教会編 13話 元々、世界を滅ぼす予定でしたよ?
「じゃあ、レティ。レッグさんをお願いね」
姫様は、夫であるレッグさんを心配している様です。まぁ、当たり前と言えば当たり前なのですが。
とはいえ、レッグさんはこの国の中でも最強の一角です、レッグさんがマイザー王国のゴミ兵士達程度に負けるとは思えません。
「レッグさんがそう簡単にどうかされるとは思えませんが、任せてください。レッグさんには傷一つ付けさせません」
「ありがとう。でもねレティ。貴女達も怪我をしちゃダメよ」
姫様は、私達の事も心配してくれている様です。
大丈夫ですよ。もしもの時は、私とマジックが全力で暴れますから。
しかし、私もこの国に心配事もあります。
「紫頭。分かってますよね? 私のいない間に教会が攻めてきたとしても、姫様に傷一つ付けるようならば、貴方を殺しますよ?」
「分かってるよ。クランヌ様もブレイン様を派遣してくださるようだし、この国の防衛は問題ない筈だ」
まぁ、ブレインならば、心配はないといえばないのですが……もう少し戦力が欲しいですね……。
あ!!
「そう言えば、ブレインが作っていた、魔獣族? でしたっけ? アレは戦力にならないんですか?」
魔獣族。
あの魔族と魔獣を掛け合わせた、あの趣味の悪い生き物の事です。
「お前は、魔獣族を知っているのか?」
「知っていますよ。ブレインと戦った時に連れていましたから」
「そうか……。あいつ等はブレイン様を守る為に戦う意思を見せたのか……」
ん? 守る意思? 制御されていたんじゃなくてですか?
おかしいですね……。私の予想では、ブレインは同胞すら利用して、あの悪趣味な存在を生み出したと思ってたんですが……。
「お前、何か変な事を考えてないか?」
「え? 別に考えていませんよ? 魔獣族は、ブレインの悪趣味な実験の果ての被害者だと思っていましたけど?」
少なくても、魔獣族の姿を見ればそう思うはずです。
「成る程な。だが、お前のその予想は外れているぞ?」
予想が外れている?
「じゃあ、魔獣族は、何故あんな姿をしているのですか?」
私と紫頭の会話に姫様も気になっている様です。
「ケン。その話詳しく教えてくれない?」
「ん? あぁ。魔獣族というのは、突然変異で発生した魔族でな、生まれて数日しか生きていられないんだ」
え? それはもしかして……。
「レティシアは気付いたな。生まれてすぐに死ぬという行為を繰り返すんだ。本人の意思は関係なく苦しみ抜いたうえで死ぬらしい。だから、魔獣族にはまともな精神の奴はおらず、同族すらも傷つけるようになったそうだ」
姫様は少し考えているようです。
私も考えます……が、まぁ、敵だったので、そこまで考える必要はないんですが。
「で? ブレインがその状況を打破したという事ですね? で? 魔獣族はこの国を守る為の戦力としてくるんですか?」
私が聞きたいのは、魔獣族が云々ではないんですよ。
戦力としては、魔獣族の方が圧倒的なので、そっちの方が良いと思っただけです。
「はぁ……。お前は、罪の意識とかそういうモノは無いんだな?」
罪の意識? どうして私がそんなモノを持たなければいけないんですかね?
あの時の私と魔族は敵同士だったんですよ? そこに情も何もないでしょうに……。
「紫頭。貴方の理屈だと、もしも教会が攻めてきた時に、教会の事情を考えて、攻撃を止めてしまったり、敵を生かしてあげたりするという事ですよ? 貴方は、そんな事をするんですか? そんな人に、国は預けておけないんですが?」
敵であるという事はそういう事です。そこに何の情も持っちゃいけません。相手は、こっちの気持ちなど関係なく襲ってくるのですから……。
「はぁ……。分かっちゃいるよ。でも、魔獣族が来る事はない。あいつ等は、死ぬ事に慣れているんでな。今回もこちらに来る事になる以上、無鉄砲に敵に突っ込む可能性が高い。そうすれば、すぐに死んでしまうからな。今は命について再教育中の筈だ。クランヌ様もブレイン様もあいつ等には死んでほしくないと思っているみたいだからな」
そうですか……。とはいえ、エスペランサ軍と、この国の軍で、充分時間稼ぎは出来るでしょう。
「紫頭。この国の事を頼みますよ。姫様。早めに帰ってきますから、安心してください」
「分かったわ。レティ達も気を付けてね」
「はい」
私達が、大門に向かって歩き出すと、姫様が私達を呼び止めます。
「レティ? マイザー王国まではどうやって行くつもりなの? 馬車の手配もしていないみたいだし……」
「そう言えばそうだな。どういう方法でマイザー王国へと行くつもりだ? 距離的に結構あるだろう?」
そう言えば、移動手段を誰にも言っていませんでしたね。
隣国と言っても、馬車で二週間以上かかります。そんなにゆっくりもしていられませんから、馬車なんて使いませんけど。
「転移魔法陣を使いますよ。数か月前に、私が自ら移動して、誰にも気づかれずに、侵入出来る場所を見つけておきましたよ? 各王の謁見の間に、いきなり移動するのもいいんですが、それは流石に礼儀知らずという事になりますから……」
私の頭の中にはこの世界、全ての国の場所と、気付かれずに侵入できる場所が入っています。
「ちょっと待て、お前はマイザー王国出身だが、マイザー王国王都に入った事は無いんじゃないのか?」
「え? ありますよ? もともと滅ぼす予定だった国にくらい、一度は行った事ありますよ?」
「ん? という事は、元々マイザー王国を滅ぼす予定だったのか?」
当たり前じゃないですか。
この世界は、滅ぼす予定だったんですから。
私は、ついつい笑顔で返してしまいます。
その表情に、レッグさんが私の考えている事に気付きます。
「ちょっと待て、お前はエレン嬢が酷い目に合ってから、世界を滅ぼそうと思っていたんじゃないのか!?」
私の言葉に、その場にいる全員(カチュアさんを除きます)が顔を青褪めさせます。
これは少し、弁明をしておきましょうか?
「レッグさんは勘違いをしている様ですね」
「勘違い?」
「はい。私はエレンと出会う前から、この世界の全てを恨んでいましたから、元々大きくなったら、世界を滅ぼすつもりでしたよ?」
私は笑顔でそう答えます。
「あ、最初はエレンの存在が、私の復讐の歯止めになっていたんですよ? それを壊したのは教会であり、ウジ虫達です」
そうです。
私はエレンがいたから、この世界を滅ぼそうという考えは持たなくなりました。
私は単純ですから、大好きな人が出来ると、その人を守る事だけを考えます。
「い、今はどうなんだ?」
「はい。姫様の守ろうとしているこの国と、同盟を組んでいるエスペランサ以外は滅べばいいと思っています」
だから、世界が敵になるとしても、何の情もないんですよね。
この国の邪魔をするというのなら、こちらから攻めたいくらいですから……。
この国には大好きな人が沢山いますし、魔族に関しては、一度戦った敵は、心の友になると何かの小説に書いていました。
まぁ、クランヌさんは良い人なので、今後、姫様の助けになると思ったんですけど……。
ん? レッグさんの顔が、少しだけ曇りましたよ? どうしたんでしょうか?
「お、お前、どういった子供時代を過ごしてきたんだ?」
私の子供時代ですか? そうですね……。
「普通とは言えませんね。私が物心ついたときには、既に私達親子は虐げられていましたから……」
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