教会編15話 ここはゴミの王国ですか?
「ここがマイザー王国か……」
私達が転移して来たのは、マイザー王都の路地裏です。
ここなら、巡回の兵士にも見つかりません。
「レッグ殿。そういや、お前。兵士の格好じゃなくて良かったのか?」
レッグさんの格好は、初めて会った時の様な冒険者としての服装をしています。
王配として、格好に拘らなくていいのか? とも思いましたけど、こんな路地裏に、立派な貴族服を着ている人間がいるのもおかしいですね。
「大丈夫さ。マイザー国王は俺の顔を知っている」
知っているですか? レッグさんもこの国に来た事があるとでも?
「俺が冒険者だった時に、この国でしばらく活動していたんだ。マイザー王は俺を配下に入れたくて仕方なかったと聞いた事がある」
そうなのですか? こんな国に仕えなくて良かったですねぇ。
もし、この国に仕えていたら、私が殺していましたから。
私は、優しい笑顔で、レッグさんの肩を叩きます。
「おい。レティシアちゃん。何か恐ろしい事を考えてないか? レティシアちゃんが笑顔で人の顔を見る時は、大概良くない事を考えている時だ」
流石はレッグさん。私の事を良く分かっていらっしゃる。
「何か空気の悪い国ですね」
カチュアさんが、周りを見ながら呟きます。
確かに、この国は、死臭とでも言いましょうかね? 死の臭いとも言いますか。それが充満しています。
マジックの顔を見てみると、何やら嫌そうな顔をしています。
「この町はどうなっている? 絶望の気配というか、町全体が死んでいるような嫌な気配を感じる」
死んでいるような……ですか。
私は路地裏から、大通りを覗き見ます。
……ふむ。
マジックの言った、絶望の気配というのはそういう事ですか。
私はレッグさんに手で合図を出します。
レッグさんも、慎重に大通りを覗き込みます。
「なんだ? この町は……。ここは、マイザー王国の王都だろう?」
「え? 何があるの?」
レーニスちゃんも大通りを覗き込もうとしますが、レッグさんがレーニスちゃんの目を塞ぎます。
「ふぁ。これじゃあ、見えないよ!?」
「こんなもんガキが見るモノじゃない」
レッグさんの顔は、静かに怒っているような顔でした。
「レッグ殿。早く城に向かおう。この国を見て回る価値すらない」
そう言って、マジックが、大通りに置いてあったモノの所に私を呼びます。
「レティシア。これを火葬してやってくれ。ここで、野晒しにされるよりはマシだろう」
「そうですね」
これは子供ですかね。
腐敗が始まってない事を考えると、死んでまだ日は浅いようですね。
私は子供の遺体を炎魔法で焼き尽くします。
「さて、お城へと向かいましょうか……」
町は、至る所にゴミが落ちていて、住んでいる人達も何処か諦めているような目をしていました。
「マジック殿。すまないが、俺達が城に入った後、町の住民にこの国の事を聞いて回ってくれるか?」
「ん? どうして俺が?」
「マジック殿が一番最適だからだ。この仮勇者パーティは、幼いレーニスはともかく、他の二人は短絡的だからな」
誰が短絡的ですか。失礼な。
カチュアさんも、笑顔でレッグさんに詰め寄ります。
「そういう所だよ!!」
そう言われて、カチュアさんが止まります。
「分かった。ある程度情報を得たら、合流する。それまで話を延ばしておいてくれ。と、いう訳だ。レティシア。ムカついたからと言って殺すんじゃないぞ?」
はぁ……。
私だって、時と場合を考えます。
「分かってますよ」
王城の大門前に到着した、私達はマジックと一時的に別れ、お城の中に入ります。
当然といえば当然なのですが、兵士に止められます。
「待て、この偉大なるマイザー王城に何の用だ」
偉大なる王城ですか……。
確かに、ここから見えるお城の中は綺麗にされています。
振り返れば、ゴミが溢れ、絶望的な空気感のあふれる街。
門番をしている兵士は疑問にも思わないのでしょうか?
私が、そう考えていると、レッグさんが兵士に何かを見せています。
「俺は、ファビエ王国の王配、レッグだ。今日は使者として、ここに来た。王のもとに案内しろ」
兵士は、レッグさんの見せた物をしばらく見た後、別の兵士を呼びます。
「暫く待て。我が偉大なる王の元へと案内しよう」
そう言って、カチュアさんの腕を引っ張ります。
「お前は、我々の相手になってもらう。この国では、女は男の言う事を聞かねばならぬのだ」
はい?
カチュアさんが私とレッグさんを見ます。
「おい。うちの人間に手を出してんじゃねぇよ。殺すぞ?」
レッグさんがドスの利いた声で、兵士を脅します。
「き、貴様!! 小国の王配の分際で、この偉大なるマイザー王国の兵士になんて口を!?」
私は、兵士の首にナイフを突き刺します。
「が……」
「さっきから、偉大、偉大、うるさいんですよ。あ、勘違いしないでくださいね。私は、使者ですけど、殺したいと思ったら殺しますので……」
兵士は、何か言いたそうにしながら、その場に崩れ落ちます。
「レティ様!!」
カチュアさんが私の元へと駆け寄ります。
そしてレッグさんも兵士に一発蹴りを入れてから、私の元へと歩いてきます。
「あーあー。レティシアちゃん。いきなり、やっちまったな。どうすっかな?」
レッグさんは困っている様でしたが、どこか楽しそうでした。
その後、案内役の兵士が私達を迎えに来たのですが、死んだ兵士を見て叫びそうになります。
「お前もこうなりたくなかったら、黙って俺達を偉大なる王の元へ案内しろ」
「は、はい」
兵士は、怯えてレッグさんに従います。
「あ、そこに落ちているゴミの始末をしておいてくれ。お前等は、町の現状を知ってて、こんな国の兵士をやっているんだろ? 慣れているだろう?」
私はレッグさんの言う意味が分かりました。
うちの国の使者がこの国にでて、帰ってこないという事が何度かありました。
これにはレッグさんも、かなり怒っているらしく、マイザー国王に詰め寄る予定だそうです。
「これはこれはレッグ殿。わざわざこの汚い国においでくださって感謝しますぞ」
小太りで小汚そうな男、これがこの国の王ですか。
「そちらの方が我が国の英雄、レティシア嬢ですな。わざわざ連れてきてくださってありがとうございます」
いきなり、何を下らない事を……。
「ははは。下らない冗談を言うのは止めて頂こう。貴方がたはレティシア嬢を忌み子として蔑んでいたそうじゃないか。それをいまさら英雄? おっと、俺は、平民上がりの王配だ。口が悪いのは大目に見て貰おうか?」
レッグさんは、呆れた顔でマイザー王に言い返しています。
「貴様!! 小国のしかも王配の分際で何を偉そうに!! 女が支配している下らない国の使者なんぞ、ワシらの国からすれば平民と変わらぬわ!!」
下らない?
こいつは今、何を言いました?
私が何かを言う前に、レッグさんがマイザー王を睨みつけます。
「へぇ。あんたは、俺達の国を愚弄するのか?」
レッグさんから、軽く殺気が放たれます。
レッグさんの殺気に、この王の間にいる護衛兵士も、騎士達も反応することはありません。
見かけだけですか……。うちの国の軍部の人達なら、一瞬で気付き、戦闘態勢に入りますよ?
「愚弄? 格下を格下と言って何が悪い!!」
国王もアホですか。
「おいおい。あんたは何か勘違いしてねぇか? あんたは、俺達があんたらとの戦争を回避するために、ここに来たと思っているんだろうが、俺達はいつでも開戦しても構わねぇと思っているんだぜ? それにな、レティシア嬢は今は俺達の国の人間だ。決して、お前等の味方になる事は無いんだぜ?」
「な!? レティシア!! 貴様はワシの国の人間じゃ。この国の人間はワシの為に生きなければいけない!! それくらいわかるだろうが!!」
マイザー王は、レッグさんの言葉に驚いている様でした。
どうして、驚く必要があるんでしょうか?
「はい? なんで、貴方のような、汚らしい生物の為に、生きなきゃいけないんですか? 殺しましょうか?」
「小汚いだと!?」
私の言葉に、マイザー国王が怒り出します。
「小汚いでしょう? この町の情景が貴方の姿そのものでしょう? そうです。貴方の事を生ゴミと呼びましょう」
うん。小汚い顔によく似合った名前です。
「貴様!! 無礼にも程がある!!」
そうですか? さっきからの生ゴミの発言の方が失礼だと思うのですけど……。
「レティシアちゃん。もういい。マイザー国王。お前は勘違いしている。戦争を回避するのは簡単な事なんだぜ?」
「な、なに?」
え? 簡単ならば、こんな小汚い国に来る必要ないと思うんですけど。
「今ここには、ファビエ王国の最大戦力が揃っている。お前ら王族、いや、この城にいる無能共を全員殺しておけば、勝手にこの国は滅びる。そうなれば戦争は起こらない」
レッグさんは、そう言って、剣を抜きます。
戦うんですか?
私も頑張りますよ。
「ふざけるな!! そんな事、許されるわけがないだろうが!!」
「許さない? 誰が一体許さないんだ? この国の国民か? 道端で飢えで死んでいった国民か? そんなものがいるにもかかわらず、見て見ぬふりをする国民か?」
「ぐぬぬ……」
「それとも……。教会か?」
「!!」
どうやら図星の様です。
「許さない? 誰が一体許さないんだ? この国の国民か? 道端で飢えで死んでいった国民か? そんなものがいるにもかかわらず、見て見ぬふりをする国民か?」の所に誤字報告がありましたが、これはどちらも国民で合っています。貴族兵士もすべて国民ですので、そういう意味で書きました。
分かりにくくて申し訳ないです。
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