教会編 14話 世界を恨む理由です。
内容に一部残酷な表現が含まれております。
お母さんは、村の皆から呪い子と呼ばれて蔑まれて生きていたそうです。
幼い頃から、虐められて、いつも泣いていたそうです。
成人して、お母さんは村を出ました。
村を出て数年、私が生まれて、母子二人で幸せに暮らしていました。
しかし、私達が住んでいた町に、お母さんを呪い子と蔑んだ村の男が、引っ越してきました。
男は、お母さんの事を町の皆に「あいつは呪い子だ。関われば不幸になるぞ」と叫びまわっていたそうです。
町の人達からすれば、普段は物静かなお母さんと、引っ越してきたばかりなのに、世迷言を叫び続ける変人。どっちを信用するかなんて考えなくともわかりますよね。
町の人は、男の話を全く信じようとしませんでした。
男は、自分を信じない町の人の態度に、悔しい思いをしたらしく、お母さんを毎晩襲う事にしたそうです。
このとき私は、まだ幼かったので、当時の事を覚えていません。
お母さんは、私を守る為に、男に毎日のように傷つけられていました。
そんな地獄のような日々を過ごしたお母さんに、さらなる悲劇が襲いました。
それは突然だったそうです。
ある日、男に町の男達が話しを持ちかけました。
今なら、襲われた理由も分かります。
お母さんは、町の人間に比べ美人だったと思います。それで、村の男が良い思いをしているのを町の男達も、良い思いをしたかったのでしょう。
その頃から、いつも一緒に遊んでいた町の子供達から、石を投げつけられたり、お母さん自身も、町の女の人達から嫌味や、嫌がらせを受けるようになりました。
何故、こんな事をされるのか全く理解が出来ませんでした。
お母さんに聞いても、お母さんは何も言わずに、私にいつも笑顔をくれました。
裏であれほど酷い目に合っていたにも関わらずです。
今だから言えますが、お母さんがずっと矢面に立ってくれた事によって、私が傷つけられる事はありませんでした。
だからこそ、私は町の住民に、そこまでの憎悪を持つ事はありませんでした。
……あの時までは……。
お母さんが殺されたのは、私が6歳の時。
突然、お母さんは、私に木箱の中に隠れるように言いました。
私はお母さんに言われた通り、木箱に入ります。すると木箱の上に何かが置かれました。
出ようとしても、出れず、お母さんに「開けて?」と聞くと、お母さんは悲しそうな顔をして笑っていました。
「レティ……。ごめんね。お母さんが呪い子と呼ばれたせいで、貴女までこんなに苦しく、怖い思いをさせて……」
これが、お母さんの最期の言葉でした。
私は、何が何だか分からずに、木箱の隙間から家を見ていました。
私の家では、数人の男がお母さんの髪の毛を掴み、引き摺り出していました。
私は、お母さんを助けようとしましたが、お母さんによって木箱が開かないようにされていたので、出る事は出来ませんでした。
男達は、お母さんを弄んだ後、逃げられないように両手両足を切り始めました。
町の住民達が、それを笑ってみていました。
信じられない事に、町の子供達も一緒にです。
私は怖くて、目を逸らします。
外からはお母さんの悲鳴……いえ、あれは断末魔ですかね。……が聞こえてきて、もう地獄でした。
でも、このままじゃいけないと思い、勇気を出して、箱の隙間からお母さんを……助けを呼ぼうとしましたが、私が見たモノは……。
両手両足、目を抉られ、髪の毛は引きちぎられて磔にされて、剣で串刺しにされているお母さんと、それに火をつけて踊っている町の住民でした。
その瞬間からですかね。私のリミッター? とでも言いましょうか? それが外れたのは……。
私は箱を破壊して飛び出し、お母さんの死体を焼いて楽しんでいる、町のゴミ共を一人残らず殺しつくしました。
子供も女性も老人も全てです。
その頃からですね……私が忌み子と呼ばれるようになったのは……。
「……という訳です。私にとって、人間は汚らしい生き物。それ以外、思う事は出来ませんでした」
私の話を聞いて、姫様が何かを思い出します。
「レティは今、十六歳よね。十年前……。時期的に、あの町の事ね」
「知ってんのか?」
「えぇ。今では廃れてしまった国なんだけど、その国のある町の住民が、一夜にして全員消えたと噂になっていたわ。各国の調査団が街に調査に入ったんだけど、その町にあったのは、町の中心に簡素なお墓と、黒いすすだけが落ちていたそうよ。あれをレティがやったとすれば、納得できてしまうわ。レティなら可能ですもの」
「どういう事だ?」
レッグさんが、姫様に聞きます。
少し考えれば分かると思うのですが。
「現場にはすすがあった。レティは火葬するのに、よく炎魔法を使って敵を焼き尽くす。という訳よ」
正解です。
「成る程なぁ。そんな幼少時代を送っているのなら、レティシアちゃんが人間を恨むのも分からんでもないな。ただ、気になる事もある」
「なんですか?」
「そこまで世界を憎んでいる筈のお前が、どうしてエレン嬢には心を開いたんだ?」
「そうですね。続きを話しましょうか……」
……人間は殺すモノ。
私にとって、人間とは、食料にもならない、素材にもならない、獣以下の、本当に必要のないモノでした。
その当時の私は10歳。
私が人間を殺し始めて、4年が経っていました。
あ……。殺し始めてといっても、普段は森の中で暮らしていましたから、たまに山賊なんかを殺して遊んでいただけですよ。
そんなある日、私は森で迷子になった、エレンに出会いました。
しかし、当時の私にとって、エレンも汚い生物。鬱陶しいので殺してしまおうと思いました。
殺す為に、エレンの前に出て行った私を見て、エレンは笑顔で近付いてきました。
魔獣と山賊の血で、真っ赤に染まっていた私を見ても、怖がらずに笑顔で手を握って来たんです。
エレンの笑顔を見た時、お母さんの笑顔と一緒だと思ってしまい、私は無意識にエレンに抱きついていました。
エレンは、笑顔で私を抱きしめてくれました。
この時、エレンは13歳。
この時の事をエレンに聞いた事があったのですが「だって、レティ。泣きそうな顔をしていたからね。私が友達になってあげなくちゃ、と、思ってね」と笑って教えてくれました。
後から知った事なのですが、エレンは当時から両親に酷い目に合っていたそうです。でも、自分が酷い目に合っていたのにも関わらず、私に笑顔を向けてくれました。
その時から、私の中の人間に対する憎しみが薄れた気がしました。
私はエレンと一緒に、生きていこうと思いました。
そしていつか、エレンと二人で町を出て、世界を見に行こうと約束していました。
ここからは、皆さんも知っているように、世界は、私からエレンを奪いました。
だけど、以前の私とは違い、無差別に人間を殺そうとは思いませんでした。
エレンを、酷い目に合わせた連中だけを絞り込んで、殺していこうと……。
こう思ったのはエレンのおかげかもしれません。
もしかしたら、エレンのような人間にも会えるかもしれないと、思っていた時に、姫様やレッグさんに出会いました。
今度は失いません。
……いえ、失わせません。
今でも、教会や世界は、姫様を、この国を奪おうとしています。
だから、そうなる前に、今の世界を壊します。
「……という訳です」
私が話し終わると、レーニスちゃんは泣いており、カチュアさんもかなり怒っている様です。
「レティお姉ちゃん可哀想……」
「世界を滅ぼしましょう……」
姫様は、私を抱きしめます。
「レティ。これからは、皆でこの世界を楽しもうね」
私は黙って頷きます。レッグさんも優しい顔で、私を見ていますが、マジックだけは何やら考えている様です。
「なんですか?」
私はマジックを睨みます。
ちゃんと説明したのに、何が不満なのでしょうか?
「お前の話でいくつかの疑問がまだある。お前を忌子と呼んだのは誰だ? どうして、そこまで詳しく話を知っている? いや、これは聞くまでも無いか。殺す寸前で聞きだした、ってところだろう」
正解です。
正確には、村の男を殺すついでに知っている事を吐かせただけです。町の人間にも、きちんと聞きましたよ。
「お前が忌み子と呼ばれる理由は、まぁ、分かる」
「マジック!! 貴方はなんて酷い事を!!」
マジックの言葉に、カチュアさんが怒ります。
「カチュア、落ち着け。考えてもみろ。幼い子供が、殺人を何の躊躇いもなく行う。それだけで恐怖の象徴になる。忌み子と呼ばれても不思議じゃねぇ。しかしだ。お前の母親は、何故呪い子と呼ばれたんだ?」
マジックの言いたい事は分かりました。
「詳しくは分かりませんが、男の話では、お母さんの幼い頃に一つの事件があったと言っていました。その事件後から、お母さんは呪い子と呼ばれ始めたそうですよ」
「そ、そうか。済まなかったな。嫌な事を思い出させて……」
マジックが頭を下げます。
「まぁ、今は結構幸せですよ。姫様達にも会えましたし、姫様の治める国の為に働けるのは嬉しい事ですからね」
だからこそ、今ある世界を、姫様の邪魔になる国は、滅ぼしてしまいましょう。
こういう話は、書いていても嫌な気分になりますね。
少しでも面白いや続きが気になるという方がいれば幸いです。
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