教会編 43話 教皇の正体
誤字報告、いつもありがとうございます。
二日から投稿と言っていたのですが、遅れて申し訳ないです。
今回の話で、タロウの一人称が『僕』と『俺』の両方がありますが、僕が今のタロウで、俺が以前のタロウと思ってください。
僕の罪……。
この世界を恨んでいる? 以前の俺の記憶では、実はこの世界を恨んでいた……ということは無かった。
俺は召喚される前の世界では、何の目的もなくただ生きているだけの存在だった。
それをこの世界に召喚されたこと、勇者として必要とされたこと、何をしても許されたこと、そのことに調子に乗っていただけの男だった。
俺は、この世界で数々の罪を犯した。
不思議な感覚なのだが、今の僕と以前の俺は全く別人のような気もする。……だからと言って俺の罪が無くなるわけでもない。
ソレーヌ、アルジー、ジゼルの三人も僕の被害者のようなものだ。
俺の記憶では、出会った頃の三人は、今の僕を警戒するように、俺を警戒していた。
それがいつからかあの関係になり、非道を繰り返すことを躊躇わなくなっていった。今となっては、アブゾルが、彼女達の性格を変えていった可能性がある。
現に、今の僕は俺とは違うのだから……。きっと彼女達の今の性格が、本来の性格なのだろう。
だからこそ……彼女達には生きていて欲しいと思う。これは僕のエゴだ。
僕がそんなことを考えていると、ソレーヌが睨みながら近付いてくる。
「タロウ。あんたなに一人で勝手に決着つけようとしているの?」
ソレーヌが僕の胸ぐらを掴む。
殴るのか? 彼女にはそれをする権利がある。
俺に関わったことで人生を狂わされているのだから……。
「教皇の所に真実を聞きに行くだけだ。教皇が僕達の記憶にあるような優しい御方ならば、僕に何の危険も無いはずだ」
僕の記憶にある教皇なら話を聞いてくれるとは思うが、この記憶すらも作られたモノと考えた方が良いだろう。
俺の記憶にある教皇は金の亡者のような男だった。姿形は一緒なのだが、アイツも中身が違う。
僕のように記憶の改ざんか? とも思ったが、教皇からは得体のしれない恐怖を感じたことがある。
おそらく僕は死ぬことになるだろう。
だからこそ、彼女達を巻き込みたくはない。
しかし……。
「ダメね。私達も行くよ」
アルジーが、僕を腕を掴む。
「あんた一人じゃ、神兵に殺されるでしょ? 私達も行くね。でも、エレーナは駄目」
「ど、どうしてですか!?」
「あんたは教会に一番近いからね。今後のことを考えるとあんたは何の罪もないんだし……」
「ダメです。私も勇者一行のメンバーです。私も行きます。それに……私も聞きたいことがありますから」
「エレーナ……」
ソレーヌが僕を見る。
そうだな……。聖女は勇者が守るものだ、僕が守ればいい。
「分かった。ついてくるのならついてくるといい。だけど、一つだけ条件がある。ジゼル、転移魔法をいつでも発動できるようにしておいてくれ」
「簡単に言うけど、転移魔法は繊細な魔法なのよ。しっかりとした条件下で使わないと、転移先が指定できないわ」
それは知っているが、連れていくのなら全員が生き残って逃げ切ることを考えなければいけない。
何もしなければ、僕達はただ神兵に殺されるだけだ。
「別に何処に転移しても構わない。一時的に教皇の前から離脱できればいい。その後ファビエに逃げ切ればなんとかなるかもしれない」
「で、でも、ファビエには……」
ソレーヌが不安そうにするが、大丈夫なはずだ。
都合が良すぎるかもしれないが、ファビエには魔王レティシアがいる……。
彼女の憎しみは俺一人に集中しているはず……甘いかもしれないが、俺の命を使って他の皆を匿ってもらおう……。
「その点には僕にいい案がある。さぁ、行こうか……」
僕達は大聖堂へと向かう。
この国、神聖国アブゾールは、教会が国王よりも権力を持っている国で、特に大聖堂にいる神官達には、王族も何も言えない。
大聖堂の中では、神官達が何故か慌ただしくしていた。
僕は神官の一人に話を聞いた。
神官の話では、教会がエラールセに仕掛けた戦争で、教会が負けたそうだ。そして枢機卿が殺されたらしい。
まぁ、当然だろうな。寄せ集めの教会軍に正当な軍隊であるエラールセに勝てるわけがない。
僕は神官の話を聞いた後、教皇のいるアブゾル神像の前に向かう。
「教皇様、お聞きしたいことがあります」
「勇者タロウ。なぜここに? 貴方は試練の山に登っているはずでは?」
教皇は立っているだけで威圧感がある。
俺の知っている教皇と同じ顔なのにだ……。
「教皇様。僕達の記憶について聞きたいのですが……」
記憶の話をすると、教皇の目が鋭くなる。
この人の目はファビエで会った魔族の目と……まさか!?
僕はジゼルをチラッと見る。
ジゼルは小さく頷き転移魔法の詠唱を始める。もちろん教皇に気付かれないようにだ。
「聞きたいこととは?」
「はい。魔王レティシアに会いました。彼女は記憶を失う前の僕を知っていました」
「ほぅ……。お前は魔王の言葉を信じたと?」
「え?」
「全く、魔王にほだされおって……アブゾル様がおっしゃった通りだ。もう必要ないな、ここで殺しておくか……」
教皇は僕達に殺気をぶつけてくる。
その瞬間、教皇の体が変化していく。 これは何だ?
教皇の目が真っ赤に染まり、額に角が二本生え、肌が浅黒くなり、手が二倍くらいに大きくなり、尻尾が生えた。
これは完全に魔族……いや、魔物だ。
「そ、そんな……教皇が魔物? 周りの神官は!?」
どういうことだ? 教皇が魔物に変化したというのにまるで反応していない。
いや、今ハッキリとした。
この国の人間は操られている。教会は……アブゾルとは一体何なんだ!!
「ジゼル!!」
「もう少しかかるわ!!」
僕は剣を抜き教皇に斬りかかる。が、教皇の爪で簡単に受け止められ、そのまま僕の剣を押し返してきた。
な、なんて力だ。
「タロウ!! 危ない!!」
ソレーヌの声……。尻尾が!!
僕は必死に尻尾を避けるが、教皇の速さは神兵のそれをはるかに超えている。
く、くそ!!
喰らう!! そう思ったのだが、僕の体の周りに薄い防御膜が張られている。
これは……僕はエレーナを見る。
エレーナが防御魔法を使ってくれたのだ。
「キサマ……アブゾルサマにツクラレテおきながら、ウラギルとイウのか?」
作られ……!?
教皇がエレーナを攻撃しようとするが、アルジーが教皇の腕を蹴り上げる。教皇の背中が……斬れる!!
僕は教皇に斬りかかる。それに合わせたようにソレーヌも教皇に斬りかかった。
これなら勝てる。
「がふぅ!!」
な、何が……?
教皇の背中から棘の様なモノが新たに生えた? それが僕に腹部に突き刺さる。
「ギャハハハハハ!! ワレがキサマのようなデキそこないに、コロサレルトでもオモッテいるのか?」
僕は、痛みに耐えながら教皇から離れる。
ジゼルはどうなっている? 転移魔法は……。
「タロウ!! こっちに!!」
よし、僕達も逃げるぞ……。
教皇に石を投げつけた。
「グッ……マテ!!」
教皇は一瞬だけ怯み、その短時間で僕はソレーヌの力を借り転移魔法の発動範囲に入る。
な、何とか間に合った……。
転移して来た場所は、アブゾールの中でもスラムと呼ばれていた場所だ。
ここならば、ジゼルがファビエへの転移魔法の詠唱の時間稼ぎも出来る。
このスラムには人が一人もいない。教皇の手でスラムの住民は皆殺しにされたと聞いた。
教皇も僕達がここにいる事は分からないだろう。
「ジゼル。ファビエへの転移魔法の準備をしておいてくれ。アブゾールにいる以上、いつかは見つかって殺されるかもしれない」
「いつかじゃなく、もう遅いんだよ。君達をここで殺そうと思うんだけど、どうかな?」
い、今の声は?
僕達が声がした方を振り向くと、まだ10歳くらいだろうか……少年が立っていた。
「き、君は?」
「それよりも、この方からは高貴な気配を感じます」
聖女であるエレーナがそう言うということは……教会の関係者か?
「全く……せっかく作ってやったというのに、恩を仇で返すとはね」
少年が、どこかから剣を出す。
あの剣は……ヤバい!!
ジゼルはまだ転移魔法を展開出来ていない……。
時間を稼がないと……。
力で勝てるとは思えない。少しでも……。
「な、何者だ……」
「ボクかい? 君達も知っていると思うよ? ボクはアブゾルだ」
「な!!?」
こ、この少年が……。
神アブゾル。
誤字報告として指摘があったので補足としますが、勇者タロウの年齢はこの世界に来た時にアブゾルの力で若返っています。前話でこの話を書こうと思っていたのですが、タロウの記憶がさらりと戻ってしまったので、書けませんでした。
この後も書けそうには無いので、ここで補足として書いておきます。
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