教会編 33話 筋肉が天才ですか?
教会との話し合い? が終わった後、私と紫頭は並んでお城へと帰ります。
私達が街を歩いているのが珍しいのか、町の人達の視線が痛いです。
「見られていますね。魔族である紫頭が珍しいんですかね?」
「何言ってんだ? 俺よりもお前の方が珍しいんだよ」
「え?」
私が珍しい? それは失礼な話です。
私はこう見えても姫様の側近です。公式の場にいつも出ていますよ? それなのに珍しいって……。
「お前、公式の場でいつも無表情だろ? しかもだ。お前が街に出ているのを見たことが無い。町の奴等からしてみれば、今のお前が珍しいんだよ」
確かに私は、町を歩くことはありません。
お休みを殆ど取ることはありませんし、たまにある休みの日は、エレンのお墓の前で読書をするのが大好きなので、町にはあまり興味が無いんですよね。
ちなみに本はお城の図書館の本です。
「お前、本を読むのか? お前の読む本か……。気にはなるな」
「え? 読みますか? 人の壊し方の本」
私が本を紫頭に渡そうと本を出しますが、取ろうとしません。
「どうしたんですか? 読まないんですか?」
「いらねぇよ。それにしても、親友の墓の前でどういう本を読んでいるんだ?」
「変ですか? アブゾルと戦う時が来たら、この世に生まれてきたことを、後悔させるほどの拷問を与えようと思って、魔法と嫌がらせ方法を勉強中です」
私がこう宣言すると、紫頭が呆れた顔をします。
暫く歩いた後、教会での紫頭の言葉についての話をします。
「しかし、紫頭も酷いことを言いますね」
「何のことだ?」
「教会での話です。あれは、反乱を起こすようならば、迷わず殺すということでしょう? 完全な脅しですね」
紫頭は、教会から残忍な性格の種族と呼ばれている魔族ですが、基本、暴力に訴えないで済むように行動します。しかし、教会の人達へのあの言葉は「言うことを聞かなければ殺す」と言っているようなものです。
紫頭もそれなりに頭にきているのでしょうか?
「当たり前だろ。教会の連中に情を持って、この国の国民が死んでみろ。それこそ目も当てられねぇ……。あの連中にとっての教会のように、俺達にとって大事なのはこの国の国民であり、この国の象徴たるネリー女王だ」
確かにそうです。
私にとって教会関係者の命なんて、その辺の小石と変わりません。国民に対してもそこまでの情はありませんが、それでも教会の人間よりは大切です。
「そうですか。一週間の期限を設けたみたいですが、彼等が下らないことをする可能性があります。彼らの監視はどうしますか? 私がやりましょうか?」
「お前にそこまでの負担を強いるのは申し訳ないのでな、俺の部下にやらせるよ」
紫頭の部下ですか。
そういえば、諜報部を作りたいと言っていましたね。
紫頭の部下を一度だけ見たことがありますが、全員が気配を消すことに長けていた記憶があります。
「そうですか。ならば私は、各国の王に使う魔法の研究をさせてもらいましょう。教会でヒントを得ましたから」
「あの短時間で何を得たんだ?」
「今は秘密です。成功するかもわかりませんから」
あの教会の独特の空気感。
アレはアブゾルの魔力、気配に似ている気がします。
もし、あの魔力を利用する魔法を作り出せれば……各国の中枢に入り込んでいる教会関係者を排除できるかもしれません。
それこそ、アブゾルを見つけ出すことも、可能かもしれませんしね。
「では、教会の方は任せますね」
「あぁ」
本当に頼りになるようになりましたね。
たまには褒めておきましょうか……。
「紫頭も賢くなりましたねぇ……。貴方のお友達の筋肉も、貴方くらいに賢くなればいいんですけどね」
「パワーか。アイツは脳筋だからなぁ」
「違いありません」
筋肉があれば何でも解決できるという、意味の分からない考えさえなくなれば、なかなかいい戦士になれると思うのですが、あの頭ではねぇ……。
私はそう考えていたのですが、紫頭から意外なことを聞くことになりました。
「しかしな。アイツは頭は良いはずなんだ。人間でいえば天才と呼ぶんだったか? アイツは一度教えたことは絶対に忘れないんだ」
それはもしかして……。
「……筋肉は鍛え方次第で、最強になる可能性を秘めているということですか?」
にわかに信じがたいですが、紫頭は本気の目です。
まぁ、その話が本当ならば、面白いことになりそうです。
「レティシア。時間のある時でいいから、あいつを鍛えてやってくれないか?」
「何故です? 貴方がすればいいじゃないですか」
今の紫頭ならば、筋肉を強くすることも可能だと思うのですが?
「俺にはこの国での仕事がある」
本当に頼りになるようになりました。
まぁ、紫頭に頼まれたので、鍛えてあげるとしますか。
しかし……。
「貴方よりも強くなるかもしれませんよ? せっかく筋肉よりも強くなったのに、いいんですか?」
今の紫頭の強さは、マジックと同等かそれ以上です。
「それでいい。アイツは俺より強くなって貰わなければ困る」
「何故です?」
「クランヌ様とブレイン様を守って欲しいからだ。マジック様は単体でも強いからな」
確かにその通りです。
マジックは向上心が強いのか、会うたびに強くなっています。
おそらく、クランヌさんを超える日も近そうです。
「分かりました」
紫頭の頼みです。筋肉を誰にも負け無さそうな、戦士に変えて見せましょう。
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