教会編 36話 勇者一行ですか……。
勇者に会いに行くと決めた私は、情報を集めました。
どうやら勇者タロウと一行は、大聖堂と呼ばれる建物がある町から旅立ったそうです。
大聖堂には、枢機卿や新教皇がいるそうです。
アブゾルの考えが見えた気がします。
教会側は、あの勇者タロウが、教会の力で更生したと見せつけたいのでしょう。
しかし、タロウによって不幸な目に遭わされた人々が、更生したからと言って許すでしょうか?
少なくとも私は許しません。
まぁ、そのための魔族なのでしょうけど……。
実際、大聖堂の町で魔族が現れたという話も聞きました。
その魔族が『魔王レティシア様』という言葉を発していたそうです。その魔族はタロウ達が辛うじて倒したらしいですけど……。
今は、聖剣の真の力を引き出す為に、試練の山という場所を目指して旅に出たらしいです。
アブゾルはどうしてこんなに面倒くさいことを?
私を殺すのが目的ならば、勇者に力を与えて、さっさと殺しに来させればいいでしょうに……。
私はアブゾルの魔力を探りながら、勇者が向かったという試練の山に向かいます。
試練の山……。
この山の頂上に、アブゾルの神像というのがあるそうです。
その神像に聖剣を掲げることにより、聖剣の真の力を引き出すことが出来るようになるそうなのです。
面白いことを考えました。先回りして破壊してあげましょう。
試練の山の頂上には、若く美化されたアブゾルの像が立っていました。
一瞬、これがアブゾルと分かりませんでした。
「髭爺の見た目の方が威厳がありますが、この像にはアブゾルの魔力が濃く反映しているようですね。アブゾル本人が作ったのでしょうか……。とんだナルシストですね」
私は本気で焼き尽くそうとしましたが、この神像は特殊な魔法がかけられているのか、全くの無傷でした。
「これは……仕方ありませんね」
私はエレンを召喚します。
「エレンは神剣です。同じ神の力ならば斬れるでしょう」
私はアブゾル(偽)の神像を粉微塵に斬り刻みます。
やはり同じ神の力。神像はタダの石の残骸に変わりました。
「ふむ。満足です」
満足した私は勇者一行を探します。
暫くすると、見たことのある後姿が見えます。
アレが勇者タロウですか。
タロウ達は、戦闘中みたいですね。
ん? アレは魔族ですか?
クランヌさんを裏切った魔族を使い、タロウ達に魔族の脅威を植え付けようとしているのでしょう。
魔族の強さは、今の勇者一行の強さに合わせて調整している様です。
ギリギリ勝てる……といったところでしょうか。
勇者たちはボロボロになりながらも、善戦している様です。
そろそろ介入しましょうかね。
「エレン。行きますよ」
私は愛剣のエレンを召喚し、魔族を一刀両断します。
「な、な!!?」
勇者……。
見た目はウジ虫ですが、目が澄んでいます。ムカつきますが、生まれ変わったのならば仕方ありません。それにしても私を知らないようですね。
それに勇者の仲間……、以前私が殺した、ウジ虫に群がる女の人達そのままです。
最後に聖女……。
確かにエレンに似てはいますが、色々と違いますね。敵対したとしても躊躇なく殺せるでしょう。
「こんにちは」
私は勇者一行に挨拶をします。
しかし、勇者達は状況を理解できないのか、目を見開いて私を見ています。
「ウジ虫……、見た目は私が痛めつけていた時のままの姿の様ですね」
「な!!? 勇者様をウジ虫だと!!? 貴様は何者だ!!」
確か……この戦士の女性はソレーヌとか言いましたっけ? 別の国のお姫様なんですよね。
以前殺した時は露出狂でしたが、今は軽鎧をちゃんと着ていますね。
こういう格好だと、ちゃんとお姫様に見えますね。
しかし、この人達の目も以前と違い、曇っていません。
あの頃の目は、色欲に染まった曇った目をしていましたから。
「まぁ、いいでしょう。しかし、アブゾルから魔王認定されている人間の顔すら知らないのですか?」
「に、人間だと!?」
勇者タロウが人間という言葉に驚いています。
あれ? アブゾルから聞いていないのですか? 聞いてないとなると随分と不親切な神ですね。
「私は人間ですよ? アブゾルとは殺し合いをした間柄ですけどね」
「偉大な神であるアブゾル様と殺し合いを!?」
エレンに似た聖女が驚いています。聖女はどんな姿をしていようとも教会の犬です。
私はあの魔法を使います。どういった反応をするのか楽しみです。
「うっ……」
エレンに似た聖女が膝をつきます。
他の仲間も少し調子が悪そうな顔になりますが、聖女を心配して駆け寄っています。
「成る程。聖女にもちゃんと効くようですね。安心しました」
私は魔法を解きます。
「い、今の魔法は……」
「私が作り出したアブゾルの魔力に反応する魔法です。今の私達はアブゾルの敵であり、教会の敵ですからね。私達の国に教会の魔の手が及ばないように、魔法による結界を張ったのですよ」
「た、確かにアブゾル様はファビエ王国を神敵認定しました。それは、魔王レティシアが前・教皇様を殺害したのが原因ではないですか!?」
まぁ、それは事実ですね。否定はしませんよ。
けれど、それはアブゾルがタロウに好き勝手やらせたのが直接的な原因ですが?
以前のタロウがエレンに手を出しさえしなければ、私は世界がどうなろうと、知ったこっちゃなかったですからね。
「ところでウジ虫。貴方は数ヵ月前の記憶が無いのですか? 作り変えられましたか?」
「ぼ、ボクが作り変えられた?」
勇者タロウの顔が青褪めています。
どういうことでしょうか?
「そこの聖女さん。なぜ彼はここまで動揺しているのですか? 別に記憶が無いのならば、それでいいじゃないですか」
聖女が言うには、タロウは毎日のように悪夢に悩まされているそうです。
その悪夢とは、勇者である自分が、町の女性を卑劣な手で追い詰めた挙句に凌辱した上で殺している夢だそうです。
その中には、婚約者がいた者もいて、自分が笑いながらその人達を斬り殺しているのだと……。
その姿はとても勇者とは思えなかったと……。
……夢も何も現実じゃないですか。
「神に悩みを相談したこともあったのですが、貴女が……『魔王レティシアが見せている悪夢だ』と神託がありました」
アホですか……。
私はどれほど有能なのですか。
そもそも、そんなちんけな真実を見せるくらいなら、直接呪い殺しますよ。
「神の神託が嘘なんじゃないですか? そもそも、勇者一行が再誕したことを知ったのも、つい最近ですし」
「神が嘘を吐くはずありません!!」
あぁ、やはりそこで対立してしまいますか。
仕方ありませんね、教会にとってはアブゾルは絶対ですからね。
あのことを話しましょう。
「そうですか? アブゾルは自分を唯一神と名乗っていたでしょう?」
「そ、それがどうしましたか!?」
「まず、それが嘘です。アブゾルはこの世界を管理しているだけにすぎません。私はアブゾルよりも上位の神に会ったことがありますからね」
「ふざけるな!! これ以上の問答は不要だ!! ここで魔王を討つぞ!!」
まぁ、信じるわけがありませんね。
とはいえ、生まれ変わった勇者を殺すのは忍びないですね。……嘘ですけど。
「負けると分かっていても戦いを挑みますか。良いでしょう、少し遊んであげます」
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