教会編 20話 私は良い人じゃないですよ?
レッグさんの顔は完全に青褪めています。
おかしいですね。レッグさんなら、私の性格を知っているはずです。
もしかして、私と長く付き合う事によって、私が善良とでも思ったのでしょうか? それはありません。
「レッグさん。そんなに深刻な顔をしないで、レティはそんな事をする気はないだろうし、私も命令なんてしないわ」
「姫様、違います。今はしないだけです」
私は真顔で答えます。
「もしこの先、姫様やレッグさん、それにカチュアさんやレーニスをこの世界が奪うような事があれば、私は躊躇なく世界を滅ぼします」
「お、お前!!?」
「何を驚いているのですか? もともと私は世界を滅ぼすつもりだったんですよ? この国には大事な人がいるから世界を滅ぼすのを止めているだけです」
申し訳ないですが、これだけは譲れません。
よくよく考えたら、私にも大事な人が増えました。
そう考えれば、私も変わったものですね……。
私はついつい嬉しくて、小さく笑みを浮かべてしまいます。
「そうね。私にレティが必要であるように、この国には、周りの国が必要なのも分かってくれているのよね」
流石姫様。
私の扱い方を良く分かっています。
「はい。当然です」
私は笑顔で頷きます。
「で? 出発は早い方が良いのか?」
レッグさんは、気を取り直したのか、頭を掻きながら、話を元に戻します。
その瞬間、姫様の目つきが鋭くなります。
「そうね。各国への手紙を書くから、数日待ってくれるかな? でもね……」
姫様は、レッグさんの全身を見ます。
「レッグさんには、王配としてふさわしい服装で行ってもらいます!!」
「な!!?」
姫様がそう言うと、レッグさんの顔が蒼白になります。
私としては、予想通りですね……いつかは言われると思っていました。
仮にも、レッグさんは王族なのです。しかし、レッグさんの正装は全然似合ってません。
姫様とレッグさんの結婚式の時には、不敬かもしれませんが、思いっきり笑わせてもらいました。
「当たり前でしょう? レッグさんは王族なのよ? 王族ならば別の国の王族にも会う事が出来るけど、冒険者じゃそうじゃないでしょう?」
それはそうです。
私を恐れているとしても、私と冒険者が、王族に会わせろと言っても、各国の王族からすれば、会ってやる理由はありません。
「そ、そうか……。あの格好は苦手なんだけどなぁ」
レッグさんもごねますねぇ。
「服装はきっちりしてもらうけど、会った後は、高圧的な態度で臨んでね」
レッグさんは意外そうな顔をします。
おそらくですが、レッグさんは私が暴走しないようにするのが、自分のお仕事だと思っていたようですね。
「どういう事だ?」
「恐らくだけど、各国の王は、こちらが言い訳をしに来ていると勘違いするはず。それだと足元を見られるでしょう?」
成る程。
流石は姫様です。よく考えています。
しかし、高圧的な態度ですか……。
「レッグさん。いきなり殺気全開で各国の王族に会ってみましょうか」
「お前……。それは駄目だろう」
「何故ですか?」
「俺の殺気ならまだしも、レティシアちゃんの殺気ならば、確実に人を殺してしまう。そうなれば話にならない」
いや……。
いくら何でも、殺気で人は殺せませんよ? 明確な殺意をぶつけるんじゃないんですから。
その違いが分からないのが、レッグさんがまだまだなところですね。
姫様が手紙を書くまでの間、数日間は時間が空くので、暫くは自由行動になります。
私達は、兵士を鍛える為に、執務室から出ようとすると、レッグさんが姫様に思い出したように話しかけます。
「ネリー。孤児院の予算を増やしてくれないか?」
「どうして?」
そう言えば、子供達を連れて来た事を話すのを忘れていましたね。
レッグさんは、マイザー王国から連れて来た子供達の事を説明します。
姫様は少し考えています。
「……分かったわ」
姫様の声は、少しだけ声のトーンが落ちています。
「どうしたんですか? 子供が多ければ間引きましょうか?」
「レティ……。怖い事を言わないで……」
あれ? 違いましたか……?
「マイザー王国が予想以上に酷くてね。これはマイザー王国への挙兵も考えた方が良いかしら……と思ってね」
挙兵……、戦争ですね。
「攻め込みますか?」
私は、やる気になります。
「理由は?」
レッグさん。回りくどいです。
「当然、人道的理由よ。国民がそこまで不幸になっているのに目を逸らす王族。許せないじゃない」
姫様は、立ち上がり、テラスの方へと歩いて行きます。
「この国も、父上のせいで随分と国民に辛い思いをさせたわ。だからこそ、マイザー王国の現状を知ってくれれば、挙兵しても兵士達も分かってくれる筈」
「やはりマイザー王を暗殺しましょうか?」
兵士に無駄な血を流させたくないのなら、それが一番です。
レッグさんも腕を組んで考えています。
「ダメよ。教会がソレを理由に、全世界に訴えてくるかもしれない。そうなると更にややこしくなってしまう。やるなら二国間の戦争よ」
「どうしてですか?」
「マイザー王国は、何度もうちの国からの使者を殺しているわ。それだけでも、戦争理由に充分なるわ。それに比べて、うちの国に使者に来た第三王子は事故死。つり合いが取れないわ」
姫様は、悲しそうな目で、そう話します。
「戦争にはならないさ」
「え?」
レッグさんが、口角を吊り上げながら、余裕そうに話しだします。
「あの臆病な王の事だ……。間違いなく逃げる」
逃げたとしても、生ゴミの命があるだけで、厄介ではないのですか?
「そこのところは任せておけ。ネリー。まずはマイザー王国への最後通達を書いておいてくれ」
「レッグさん。任せても大丈夫なの?」
「任せておけ。ネリーも、孤児院の事を頼むな」
レッグさんは、笑いながら姫様にそう話します。
「孤児院の件は、安心してね。下らない貴族にお金を払うよりも、この国の未来を背負ってくれる子供達の方が、大事だからね」
姫様の目も、迷いのない、レッグさんを信頼したような目でした。
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