9話 借金
私は泣きそうになりながら、自分の部屋に戻ってきた。
私が泣きそうなのは、強欲女神が原因だ。
彼女のお店に、ホムンクルスを売ってもらいに行ったのだが、元々ホムンクルスという魔宝具は、超高額な魔宝具で手に入りにくいのだが、魔宝具作りが趣味のいつきちゃんが、格安(大嘘)高性能(これは本当)量産可能(ありえない)で売り出した。
私はいつきちゃん達が女神になった当初から知り合いだったので、少しだけ(本当に少しだけ)おまけしてもらっているのだけど、今持っているお金では、ホムンクルスを三体しか買う事が出来なかった。
それどころか、抱き合わせでいろいろ買わせようとしてきて、断ると後が怖いからと買ってしまった結果、いつきちゃんに借金までしてしまった。
「うぅ……。私、神王なのに……。はぁ、またアルバイトに魔物退治に行かなきゃ……」
私は目に少しだけ溜まっていた涙を服の袖で拭き、魔王クランヌのところへと転移する。
以前レティシアちゃん達のところへ行った時に、ホムンクルスを渡したんだけど、アレは旧型で、性能的にはいつきちゃんのホムンクルス、通称、強欲印のホムンクルスの方がはるかに上だ。
旧型のホムンクルスにも、術者の姿と同じ姿に変化するという機能があるのだが、あくまでできるのはそこまでだ。だから、ただいるだけの人形できるだけだ。しかし、強欲印のホムンクルスは術者により、ある程度、人間に近い動きができるようになっている。
魔王クランヌに旧型を渡したのは、ホムンクルスの姿形を安定させる特訓をしてもらうためだ。
ホムンクルスというのは、なかなか扱いが難しい魔宝具なので、旧型を完全に使いこなせてから、在庫に置いてあった強欲印のホムンクルスを渡す予定だったのだ。
私がエスペランサの謁見室に転移すると、クランヌが二人いた。一人は間違いなくホムンクルスだ。
ホムンクルスは表情がないから、簡単に見分けがつく。
しかし……。
「サクラ様。姿形はほぼ完璧に変化させる事が出来ました」
「うん。思っていたよりも遥かに早かったね。現に、無表情という以外は、本人と瓜二つだね。でも、君の姿形じゃ、ダメだよ?」
「はい。それについては問題ありません。城下の方に、威厳たっぷりの老人がいるので、彼に報酬を支払い頼み込みました。一度、偽りの神を名乗ってしまえば、彼はしばらく表を気楽に歩けなくなりますから、エスペランサ城で客人として匿う予定です」
「うん。それならば、問題ないね。もしかしたら、アブゾル教の信徒がその老人を襲っちゃうかもしれないからね」
魔王クランヌには、アブゾルが生きている可能性については教えていない。
まぁ、生きていると確定しているわけでもないし、下手に話すと無用な混乱を招くというのもある。
「それよりも、言い難いのですが……」
「ん? 何かな?」
「いえ、その老人を使えばホムンクルスに頼らなくてもいいのでは?」
「え……?」
そ、そう言えばそうだ。
ちょ、ちょっと待って。すぐにホムンクルスを使う有用性を考える。
あ、思いついた……。
「そ、そうかもしれないけど、本人を使えば、いつ襲われるか分からないでしょ。あ、そうだ。老人の声はそのまま使わせてもらうけど、姿形も少しだけ弄っておこうか……」
私は新しいホムンクルスに少し改良を加える。魔宝具の開発は得意じゃないけど、少しだけ改造する事は出来る。とはいえ、強欲印の魔宝具は、改変防止の魔法が何重にもかけてあるから、少し厄介だ。
「クランヌ君。その老人を連れてくる事は可能かな?」
「え? はい。少し、お待ちください」
どうやら、すでにお城の方に呼んでいるらしく、十分ほどで連れて来てくれた。
老人は魔族でクランヌ君よりも姿だけは威厳があった。あ、クランヌ君も威厳はあるんだけど、この老人の方が見た目は魔王っぽい。
「このお爺さんだね。クランヌ君、このお爺さんを見て、ホムンクルスに魔力を流してくれない?」
私は旧型のホムンクルスではなく、強欲印のホムンクルスをお爺さんの前に立たせる。そして、クランヌ君はホムンクルスに魔力を注ぐ。
すると、ホムンクルスの姿がお爺さんに似た姿に変わる。
「む? ワシの姿とは少し違うぞ?」
お爺さんも目の前のホムンクルスの姿に少し驚いている。どうやら改良は成功したようだ。
「うん。お爺さんと全く一緒にしてしまえば、アブゾル教が滅びない限り、危険が伴うからね」
私はクランヌ君にホムンクルスの使い方を教え、神界に戻った。
クランヌ君にホムンクルスを貸してから、一か月近く経った。
この一月で、レティシアちゃんはホムンクルスの偽物の神、ギナを各国々を回って広めようとした。だけど、アブゾル教が主流の為、あまりギナ教は信じられていなかった。
確かに、神ギナの姿が現実に見えるとしても、何百年も崇拝され続けていた神アブゾルの方を信じるのは仕方がないというモノだ。無神論者でない限り、アブゾルを信じるだろう。それは仕方がないと思う。
「おや? レティシアちゃん達は、今度はエラールセに行くみたいだね」
「エラールセといえば、サクラ様が何度か足を運んでいた国ですよね。何をしに行っていたのですか?」
レナータの言う通り、私はこの一か月の間に何度かエラールセに足を運び、間者の真似事をしてファビエの情報を流した。
この世界には珍しい、本物の力持ち、世界を統治する資格のある皇王、グローリアがいる国だ。
「グローリア皇王にファビエの情報や、レティシアちゃんがアブゾルを殺したという情報を流したんだよ。ついでにギナという偽の神の事も伝えておいたよ」
「え!?」
レナータは驚いている。
だけど、情報を与えておく事でグローリア皇王とレティシアちゃんが手を組みやすいと思ったのが、情報を流した理由だ。
しかし、レナータはまだ不安があるようだ。
「もし、ファビエとエラールセが戦争になったら……」
「大丈夫。絶対にそれはないよ」
うん。
それだけは間違いなく『ない』と断言できる。