教会編 29話 会談が始まりました。
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マイザー王国でベネットさんと話をした後、ファビエ王国に戻り姫様に報告に行きます。
紫頭から話を聞いていた姫様は怒りもせずに、無理をして次の日の会談の準備をしてくれていました。
翌日。私はクランヌさん、グローリアさん、ベネットさんの三人と、それぞれの付き人を転移して迎えに行きます。
全員が席に着き、それぞれが自己紹介をして、会談が始まります。
姫様が、司会進行を担当するみたいです。
王配であるレッグさんも会談に参加していますが、この人はただいるだけでしょう。
グローリアさんが立ち上がり、エラールセ皇国が独自で調べた教会の情報を私達に話してくれます。
グローリアさんの隣には、今にも死にそうな宰相さんがいます。かなり無理をしてくれたのでしょう。
「教会は切羽詰まっているのか、俺の所に毎日のように押しかけてきては、ファビエを滅ぼすための挙兵を命令してきている」
命令ですか……。
「教会の連中は、王族との不干渉条約を無視しているのか?」
不干渉条約。
教会からお金を支払うことで、王族は教会にある程度の権限を与えています。
当然、国に教会を置いて貰っている立場である教会が、王族に意見できるわけがないのだが、王族も教会に意見できないようになっている、というのが不干渉条約だそうです。
しかし……。教会のやっていることは、不干渉条約を完全に破っています。
「どういうことだ? エラールセ皇国にそんな真似をすれば、教会に世界最強クラスの軍事力が牙をむくというのに、それすらも分からないのか?」
世界最強クラスの軍事力……教会はどうしても欲しかったのでしょうね。
レッグさんも、グローリアさんの言葉に呆れています。
グローリアさんは、笑いながらこれを肯定しました。
「神の名の下に挙兵しなさい。そう言ってきていた。狂皇と呼ばれた俺に対して、命令してきたんだ。殺されても文句は言えんだろう?」
これはかなり怒っていますね。あの神官は、私が殺してしまいましたが、きっと、グローリアさんも神官を殺すつもりだったでしょう。
当たり前です、狂皇でなくとも皇王としての立場の人ならば、この言葉に従うわけにはいきません。
今の話を聞いていた、ベネットさんが、グローリアさんに視線を移し、軽く笑います。
「教会も馬鹿ですね。しかし、エラールセの軍事力を手に入れさえすれば、ファビエを滅ぼすことは難しくとも、大打撃を与えることは可能でしょうな」
「言ってくれるな。マイザー次期国王」
「ははは。そう怖い顔をしないでください。別にエラールセを過小評価しているわけではありませんよ。それだけファビエの軍事力が高くなってきているということです」
「……それは否定しないな」
ベネットさんは、ファビエ王国を高く評価してくれているようですね。
しかしです。エラールセほど大きな国ならば、好き勝手している教会を排除するのは簡単だと思うのですが、そう思いグローリアさんに聞いてみます。
「お前の言いたいことは良く分かるが、国が大きくなればなるほど、教会も大きくなってくるものなんだよ」
「大きく……ですか」
要約すると、大きな国に寄生しているということですよね?
「教会が大きくなればなるほど、神官や信徒の数も増えてくる。流石に数が多いと手が出せんのだよ」
「害虫は無駄に数が多い物ですからな」
ベネットさんが軽く笑います。
しかし害虫ですか。良い呼び方です。
「一つ聞いておきたいのだが、教会というのは、どこまで国の中枢に入り込んでいるのだ? 私は、教会と敵対していた身だ。いや、今も魔族を目の敵にしている教会とは相いれることは出来ないだろう」
「質問を質問で返すのは失礼だと思うが、その点では俺もクランヌ殿に聞きたい事がある。クランヌ殿はどこまで教会のことを知っている?」
グローリアさんは、クランヌさんが自身の意志で魔王を名乗っていたと思っているのですね。
確かに、クランヌさんは魔王として教会の神敵となっていました。
それも含めてアブゾルの手の上だったのは、気に入らない話ですが……。
「いや、私は常に魔王城に出られなかったからな。そう作られていた。だから、私自身は外の情報に疎かったのだ」
「作られた? どういうことだ?」
私はグローリアさんにクランヌさんのことを説明します。今思い出しても胸糞の悪い話です。
アブゾルの楽しみだけの為に、クランヌさんはやりたくもない魔王をやらされていたのですから。
「それは済まないことを聞いたな。謝罪する。それと、先ほどの答えだが、エラールセ、ファビエ、マイザーには教会の人間はいないだろう。徹底的に排除したからな」
「中枢にはいないか。それならばよかった。それに今はこうして自由にいられるのだから気にしないでくれ。さて、次は私が話をさせて貰おう」
クランヌさんは、反逆した魔族をうまく誘導して、教会の中枢に入り込ませようとしていました。
しかし、アブゾルが生きているとなるとこの作戦はうまくいかないかもしれません。
そのことを先に言う必要があります。
「クランヌさん。その話の前に伝えておきたい事があるのですが、いいですか?」
「ん? あぁ、昨日言っていた、重要なことという奴か?」
「はい」
私が立ち上がると、皆さんの視線が集まります。
「ここにいる皆さんなら知っていると思いますが、私は神を殺しました」
ベネットさんや各国の御付きの人達は少し驚いている様です。ベネットさんにはまだ話していませんでしたっけ?
「あぁ。だからこそ、今の教会を支配している奴は誰だ? という話になっているのだろう?」
姫様とグローリアさんは、気付いていたのか驚きはありません。クランヌさんは少し疑問に思っている様です。
「はい。私自身も殺したと思っていました」
「殺したと思っていた? 手ごたえはあったのだろう?」
「確かに、あまりにもアッサリと殺せたものですから、違和感はあったんです。死体も残りませんでしたし……」
いくら神族だからといって、焼却もしていないのに跡形もなく消えるのもおかしいと思っていたのです。
神がいなくなったことを実感しているクランヌさんも気になることがあるのか、私の話を遮ります。
「神を殺せたのは間違いないだろう? 私の魔王としての役割は終わったぞ?」
そのことも、私の推測が正しければ、説明できます。
「それは、私が原因なのかもしれません。これは推測なのですが、私がクランヌさんを一時的に封印したことによって、私の魔力がクランヌさんの体に取り込まれたのが原因ではないでしょうか」
私の魔力がクランヌさんの中のアブゾルの魔力を上書きしてしまったのでしょう。その結果、あの呪いが解かれたんじゃないかということです。
「それに、魔族が不死でなくなったのもそこに答えがあると思います。ここにいる皆さんは知らないかもしれませんが、魔族は死んでも復活するという呪いがかけられていました。神とはいえ、魔族全員に命を分け与えるのは不可能だと思います。だから、あの呪いに似た不死はクランヌさん自身にかけられていたと考えられます」
「どういうことだ? 意味が分からんぞ?」
「はい。このお城に捕らえていたウジ虫……勇者はいくつもの命を持っていました」
「いくつもの? 神ならば命を作る事も可能ではないのか?」
「いえ、それは不可能だそうです。だから、適当なところから命を持ってきて与えるというのが不死の作り方だそうです」
「な!!? ということは、アブゾルもいくつも命を持っているということか!!」
グローリアさんの言葉に、この場にいる人達の顔が青褪めます。
「いえ、それはないそうです。神は不老。不老と不死は同時に発現できないそうですよ」
「そ、そうか。私がアブゾルの支配から抜けることができたから、魔族全体の呪いも消えたってわけか……」
皆さんの顔が少し安堵の表情に変わりましたが、ベネットさんがポツリと呟きます。
「ということは、神は生きている?」
「はい。嫌な予感はしていたんです。しかし、狂皇さんの話を聞いた後、ウジ虫が殺されたことを考えると答えは一つしかありませんでした」
「アブゾルは生きています。サクラさんも間違いないと言っていました」
明日から、引っ越し作業がありますので、二日ほどお休みします。申し訳ないです。
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