教会編 41話 勇者、ファビエに戻る。
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僕の名前はタロウ。ここ数日以前の記憶はない。
教会の神官が教えてくれたのだが、僕は勇者と呼ばれる存在らしくて、教会が用意してくれた仲間達と共に試練の山へと向かうことになった。
ただ、僕にはいくつか腑に落ちないことがあった。
まず一つ目は僕の仲間だ。
仲間は、傭兵国家と呼ばれた国の姫で、ソレーヌ。
しかし、ソレーヌもここ数カ月の記憶を失っているらしく、自身の国に確認を取ったところ、死んだ者扱いを受けていたそうだ。
ソレーヌはその事実を知った時に、一晩泣き続けていた。
泣いていた理由は、自身の国では幼馴染の婚約者がいたらしい。その彼からも「貴様がソレーヌだと? 汚らわしい。私の知っているソレーヌは死んだ」と言われたらしい。
他の仲間は武闘家のアルジーと魔導士のジゼル。
この二人もソレーヌと同じでここ数カ月の記憶はないらしい。
ただ、彼女達の顔を初めて見た時に違和感を覚えた。まるで以前から知っているかのようにだ。
もう一つは神聖国アブゾールの住民達だ。
彼等は勇者である僕を称えてくれるが、住民の目は何故か虚ろだ。
どういったらいいのか分からないが、僕はあの目を見たことがある気がする。どこでかまでは覚えていないのだけど……。
「タロウ。どうしました?」
聖女であるエレーナが僕を呼ぶ。
エレーナだけは会った瞬間、どうしようもない罪悪感を持ってしまった。
この日、初めて会ったというのに謝らなければいけない。そう思って、僕はその場で土下座をしてしまった。
エレーナも何故僕がそこまでするのか分かっていないようだったが、僕は謝らなければいけない気がしたんだ。
「大丈夫だよ。ここがファビエ王国か……。魔王レティシアが言うにはこの国で僕の罪を知ることが出来るそうだ……」
「魔王の言うことを信じるの? それはおかしいと思うね」
アルジーが疑問を言ってくる。
僕だって本当は同じ意見だ。魔王であるレティシアの言葉を信じる理由は何もない。
だけど、魔王レティシアが言っていた「面倒くさいことはしない」という言葉が気になっていた。
魔王のあの強さがあれば、僕達を簡単に殺すことは可能だったはずだ。
そのことを教会に報告した時に教皇様は「それが魔王の策略だ。勇者であるタロウ様を苦しめることが狙いなのだ」と言っていた。
それが正しいのであれば、魔王レティシアの行動も説明できてしまう。
僕には僕の知らない大罪があるのだろう。
そして、それを知ることになると、僕が苦しむ。
アルジーに僕の考えを話す。
アルジーは全く納得していない様子だったけど、僕の言葉にソレーヌが反応していた。
「私も何かの罪を犯したのだろうか……確認を取った時のお父様は……」
ソレーヌが不安そうにしている。
実は、ダメもとでソレーヌの国に行ってみたのだが、国王もソレーヌの婚約者も目が虚ろになっていた。
あれ程ソレーヌに対して冷たい態度を取っていたのに、昨日会った時にはただ肯定してくれているだけだった。怖いくらいにだ……。
「この町に答えがあるかもしれない。とりあえず、町に入ろう……」
ファビエ王国の町中は厳戒態勢になっているようだ。
至る所に兵士が立っているのだが、兵士は町の人達と仲良く話をしている。
当然目も虚ろではない。
魔王に操られている可能性も捨てきれないが、住民の目を見て操られているのはどっちかは見ればわかってしまう。
ファビエの住民も僕達が視界に入ると目を逸らす。
一瞬だけ、睨みつけてだ……。
「睨まれていましたね……」
「あの目は憎しみの目……。何故私達がそんな目で見られなければいけないのでしょう」
ジゼルが疑問を口にする。
ジゼルは僕に初めて会った時、悲鳴を上げて逃げようとした。それ以来、僕をできるだけ避けているようだ。
明らかに僕とジゼルの間で何かがあったのだろう。
「僕達が失っている記憶に真実があるのだろうな……」
僕達は町を進む。
ここの兵士は皆強そうだ。僕達では太刀打ちでき無さそうな程、洗練されている。
暫く、町の人達の冷たい目線を受けながら進む。
アルジーは不愉快そうだ。ソレーヌはずっと俯いたままだし、ジゼルは挙動不審になっている。
この町は、いや、この国は僕達を歓迎していないのだろう……。
しかし、何も聞かずに帰るわけにはいかない。どこかで話を聞かなければ……。
僕達を受け入れそうなところは……教会だけだろうな……。
ただ、ファビエ王国は教会に神敵認定された国だ。
そんな国に教会はあるのか?
僕は周りを見る。
あの建物は!!?
僕が走り出すと、仲間達も走り出す。
僕の予想が正しければ、あの建物は教会だ。
あった。
間違いなく教会だ。
僕は教会の扉を開ける。しかし、誰もいない。
どういうことだ? まさか、エラールセのように処刑されたのか?
そういえば、神官達を処刑したということで教会が宣戦布告をしたと聞いたが、あれはどうなった?
神兵が僕達よりも強いとはいえ、エラールセ皇国の軍はこの世界最強の軍隊だということを、世話役の人が教えてくれた。
世界最強の軍隊と戦争をするのか? 無謀過ぎないか? とも思ったが、今の僕はそれどころじゃない。
僕が誰もいない教会で人を探していると、後ろから声をかけられた。
「この国の教会は滅びましたよ。神官達には国外退去を命じました」
誰だ?
僕が振り返ると一人の男性と魔族の男が立っていた。
この顔……どこかで……。
「本当に生き返っていたのですね。勇者タロウ」
「生き返った? 僕はこの通り生きている!! 何を言っている!!」
僕はつい声を荒げてしまう。
何故だろうか……。この男性を憎んでいる? 僕が?
僕はこの男に会ったことがある。
それもお互いに憎み合って……。
それに、男の横に立っている魔族……僕達が戦った魔族とは違う。強さの次元がまるで違う。
「レティシアの報告通りだな。あの時の勇者よりもかなり弱体化している。で? 宰相さん。タロウの性格は元に戻っているのか?」
「その話なのですが、レティシア様はあの時のタロウがアブゾルにより性格を変えられたのでは? と思っておいでですが、タロウは異世界から来た時点であの性格でした」
僕が性格を変えられている? 異世界? 何の話だ?
彼等は僕達のことを知っているのか?
うぅ……頭が……。
「さて、タロウ。話が聞きたいのでしょう? 私の家に来なさい。そこで貴方が一度目の勇者とされた日から、再び復活するまでの事を話してあげます。お仲間も一緒にです」
一度目の勇者?
僕達の失っている記憶を戻す為に僕達は宰相と呼ばれた男について行くことになった。
今回からタロウ視点がしばらく続きます。
ソレーヌが姫という設定を忘れかけていましたが、感想で教えてもらったおかげで思い出しました。ありがとうございます。
今年の更新はこれで終わりです。
来年は2日には投稿しようと思っています。
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