教会編 34話 魔法が完成しました。
教会に国外退去を通告しに行った翌日、私はグローリアさんが滞在している来賓室を訪ねました。
まだ早朝ですが、起きているでしょうか……。
グローリアさんは早起きだったようで、すでに朝食も済ませていました。
私が魔法の事を話そうとすると、昨日の教会への国外退去を通告しに行った時のことを聞いてきました。
「世話役に聞いたのだが……。ケンが教会の連中を脅したそうじゃないか。ケンとはまだ知り合って日が浅いが、あいつはそこまで事を荒立てる性格じゃないはずだろ? 俺も話を聞いたときは驚いたが何があった? 教会の連中が何かを言ったのか?」
「そうですね。それに関しては私も少し驚きましたが、紫頭はこの国の人ですから……。それに、教会も神敵に定めておいて、この国に寄生するというのもおかしい話じゃないですか? それを追い出すのに脅す必要があっただけです」
紫頭もその考えで、今回は脅すという一番わかりやすい方法を取ったりしたんでしょう。
「そうか。俺も同じ方法で行こうかと思ったが、神敵に認定されてないから無理だな。どういう手段で教会を国から追い出すか……」
「そんなに心配する必要はないのでは? グローリアさんは狂皇と呼ばれていたので、教会の人間を皆殺しにしても問題ないと思いますよ」
私がそう笑顔で話すと、グローリアさんの顔が呆れています。
「俺も狂皇と呼ばれる前に皇王だ。流石に皇王という立場がそれを許してくれんのだよ。それが一番楽なのは分かっているのだがな。それよりも、わざわざ俺の所に来たのだ。何か用があったんじゃないのか?」
「あ、はい。魔法が完成しましたから、エラールセに戻りましょう」
「な、なに!!?」
何故驚きますかね?
一昨日、グローリアさんが長期間国を離れていられないと言ったんじゃないですか。私は、グローリアさんの言葉に答えただけです。
グローリアさんは驚いた顔を一瞬で消して、口角を吊り上げます。
「で、どんな魔法を作り出したんだ?」
私は、今回作り出した魔法について説明します。
私が作った魔法は、アブゾルの魔力……というか、教会に充満しているアブゾルの気配に反応して、効果を発生させる魔法を作り出しました。
これを使えば、どこかに隠れているアブゾルを見つけることもできるはずです。
ただし、アブゾルには大した効果を与えることは出来ないでしょう。あれは一応神です。
「この魔法はどんなに微量な魔力にも反応しますが、持続性は無いんです。効果は三日といったところでしょうか?」
「そうか、効果が切れる前にお前がかけ直しに来るのか?」
「いえ、それでは私が手を離せない時に隙が出てしまいます」
「では、どうする?」
だからこそ、各国の魔導士に、この魔法を覚えて貰わなければいけません。とはいえ、信頼できない魔導士に教えるわけにはいきません。
もし、エラールセに信頼できる魔導士がいないのなら、ファビエ王国から一人連れて行く必要がありますね。
「反応するとどういう効果が表れるのだ? まさか死ぬとかではないだろうな……それは、許容できないぞ?」
「そこまで強力な効果は出せません。そこまで効果が出ますと、一種の呪いになります。効果は……、そうですねぇ、例えば、その魔法空間内に教会関係者が入った場合、気分が悪くなるなどの体調変化程度です」
この効果にはいくつかの段階がありまして、深く教会と係っている者ほど酷い症状が襲い、たまに教会に訪れるだけの人は気分がすぐれないかな? という程度です。
この魔法の効果は実証済みです。魔法の効果を試す為に、昨日の夜に教会関係者の家に魔法をかけてみたところ、神官は立てなくなるほどの体調変化に襲われ、神官の子供はちょっと気になるかな? といった様子でした。
その後、別の神官の家で実験を行っていった結果、すべての家で同じ現象が起きたので、間違いないでしょう。
そういえば、教会関係者がお城に苦情を言いに来ていましたね。証拠もないのに神敵の国のお城に来るとは、肝の据わった人です。
当然、紫頭がこの人を無事に帰すわけがありません。捕らえたと聞きました。
その時に「お前何かしたか?」と聞かれましたが、黙って微笑んでおきました。
「で? この魔法の習得難易度はどうなのだ? お前が簡単に使える魔法でも、普通の魔導士には使えないかもしれない。それはどうするのだ?」
「その辺は問題ありません。私だけが使えても仕方ないので、簡略化はしてあります」
「簡略化?」
「はい」
むしろ、この魔法は結構複雑なので、簡略化するのに苦労しました。
私達は、エラールセ皇国に転移します。
エラールセ皇国に戻ったグローリアさんは、信用のできる宮廷魔導士さんを連れてきてくれました。
「こいつは、俺の甥の『ビリーブ』だ。俺の信頼している魔導士だから、裏切る事もない。こいつに例の魔法を教えてやってくれ」
「そうですか……」
私はビリーブさんに魔法を教えます。魔法に係る者でしたら、この魔法の意味も理解できるはずです。
「こんな複雑な魔法をここまで簡略化したのですか!? 素晴らしいです!!」
ビリーブさんは魔法が大好きらしく、魔法の簡略化の方法などを詳しく聞いてきました。私も丁寧に教えてあげます。
そのおかげか、元々優秀だったからなのか、この魔法をアッサリと習得してしまいました。
ただし、効果範囲はそこまで広くなりませんでした。例えば私がこの魔法を使ったのならば、このお城全てにかけることができますが、ビリーブさんではこの部屋を包み込む程度しか発動できませんでした。ただし、この魔法は三日か四日は持つので、魔法を使い歩けばお城全体にかけることも可能なようです。
グローリアさんは、ビリーブさんに魔法をかけて回るように命令すると、ビリーブさんも喜んで部屋を出ていきました。魔法を使うのが嬉しいんでしょうか?
あとはビリーブさんにお任せして、私はファビエ王国に戻ります。
私は続いてクランヌさんが滞在している来賓室を訪ねます。
「クランヌさん。魔法が完成しました。クランヌさんの場合はクランヌさんが覚えてください」
私がそう言うと、クランヌさんは少し困った顔をします。
「我々魔族がその魔法を覚える必要はあるのか? アブゾルは、俺達魔族を敵視しているのに、まさか教会関係者を送っては来ないだろう?」
「それが間違いなのです」
クランヌさんにしては甘いです。
相手は、目的の為にウジ虫の恋人になっていたような変態爺ですよ? 思い出したくもないですが……。
「何?」
「アブゾルは狡猾です。もしかしたら、魔族に化けている可能性も捨てきれません。だからこそ、クランヌさんも覚えて欲しいのです」
私がそう話すと、クランヌさんも納得してくれます。
そもそも、クランヌさんは裏切った魔族を教会に送り込んでいるのです。それと同じことをアブゾルがしないと決めつけるのは危険です。
「そういえば、アブゾルが生きているということは、送り込んだ魔族はどうなったのでしょうか?」
「確かに気になるな。その辺りも調査しておこう」
もしかしたら、殺されているかもしれませんね。まぁ、私には関係ないですが。
私はクランヌさんに魔法を教えます。
流石というべきか、クランヌさんは一瞬で魔法を使いこなしました。効果範囲も、魔国エスペランサのお城だけではなく、城下町を含めた国全体にまで及ぶ効果範囲のようです。
「魔力の絶対量は、私よりもクランヌさんの方が多いみたいですね」
「まぁ、伊達に長生きはしていないからな」
クランヌさんは、生まれて数百年でしたっけ? 確かに魔力量は高くなりそうです。私は生まれて十数年ですからね。私とは違います。
エスペランサの方はこれで安心でしょう。
マイザー王国には、この国から信頼のできる魔導士を送り込んでおきましょう。
あ、クランヌさんに筋肉を鍛える許可を得ないといけませんね。いくら紫頭の頼みとはいえ、クランヌさんの部下を勝手に鍛えることはできません。
「クランヌさん。筋肉を鍛えて良いですか?」
「筋肉? あぁ、パワーのことか……何故だ?」
私は、紫頭と話した内容をクランヌさんに説明します。
「それなら構わんぞ。私としても、パワーが強くなってくれるのはありがたいからな」
クランヌさんの許可を得たので、この日から暇があれば筋肉を苛め……いえ、鍛える為にエスペランサに行くことになりました。
数日後、エスペランサで筋肉を苛めて……いえ、鍛えていると、面白い噂を聞きました。
勇者が再び発生したと……。
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