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休暇

 たまの休みで、目覚まし時計も使っていないのに、義人はまた、この二日間と同じような時間に起きていた。

 昨日は、さらに寝る時間が早かったというのもあるかもしれない。それにしても、不思議と毎回同じような時間に、自然に起きられている。例のごとく、目覚めも悪くない。

 義人はどちらかというと、睡眠に関しては不健康な方で、特に休日ともなれば、大抵二度寝はするし、正午近くまで寝ている事も多かった。

 それが連日、すっきり起きられるようになったのだから、あの特殊な明晰夢も、新たな健康法のような気さえしてくる。

 元がそんな風なので、河津と遊ぶのも、午後からの予定だった。休日に早起きしたのは、かなり久しかったが、午前だけでも数時間ある事を考えると、とても長いように感じる。

 これなら朝食後、予習をしてもいいな、とさえ思ったが、そもそも今日の河津との予定は、街をぶらつきながら参考書を購入する事なので、やはり今はいいかと、義人は思い直した。

 安久下家の朝食は、それぞれが勝手に、パンやシリアルなど、好きなものを食べるようになっている。特に休日は、起きる時間がばらばらだった。

 そのため、扉の開閉も、階段昇降も、なるべく音を立てないようにしている。そうして、いつものようにそろりと降りてみると、やはり、誰もいなかった。

 父は、土曜の場合、授業がある日こそ月に一度だが、通常の出勤よりもよほど早い時間から始まる部活があるため、もう家を出ているだろう。

 一方、事務員の母は、月に一度の出勤を除いて、基本的に休みであり、間違いなく寝ている。

 唯一、土曜もマイペースな時間に研究に出る祖父がいるかもしれないと思ったが、杞憂(きゆう)だった。鉢合わせすると、その研究に関する講演が始まってしまう。

 これ幸いと、手早く朝食を済ませて自分の部屋に戻ると、程なくして、他の部屋の扉が控えめに開く音がした。方向からして、おそらく祖父だろう。ぎりぎりの所だった。

 勉強する気がなくなったので、とりあえずパソコンを()けてみると、早くも恵理からメールが届いていた。彼女は、休日も朝早いのかと思ったが、義人同様、明晰夢の影響で、特定の時間に起きるようになったのかもしれない。

 メールの内容によると、あの後、またも雑談中に義人が落ちたらしいが、因幡も同時に消えたという事だった。突然、目の前の獲物を失った玉藻が、きょとんとしていたのが可愛かったと、書いてある。

 どうやら、恵理が複製存在と呼んだあの二人は、義人達にそれぞれ、(ひも)付いているようだった。もしも、それが義人達の脳での同時処理を意味しているなら、脳の負担が重くなってしまわないかと心配になったが、今の所、体調は特に何ともない。

 ならいいかと、伸びをしつつ、気分を切り替え、恵理への返信を済ませた。

 その後、いつもと同じように、ネットサーフィンをしたが、何分、普段なら、まだ学校も始まっていないほどの早い時間から始めたものだから、一通り終えても、まだ、かなりの時間がある。

 椅子(いす)にもたれかかって目を閉じたが、やはり、もう一度寝られる風でもない。あまりにも健康的なために、義人は逆に戸惑(とまど)っていた。



 河津と別れ、義人が帰路についたのは、夕方だった。

 土日は、炊飯や主菜の加熱役からも解放されており、外出前に風呂掃除さえ済ませておけば、少々帰りが遅くとも、何も言われない。

 しかし、大して遊び回る所がある街でもないので、大抵、夕方には帰ってきている。

 別に義人は志向しているわけではないが、休日は両親とそろって食事する機会でもある。たとえ土曜に仕事があったとしても、夕食には間に合う事が多かった。

 兄弟は、いなかった。恵理にも祖父の年齢から察されたように、義人が産まれたのは父が若い内だったが、母は父よりも十歳年上なので、それで控えたのかもしれない。

 祖父と祖母に至っては、それ以上に離れていた。祖母がすでに他界しているのも、そのためである。恵理に知られたら、ますます家系について、からかわれかねない。

 食事の合間合間、学校の事を聞かれたり、話を振られたりするが、短く適当な返事をする事が多かった。別に義人に限らず、子供が高校生にもなれば、大抵の家庭はそんなものだろう。

 特に今、義人の関心は、毎夜の明晰夢の方に向いていた。

 今日も、行けばすぐに、因幡や玉藻も出てくるのだろうか。因幡が昨日の事で、いきなり逆上してきはしないだろうか。

 そんな事を考えながらだったので、義人はいつも以上に気のない返答を繰り返していたが、父も母も、特にそれを(とが)めたりはしてこない。ただし、期末だけは別で、成績はしっかり見られる。

 祖父がいる時は、非常に活気にあふれた食卓になるが、大抵いつも、帰りが遅い。家で義人に話をしたがるのもそうだが、基本的に飲食しながらの歓談自体を好んでいるので、飲み会に行ってしまう事も多かった。

 もっとも、酒の場で楽しく話をするのは好きだが、酒自体は別に好きというわけではないらしく、悪酔いして帰ってくる事はない。

 ただ、逆を言うと、しらふでも騒がしいので、精神的に落ち着いてきた今の義人にとっては、相手していて疲れる面がある。

 父にはそういう面がないので、似てないなと思うが、父と祖父の仲は悪くない。もちろん、義人としても、嫌いというわけではなかった。

 祖父も、しつこく呼び止めたり、わざわざ部屋まで来たりはしない。そこにいる人間と、楽しく話そう、という性格なだけだった。そして年齢の割に、高校生の義人よりも、活気にあふれている。

 その祖父が帰ってくる前に、義人は両親との会話もそこそこに、食事と片付けを済ませた。さらに風呂と洗濯という残りの日課を終えて、いつもどおり就寝までの間、自室で過ごす時間を迎え、パソコンを点ける。

 新しいメールは、特になかった。異性交遊、あるいは女同士でもあるまいし、遊んだ後の友人に、いちいちメールを送り合う事もない。

 互いの予定の空きや、遊びの約束についても、学校で決めてしまっている事が多く、事前のメールさえ、あまり機会はなかった。

 恵理にしても、後は夢の中で会うだけだろう。河津同様、逐一連絡しなくてもいいものではある。それもどうやら、学校と違って、週休さえある風でもない。

 夢で恵理と会うようになってからは、パソコンへの依存度は下がっていた。関心が、多角化したお陰かもしれない。

 今も、一応点けてはいるものの、あまりそちらの方を見る事はなく、今日買った参考書をぱらぱらとめくり、おおよその構成を把握(はあく)している所だった。

 明日から、少しずつやっていこう。義人はそう考えながら、伸びをした。どうあれ、こうして一人でいる時間が、やはり一番落ち着いていられる。

 言葉では安眠と言うが、今や、睡眠中の方が落ち着けない。今日もきっと騒がしいのだろうと、義人は顔を綻ばせながら思った。

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