8話 新たな問題
レティシアちゃんがアブゾルを倒して数週間が経った。
本来であれば、諸悪の根源であるアブゾルが倒されたのだから、適当な神族に管理をさせ手を引くのが普通なのだが、私はレティシアちゃんの事が気になり、今も観察を続けていた。
アブゾルがいなくなり、勇者や魔王の脅威もなくなったファビエ王国は平和……とは言えなかった。
神アブゾルを失った事を知らないアブゾル教の信徒は、ファビエの教皇を無残に殺したレティシアちゃんを神敵認定して毎日のようにファビエ城に抗議をしていた。
「まったく……、アブゾル教の連中は何を考えているんだろうね。アブゾルは信徒の事を道具としか思っていなかったのに……」
ファビエの様子を魔宝板で見ていると、レナータがコーヒーを淹れてくれた。神族は寝たり食べたりしなくても問題ないんだけど、私は元人間だから、今でも食事もとるし、たまに寝たりもする。それを知っているレナータはこうしてコーヒーなどを淹れてくれる。
「また、ファビエの事を見ているのですか? あ、ファビエといえば勇者タロウはどうなったのでしょうか?」
「うん? あぁ、アイツなら、今も生きているよ」
「え? 勇者タロウはエレンを酷い目に遭わせた下衆でしょう? そんな相手をレティシアは生かしているという事ですか?」
「そうだよね。私も当初はレティシアちゃんがタロウに同情して生かしておいたのかな? と思ったけど、それは勘違いだったみたい……」
私はレナータにも見えるように魔宝板を移動させる。そこには、笑いながらタロウをどつきまわすレティシアちゃんが映っていた。あ、補足だけど、どつくといっても素手ではなく鉄のこん棒を使い、そのこん棒が変形するほどの威力でだ。
「え? この子は何をしているんですか?」
「えっと……拷問?」
タロウはアブゾルによりいくつも魂を持たされているから、ちょっとやそっとでは死なない。それに……。
「サクラ様。タロウって自己再生能力でも備わっているのですか?」
「あぁ、アブゾルが自己再生能力を持たせていたみたいだね。アブゾルとタロウの繋がりが消えた時点で再生能力も無くなっていると思っていたんだけどねぇ……」
レティシアちゃんが自己再生能力を残しておいたのか、それともアブゾルが滅びていないか……のどちらかかな。
「そう言えば、アブゾルを崇拝していた人間達はどうなったのですか?」
「今も前と変わらず活動しているよ。そもそも、アブゾルは信徒や司教などに姿を見せていたわけじゃない。それどころか、教皇達にも姿を現せていないんだ。いなくなったとしても何も問題はない。今まで通り、アブゾル教の信徒はアブゾルという偶像を崇拝するんだよ」
だからこそ、アブゾル教の信徒達は今日もファビエ王城に抗議に行くんだろう。
まったく、そんな事をしてレティシアちゃんを刺激してどうするのか……。
まぁ、この問題には私が手を出す事はない……、いや、もしレティシアちゃんが何かしでかそうとしたら、止めるつもりだけど……。
「さて、レナータ。エレンちゃんの調子はどう?」
「はい。今は強欲の女神のいつきがお金についてとても熱心に語っているはずです」
……はい?
「いやいや、レナータ!? 今すぐ止めて来て!!」
「え?」
「強欲女神にお金の事を話させているって、エレンちゃんまで強欲になったらどうするの!?」
「え!? は、はい!!」
レナータは慌てて部屋を出ていく。
まったく、私に役に立たない魔宝具を買わせて、しかもエレンちゃんに余計な知識を……。
はぁ……。レナータだけじゃ、強欲女神を止められないだろうし、私も行くか……。っと思ったけど、耳を疑う言葉が聞こえてきた。そして、慌ててレティシアちゃんに会いに行った。
数時間後、私はげんなりした顔で神界に帰ってきた。
あーうー。
どうしてレティシアちゃんは、こうも問題行動と発言が多いかなぁ……。アブゾル教の信徒を皆殺しにするなんて……、介入するつもりはなかったけど、介入しちゃったよぉ……。
しかし、余計な事を言ったかなぁ……。
新たな神を作る。しかも、ホムンクルスを使う……。アレの在庫ってあったかなぁ……。なかったら、また強欲女神から、ホムンクルスを買わなきゃいけないかも……。
「はぁ……。ようやくエレンを強欲女神から取り返せました……。エレン、強欲女神はお金に汚いから話を信じてはいけませんよ」
「え? でも、お金は大事ですし……」
はぁ……。短時間でもうお金を大事だといっている……。いや、お金は大事だけどさぁ……。
「レナータ。ホムンクルスの在庫ってまだあったっけ?」
「え? あぁ、確かもうないはずです。武神魔王が「あしの新技の餌食にするっすー」って全部持っていきましたよ」
……やられたかもしれない……。
強欲女神……、あの子だったらアブゾルの世界の行く末を予想できたかもしれない。そのうえでホムンクルスを使うと予想していて、武神魔王に持っていかせた? い、いや、まさか、そんなはずはないよね……。
「レナータ。私の貯金っていくらあるかなぁ?」
「サクラ様。神たる私達がお金という俗っぽいモノを所有するのは本来、嘆かわしい事なんですよ」
「へぇ……。なら、レナータが強欲女神からホムンクルスを貰ってきてよ」
私がそう言うと、レナータの顔が青褪める。私はレナータがあの子を苦手としているのを知っているからね。
「わ、分かりました。サクラ様の私物の金額を調べてきます……」
「うん。お願いね」
お金……足りるかなぁ……。
強欲女神と武神魔王を名前で呼ばないのは不自然と思い、名前をもう出しました。完結も近いし、いいよねww