7話 疑惑
あーあ。
やっぱり断られたか。
レティシアちゃんと接触した私は肩を落としていた。レティシアちゃんに神族になるよう打診したけど、即答して断られた。
エレンちゃんの事を話せば、すぐに承諾してくれたろうけど、エレンちゃんと今は会わせるわけにはいかないね。
それに、気になる事もある。
アブゾルとレティシアちゃんは、アブゾルが作り出した空間で戦っていた。私がレティシアちゃんの前に行ったのは、アブゾルの魂を捕らえ永遠の罰を受けさせる予定だったんだけど……、アブゾルが作った空間と一緒に、そのまま消滅でもしたのかな?
消滅したら消滅したで問題はないけど、今まで神界から逃げ回っていたアブゾルが簡単に消滅するかな? という疑問も残る。
一度、調べてみるかな?
私は神界に戻り、アブゾルの過去について調べようとする。とはいえ、アブゾル本人も目の前にはいないし、アブゾルの存在を知ったのもつい最近の話だ。その状態でどうやってアブゾルの事を調べるのか……。
「なにか、アブゾルの事が分かるものがあればいいんだけど……」
ちなみにアブゾル教会から聖典を拝借してきたが、まったく読む価値もない物だった。
聖典にはアブゾルを崇める事だけが書かれており、アブゾルの功績など何も書かれていなかった。
そもそも、アブゾルはいつあの世界に来たのか……。アブゾルは純粋な神族なのか……。それとも、私の様に別の種族から神族になったのか……。それすら分からなかった。
「これは厄介そうだね。アブゾルの死体は仕方ないとしても、魂の残滓すらないのが気になる。何か、アブゾルの過去を調べるいい方法はないかなぁ……。あ、良い事を思いついた。あの子の作った魔宝具ならアブゾルの事を調べられるかもしれないね」
私は自分が溜め込んだ宝石や強欲の女神が管理している世界で使える金貨を袋に詰め込み、強欲の女神に過去を調べられる魔宝具を売ってもらいに行く。少し前に、過去を調べる魔宝具を開発したと売り込んできていた。
二時間後……、彼女のお店から帰ってきた私は泣きそうになっていた……。
「あの子……。すごく足元を見てきて、かなり高く買わされた……。前に断っているからかなり高く吹っ掛けられると思って家を一軒買えるくらいのお金と宝石を持って行ったのに……全部取られた……」
で、でも、これでアブゾルの過去を調べられるはず。
私は買ってきた魔宝具の説明書を開く。するとそこには衝撃的な事が書かれていた。
『調べたい対象の皮膚や髪の毛、もしくは持ち物などで過去を調べる事が出来ます。あ、間違っても、何もない状態で調べないでくださいね。何も調べられませんから(笑)』
私は呆然として説明書を落とす……。
「って、アブゾルの遺留品なんて何も残ってないよ!!」
ど、どうしよう……。
面倒な事にレティシアちゃんとアブゾルが戦ったのは特殊な空間だった。その異空間を作っていたのはアブゾル自身だし、アブゾルが死ねばその空間は霧散する。つまりはその中に残っていたアブゾルが使ったモノ、死体は霧散した事になる。
「も、もしかしたら聖典を使えば、アブゾルの過去が見れないかな?」
私は魔宝具に聖典を設置する。すると、付属の魔宝板にある映像が浮かび上がった。
やった!! とそう思ったのは、完全に画面が映るまでだった……。
『この聖典が……世界に広まれば世界にアブゾル様の信徒が増えるはずじゃ……。皆、頑張って製本するんじゃ!!』
『はい!!』
そこには人々が協力して、一生懸命製本している姿が映っていた。
あぁ、世界に広めるためにとても苦労したんだなぁ……。あ、あの人倒れた。でも、周りの人達が涙を流しながら『あとは俺達に任せろ!!』と熱く語っている。青春だなぁ……って。
「製本現場を見たいんじゃないよ!!」
私は魔宝具を床に叩きつけた。でも、魔宝具は傷一つついていない。
クソっ。魔宝具は壊れやすいのもあるというのに、これは壊れないのがまた腹立つ……。と思っていたら説明書のある文言に目が付いた。
『調べたいモノを調べられないからといって、地面に叩きつけたとしても絶対壊れないように強度を極限まで高めました。だから、万が一、壊れても保証しません。私はお金を返しません』
き、きぃいいいい!!
あの子の性格の悪さが滲み出ているような説明書きだ!! ひ、久しぶりに全力でムカついたよ。
私は魔宝具を拾う。壊れてないけど、もしかしたら、万が一アブゾルの遺留品が見つかったら役に立つかもしれないし、とりあえず仕舞っておこう……。