最終話 邪神の置き土産
私はレティシアちゃんの気配を探りつつ転移する。しかし、どういう状況なのかは分からないが、強く感じる事が出来ない。それどころか、今も徐々に気配が小さくなってきていた。
「もう少し感じる事が出来れば、レティシアちゃんの傍に転移する事が出来るのに……早く見つけないと、間に合わないかもしれない」
レティシアちゃんが作った空間とはいえ、広さはそこそこある。しかも、レティシアちゃんの姿は幼い少女だ。
せめて邪神の姿が今もあれば……。
そう思ってレティシアちゃんの気配を探っていると、横たわるレティシアちゃんを見つける事が出来た。
私はレティシアちゃんに駆け寄り、生存を確認をする。
「生きている……でも、危険な状態だ。でも、今すぐに治療しないといけないわけじゃない……だからこそ、異物を除去する必要がある……」
私は横たわるレティシアちゃんに話しかける。
「話をする事が出来るかな?」
しかし、レティシアちゃんからの返答はない。レティシアちゃんの意識は完全にないだろう。だけど、私が声をかけたのはレティシアちゃんにじゃない。
どういう形で『答え』が返ってくるのか待っていると、レティシアちゃんの胸辺りに光の球が浮かび上がった。
『お前は何者だ? この娘の関係者か?』
「初対面だから、自己紹介は大事だよね。私はサクラ。神々の王だよ。君はレティシアちゃんと戦っていた邪神だね」
『そうだ……』
やはりこの光の球は邪神だったか。しかし、どうしてレティシアちゃんの中に邪神が? いや、それよりも……。
「ステージュは邪神というのは知性がないと言っていたんだけど、君にはちゃんとした知性があるように見えるけど、自分の世界では黙っていたのかな?」
今の邪神であればステージュも話し合いという手段もとれたはずだ。だけど、ステージュが天災と認定していたくらいだ、きっと意思を持たずに暴れていたのだろう……。
『お前が神々の王というのであれば、そのステージュというのが我が世界の神なのか?』
「そうだよ。とはいっても、神族が勝手に世界を管理しているだけだけどね」
『なるほど……理解した。しかし、我の知識に関しては、神が言う事は正しい。我が世界では、我は力に支配され暴れるだけの存在に成り下がっていたからな』
力に支配される?
うん、理解したよ。力を抑えきれなくて暴れだすってところか……。
「なるほど。君の事を理解したよ……だけど、もう一つ気になる事もあるんだ」
『なんだ?』
「どうして無理やり起こされた場合も暴れたの? 力を抑えていられるのなら、暴れなくても良かったじゃない」
『それは仕方がない。眠りを妨げられ許せる者などこの世に存在するのか?』
ふむ。
なんとも人間らしい理由だね。邪神も元人間だったのかな?
『理解してくれたか?』
「あはは……私も神々の王とはいえ、元人間だからね。言っている事は充分わかるよ。それで、本題なんだけど、どうして邪神がレティシアちゃんの中にいるんだい? もしかして、負けた腹いせに操ろうとでもしていたのかい?」
もしそうだというのなら、私はこいつを今ここで消滅させる。しかし、邪神の答えは予想とは全然違うモノだった。
『惜しいと思ってな……』
「惜しい?」
邪神の話では、ヒロテロには自分と対等に戦える者はいなかったから、レティシアちゃんと戦っていて楽しかったと……そして、自分が生き残っても元の世界には天災しか起こせない。それならば、この戦いに満足して消えようとしたそうだ。だけど、命懸けで自分を倒そうとし、今まさに命が尽きようとしているレティシアちゃんを見て、この子を死なせるのが惜しいと思ったらしい。
「それで、レティシアちゃんの中に寄生して、レティシアちゃんの命を長らえようとしたわけかな?」
『寄生か……その表現は少し違うな。我という人格は直に消える。この娘には我の力を引き継がせるつもりだ。しかし、我が延命させていたとしても、そのまま放置していてもいずれは力尽きてしまうと思った。我は、どうにかこの空間を出ようとしたのだが、どう出ればいいのか皆目見当もつかなかった……。その時にタイミング良く、お前がここに来た』
「つまりは君の力を使ったとしても、レティシアちゃんの延命は長くは出来ないという事かな?」
『そうだな……できるだけ早く適切な処置は必要になるだろう。我の力が安定するまではこの娘は目覚めぬと思う』
「どのくらいの期間?」
『さぁな。我には分からぬ。それこそ数時間後かもしれんし、百年後かもしれん』
「あはは……本当に曖昧だね」
となると、レティシアちゃんはエレンちゃんの傍に居させるよりも、神界に連れて帰った方がいい。神界で空間を固定してしまえば最悪死なせる事はない。いつ目覚めるかは正直分からないけど……。
「分かったよ。後は私が引き継ぐよ」
『そうか。なら我はこの娘の生命力になるとしよう……』
そう言って邪神はレティシアちゃんの体の中に再び入っていく。
さて、ここからは私の仕事だ。レナータが生命維持の魔宝具を借りてきているはず……多分ね。
私はレティシアちゃんを抱き上げ神界へと転移した。
その後はその後で大変だった……。
カチュアちゃんがレティシアちゃんが死んだと思って身投げしようとするし……でも、おかげでレティシアちゃんの世話をしてくれる子が見つかった。
私が世話をしても良かったんだけど、神王が人間の女の子を甲斐甲斐しくしていると、うるさく言ってくる神族もいるはずだ。その為にはカチュアちゃんにも神族になってもらわないと困る。
……師匠はあの世界の英雄さんでいいかな。
そして、二十年後ついにレティシアちゃんが目覚めた。
目覚めたばかりのレティシアちゃんはとても弱っていた。二十年も眠っていたんだ。仕方がない。
しかし、カチュアちゃんの献身的なサポートのおかげもあって一年も経たずに元の力を取り戻していた。
そして、その四年後……。
「あはは。レティシアちゃん。カチュアちゃん。君達の世界でアブゾルの残党がまた好き勝手やっているそうだよ」
「まだ、アブゾルが生きていたの?」
「そうだね。まだ、君が閉じ込めた神像の中にいるはずだよ。きっと、二十五年の月日で封印が弱まったんだ。それで眷属を作り出しファビエを襲おうとしているんだろうね」
「殺しましょう」
カチュアちゃんはやる気だ。しかし、レティシアちゃんは気まずそうにしている。
しかし、そこはカチュアちゃんがレティシアちゃんをフォローしていた。
この二人はもう大丈夫だろう。
私は二人が神界所属になっている事を話し、二人を送り出した。
タイミングはバッチリのはずだよ。
「さて、次の仕事はパラレルワールドのレティシアちゃんを導く事かな……。まぁ、あっちは干渉しなくともレティシアちゃんが滅びの道に行く事はないんだけどね……」
私は並行世界の私に意識を移した。私の干渉はまだまだ続く事になる……。
これで正真正銘の完結です。もしかしたら改稿を続けるかもしれませんが、完結後は改稿できるんかな? まぁ、出来たらやっていきます。
新作です
ずきんなしのレイチェル https://ncode.syosetu.com/n3491gj/