教会編 38話 動き出しましたか。
誤字報告、いつもありがとうございます。
勇者一行と遊んだ後、私はファビエ王国へと戻ってきました。
今日は王都の入り口付近に転移して来たのですが、王都内が何か騒がしい様ですが何かあったのでしょうか?
私がお城に向かって歩き出すと、私に気付いた兵士の一人が駆け寄ってきます。
「れ、レティシア様!!」
「そんなに慌ててどうしました?」
よく見てみれば、兵士の皆さんが王都内で警備をしています。これは珍しいですね。
確かに、いつも警備はしていますが、今日はいつもより警備の数が多いです。
もしかして、私の転移よりも早くタロウがこの町に来た? 流石にそれは無いですね。
「教会関係者を全員国外退去させたのですが、その結果、枢機卿からの最後通達が来たそうです」
成る程。
教会排除に動いたことで枢機卿も本気になってきましたか……。
「ファビエ王都は警備兵士が巡回していますので、レティシア様はネリー女王の執務室にお戻りください」
「分かりました」
お城の中もいつもより警備が厳重に配置されている様で、空気がピリピリしています。
姫様の執務室では、姫様の他にレッグさん、宰相さん、紫頭、カチュアさんにレーニスがいます。
何かを相談していたようで、私が部屋に入ると一斉に視線が集中します。
「ただいま帰りましたが、何かありましたか?」
「レティお帰り、まずは貴女の報告を聞かせてくれない?」
報告ですか。
私は勇者タロウとその一行の変化と、新聖女エレーナの話をします。
今のところ、勇者タロウが脅威になる事はないでしょう。
もしタロウがこの国に来た時に、変に敵対をして暴れられるのもどうかと思いますし、国民の皆さんにも冷静な対応をしてもらわないと困ります。
いや、今のタロウが暴れるようなことをすると思えませんけどね。
「……そう。宰相さん、勇者タロウがこの国に現れたとしても、下手に手を出さないように御触れを出しておいてくれる? 貴方も複雑でしょうけど、勇者をこの世界に召喚した責任がこの国にはあると思うのよ」
「そうですね。タロウの召喚は私達、前王政の大罪。よくよく考えれば、右も左も分からない十代の異世界の子供に、世界の命運をかけること自体が間違っているのです。私達はそれすらわからなかった。レティシア様、今の勇者の強さはどうでしたか?」
「何故ですか?」
まさか、暗殺でも狙っているのですか?
それではいけません。
殺すのならば、私があの時点で殺しています。
「もし、タロウが暴れた場合、兵士の命が無駄に散らされるのは避けたいのですよ。彼は国民に対して大きな罪を犯しましたが、彼もこの国に恨みを持つ権利はあります。何も知らなく、覚悟もなく、こんな世界に連れてこられたのですから。もしタロウが暴れた時はレティシア様に救援を要請しますが、国民に被害が出るのならば兵士は盾にならなくてはなりません」
「そういうことですか。その点は安心してください。タロウの強さはかつての勇者のそれでは無く、かなり弱体化しています。それに、あの目を見ればあの時のタロウとは別人かもしれないです」
本人で間違いないでしょうが、明らかに中身が違います。
何と言うのでしょうか、もしかしたら召喚された時点で性格か人格が変貌している可能性すらあります。逆かもしれませんが……。
「分かりました。警備の兵士に連絡を入れておきます。私はこれで失礼します」
宰相さんは、部屋を出て行ってしまいます。
今は重要な話し合いの最中ではなかったのですかね?
「レティ。タロウのことは宰相さんに任せましょう。それより、マイザー王国が不味いことになっているの」
「マイザー王国が?」
「えぇ……」
姫様の話では、教会によりマイザー国王が捕らえられ、枢機卿の名の下に処刑されたそうです。
教会が捕らえたという時点でおかしいですが、それよりも処刑ですか……。
不干渉条約というのを完全に無視していますね。
これに対して、ファビエと関わりのない国がどう見ているのかも気になります。
「ベネットさんはどうしているのですか? ファビエからそれなりに強い騎士達と魔導士を派遣しています。殺されはしていないと思いますけど」
「そうね。ベネット殿と共にいる騎士達の報告では、今は隠れているそうよ」
隠れているですか。
と、いうことはマイザー王国は既に教会に制圧されているということですか?
これは不味いですね。
マイザー国民は教会に恨みを持っています。
自分達が飢えている時に手を伸ばすどころか、お金を搾り取ってきた連中です。
マイザー国民が反乱を起こしたとしたら、教会が操っている魔族がマイザー国民を殺し尽くすでしょう。
勇者タロウに始末させるために……。
「エラールセはどうなんですか?」
「グローリア殿には既に連絡済みよ。エラールセでも教会が動き出したらしいわ。エラールセ軍が制圧したそうだけど」
そうですか。
こっちはどうですかね……。
グローリアさんの性格を考えれば……。
「あの人ならば、教会の連中を処刑するだろうな」
「そうですね」
レッグさんも同じ考えの様です。
これで教会はエラールセを神敵認定するでしょうね。
「とりあえず、私はマイザーに行きます。マイザーから教会を排除しましょう。それから今後ですが、ファビエから兵士を送るのはもちろん、エスペランサからも兵士を送ってもらいましょう。魔族と人間の混合軍を作り出し、教会の神兵に対抗できるようにしないといけませんね」
私は紫頭にエスペランサに援軍要請を頼むとマイザー王国に転移します。
マイザー王国の王都中心に転移してくると、至る所に神兵が立っています。
久しぶりに斬りましょうかね。
私はエレンを握ります。
「貴様!! 何者だ!! ……その顔は、魔王レティシア!!」
顔が割れているんですか? タロウですら私に気付かない……、いえ、アブゾルがタロウの記憶が戻るのを恐れて、私の顔を認識できないように作ったのでしょう。
私に気付いた神兵達が私を囲みます。
あの魔法を使って、動きを止めても面白いのですが、それではストレス発散にはなりません。
最近暴れてないので、ストレスが溜まっていたんですよね。
タロウは思うところがあって殺しませんでしたが、神兵はどうでもいいです。殺してもなんとも思いません。
邪魔なゴミは消してしまいましょう。
私は、一番近くにいた兵士の腹部を貫いて、そのまま上に斬り上げます。
神兵は叫び声をあげてそのまま絶命しました。
仲間が殺されたことにより、神兵の私を見る目が変わります。何をいまさら……。
「神兵が神に守られているとでも思いましたか? すべての罪は神によって許されるとでも思っているのですか?」
私の問いに誰も何も答えられません。
転移した当初は神兵だけに目がいってしまいましたが、よく見ればマイザー国民が何人も殺されている様です。
中には、凌辱を受けた後に殺されたと思われる、女の人の死体もあります。
「貴方がたは本当にクズですね。今のタロウではない、前のタロウの時は、彼の行動を非難していた筈の教会の神兵が同じことをする。しかも今回は神の名においてです。クズが神をすると崇拝する者までクズになるということですか」
「う、うるさい!! 我々の行動はアブゾル様の加護の元許されているのだ!!」
下らない……。
もう生かしていても面白くありませんね。
私は魔法を発動させます。魔法が発動すると神兵達の顔色が青褪めていきます。恐らく、身体が不調を訴えているのでしょう。
教会の人間は苦しみ抜いた末に死ねばいいんです。
ただ、この魔法で殺すことは不可能なので、私が殺してあげます。
魔王らしく、絶望を与えて殺しましょう。
誤字報告で指摘がありましたので補足しておきます。
召喚前のタロウは青年でしたが、召喚時にアブゾルによって肉体年齢をいじくられています。本来は41話でタロウの記憶を戻して年齢のことの説明を入れるつもりでしたが、記憶を戻すのを少し遅らせた結果、説明がすっぱりと無くなっていました。誤字報告をしていただいた方、申し訳ないです。
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