面を殴りつけた。
痛みでおかしくなりそうだが、僕は必死に立ち上がろうとした。だが頭をアブゾルに踏みつけられて立ち上がれずにいた。
「ボクも舐められたものだね。君如きがボクを傷つけられるとでも? あぁ、今の代償は大きいよ」
アブゾルは笑いながら、僕の右足を斬り飛ばした。
「ぎゃああああああ!!」
「あはははははははは。君が苦しむ姿は最高だね。あぁ、笑わせてもらったよ。じゃあ、お話の続きをしようか。まず、君達を作り直した理由だね。それは単純な理由だよ」
アブゾルは口角を吊り上げ笑う。
「この高貴なボクがあのレティシアという小娘に倒されたことが理由さ。屈辱だったよ。あんな人間如きに僕の分身体が殺されたんだからね」
そう言って、僕の顎を蹴り上げる。
「がふぅ……」
「君にはまだまだ苦しんで死んでもらわないとね。せっかく性格まで変えてあげたんだ」
「はぁ……ど、どういう……こ、ことだ」
「今の君なら以前の君の罪に苦しむだろう? 反省したところで殺してやろうと思っていたんだよ!! 君の仲間達も同じさ!!」
ふ、ふざけるなよ。
お前が俺を召喚したんじゃないか。お前が俺と魔王レティシアを関わらせたんじゃないか……。
「それは違うね。君がエレンを欲しがったんだ。君が蒔いた種さ。しかし本当に面白いね。性格を変えた甲斐があったよ。現に今の君は、以前の君の罪に苦しんでいる」
「だ、黙れ……」
「本当に滑稽だよ!! しかも、自分の罪をボクのせいにしてさぁ!!」
アブゾルは大声で笑う。いつの間にか、教皇や神兵が僕達を囲む。
神兵達も魔物化しているのか目が赤い。教会全てがアブゾルによって操られている……。
俺は仲間達を見る。仲間達の顔も絶望に染まっている。
逃げ切れない……のか?
「あぁ、エレーナのことも気にしていたね。本当はエレンを生き返らせる予定だったんだよ。その方がレティシアを困惑させることができるからね。でも無理だったんだ。エレンの魂はこの世界にもうなかった……」
アブゾルは悔しそうに僕の左腕を踏みつぶした。
もう痛みも感じない……。ただ意識だけはハッキリしている。
「本当にどうなっているのか……。しかもだ。エレーナの中に入れた魂は自我を持っていた。心を壊す為に僕が病に見せかけて殺したのにだ!! 本当にままならない世界だよ。さて、聞きたいことはもうないね。じゃあ、死んでよ」
踏みつけられた頭に力がこもる。
あ……あ……。
僕は……俺は最後の力を振り絞って暴れようとした……が、体のどこにも力が入らない。
せ、せめて……仲間だけでも……。
グシャっ!! 俺の頭が潰れる音……それが俺の聞いた最後の音だった……。
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タロウはこれで出番終了……ではありませんが、本編にはもう出てきません。
補足として、タロウの召喚前の性格はクズです。あくまで今回、性格が良かったのは今回アブゾルが絶望を与える為に作り変えていたからです。
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