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第99話 確かな希望

※修正しました。(前半、1000文字ほどエクスの心情を加筆しています。既に読んでくださったかたには申し訳ありません! この修正でストーリーが大きく変わることはありません。)


更新お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。

本日から再開となります。

更新予定などは今後、活動報告等でお知らせしていくつもりです!

遅くとも週1、可能ならもっと早く更新できるようがんばっていきますので、今後とも応援よろしくお願いいたします!


「え……?」


 自分でも驚くくらい間の抜けた声が漏れた。

 俺は呆然とフィーがいたはずの場所を見つめる。

 でも、数秒前まで隣にあった温もりが、そこにはなくて……。


「フィー……?」


 混乱した思考を抱えたまま、俺は彼女の名前を呼んだ。

 だけど、当然のように返事はない。 

 室内を見回しても、どれだけ彼女を探しても、この部屋の中にフィーはいないことが、俺に現実を叩きつけてくる。

 そして、次第に混乱が焦燥感に変わって。


「フィー!? ―――フィー!?」


 皇帝陛下の前だというのに、俺はみっともなく声を荒げてしまった。


「エクスくん、どうかしたのか?」


「ど、どうかしたのかって……フィーが……!?」


 陛下は俺に怪訝な顔を向ける。

 自分の娘が消えてしまったというのに、なぜこれほど平然としていられるのか?


「フィー? なんのことだ?」


「なんのって……」


「突然、立ち上がって声を荒げるものだから驚いたぞ」


「陛下……?」


 フィーが消えたことに気付いていないのか?

 いや、それどころかゼグラスの態度は――フィーの存在自体を忘れてしまっているみたいだった。


「エクスくん、さっきからどうしたんだね?」


「……本当に……フィーのことを、覚えていないんですか?」


「……? すまないが全く聞き覚えのない名前だ」


「っ……」


 思わず歯を噛み締める。

 陛下の態度に嘘はない。

 何かが起こったのことは間違いない。

 それでも――。


「どうして……フィーのことを、あんたの娘のことを忘れてるんだよ!」


「娘……?」


 陛下が悪いわけではないのだろう。

 それでも、俺は怒りをぶつけてしまった。

 情けない。

 心の中で自己嫌悪に陥る。

 それでも叫ばずにはいられなかった。


「フィー……第五皇女フィリス・フィア・フィナーリア……ティア皇妃と陛下の娘なんです!」


「……余とティアの娘? エクスくん、君はさっきから何を……?」


 ゼグラスは、俺を訝しむように目を細める。

 俺がおかしくなった……と、思っているのだろうか?

 決して嘘を吐いてるようには見えニア。

 何より、陛下が嘘を吐く理由などないはずだ。


(……クソッ!)


 焦燥感と苛立ちが積もっていく。

 ダメだ。

 こんな時こそ、冷静になれ。

 何かが起こったのは間違いない。

 だけど、何が……?

 もしこんな状況を引き起こせる可能性があるとすれば……。


(……何らかの魔法か?)


 記憶が書き換えられたのか?

 だから陛下はフィーを忘れている?

 もしそうなら、魔力の抵抗が高い者に効果が出なかった?

 この場にいる者に影響を与える魔法なのか、それとも大陸全体……?

 だが、それほど大規模な魔法を使えば、魔力の残滓が残らないはずがない。

 いや――もし記憶が書き換わっているだけならいい。

 最悪なのは、本当にフィーの存在がこの世界から消えてしまっていたら……。

 考えれば考えるほど不安が募っていく。

 何か手掛かりは――。


(……そうだ!? 結合指輪コネクトリングは!?)


 この指輪リングを通せば、フィーに言葉を、想いを届けられるはずだ。

 そう思い立ち俺は結合指輪を通じてフィーに呼びかける。


(……頼む! フィー、返事をしてくれ!)


 だが、結合指輪コネクトリングは反応を示さない。

 それどころか、フィーの気配が完全に消失している。


(……フィー! フィー!! 頼むから……返事をしてくれ!?)


 何度も、何度も、俺は彼女の名を呼んだ。

 だけど……どれだけ心の中で叫んでも、俺の声はフィーには届くことはなくて……。


「エクスくん、どうかしたのかい?」


 困惑する俺を見兼ねたのか、マリンが声を掛けてきた。


「マリン……お前も覚えていないのか?」


「はて? それはなんのことを言っているんだい?」


 マリンは首を傾げた。

 飄々とした態度もあり感情が読み取り難いが、彼女も陛下と同じくフィーのことを覚えていないようだ。


(……これがもし魔法による事象なのだとしたら……)


 俺に気付かずこの状況を作り出せるような奴がいるのか?


(……ルティス? いや、あいつがフィーに危害を加えるような真似をするわけがない)


 あの魔王は横暴なところもあるが、決して身内を傷付けるような真似はしない。

 じゃあ、誰がフィーを?

 何の目的で?

 考えれば考えるほど、泥沼に沈み続けていくような気持ちの悪い感覚が、不安が俺を襲ってきて――。


「っ――」


「え、エクスくん、どこへ!?」


 俺の名を呼ぶ皇帝の声に振り向くことすらせず、俺は部屋を飛び出した。

 フィーの居場所がわかったわけじゃない。

 それでも何かせずにはいられなかったんだ。




          ※




 王城を出て、街中を駆けながらフィーの姿を探す。


(……フィー、どこにいるんだ?)


 彼女をどれだけ想っても、結合指輪コネクトリングが光を放つことはない。

 少し前までは、心まで通じ合っていたのに。

 あれほど身近にあったフィーの存在を今は微塵も感じることができない。

 信じられない虚無感が、感じたこともない寂しさが俺の胸に渦巻いていく。 


(……もし、このままフィーに会えなく――)


 途中まで考えて、俺はその最悪の思考を振り払った。


(……弱気になってどうする)


 俺はフィーの恋人で、彼女の騎士だ。

 絶対に守ると誓った。

 だから――何があってもフィーを助け出す。


(……何か手掛かりは?)


 俺は王都の人々に、第五皇女フィリス・フィア・フィナーリアに付いて聞いて回った。

 だがあれほど国民から敬愛されていたフィーを覚えている者は、ただ一人としていなかった。

 しかし、皇族の反乱を俺が鎮圧したことに関しては町人たちの記憶に残っている。

 記憶の一部――フィーに関わることのみ改竄されているようだった。


(……これじゃ俺がおかしくなったみたいだ)


 フィーを覚えているのは、この世界で俺だけになってしまったのだろうか?

 学園の生徒たちはどうだ?

 もし何らかの魔法が使われたとしたら、効果範囲は?

 魔法への抵抗力によって記憶の改竄を防ぐことが可能なら、ルティスたち――魔界から来たあいつらなら、フィーのことを覚えている可能性もあるのではないだろうか?


(……少しでも手掛かりを得られる可能性があるなら)


 俺は一縷の望みを抱きながら、急ぎ宿泊施設に向かった。




          ※




 ホテルに入ると直ぐに、メイド服の少女の姿があった。

 フィーの従者メイドであるニアだ。

 幼馴染であり忠実な従者として長く付き添ってきたニアなら、フィーのことを覚えているかもしれない。

 二人の関係性を考えれば、俺とはまた違った絆で結ばれているのだから。


「ニア!」


「え、エクスさん? そんなに慌ててどうされたのですか?」


 安心感のある柔和な笑顔を向けられる。

 だが、俺は少し緊張していた。


「……フィー……フィリスのことなんだが……」


 そして、躊躇うように彼女の名を口にする。


「……? え、え~と……学園のお嬢様でしょうか?」


「っ……」


 フィーに心からの忠義を誓っていたニアでさえ、何も覚えていないのか?


「……え、エクスさん? わ、わたくしは、何か気に障るようなことを言ってしまったでしょうか?」


 口を閉ざす俺を見て、フィーの従者であったはずの少女は不安そうに尋ねてくる。


「いや……すまない。

 一つ尋ねたいことがあるんだが……」


「はい?」


「ニア……お前のあるじの名前を教えてくれないか……?」


「主……?

 わたくしは、ユグドラシル帝国皇帝に仕える身なので……あれ?

 わたくしは……わたくしの主は……っ……」


 痛みを堪えるように、ニアが頭を抱える。


「大丈夫か?」


「す、すみません……。

 一瞬、誰かの顔が頭に浮かんだ気はしていたのですが……あれは……?」


「ニア……」


 俺の胸に微かな希望が芽生える。

 どうやら、完全にフィーの存在が消えてしまったわけではないらしい。

 だが無理に思い出そうとすることで……何らかの障害が発生しているのかもしれない


「すまなかった。

 ありがとう、ニア」


「い、いえ……わたくしは、何か役立てたのでしょうか?」


「ああ、十分だ。

 十分すぎるくらい……俺は勇気をもらった」


 フィーは確実にこの世界にいた。

 ニアは、そのことを証明してくれたのだから。



「それなら……良かったです」


「ああ、それじゃあ俺は行くから

 それと――さっき、ニアの記憶に微かに残っていた子がフィーだ。

 だから、その名前を忘れないでやってくれな」


 俺はそれだけ言って、ニアとの話を終えた。


「フィリス……フィリス様……」


 去り際、かつての主の名を懐かしむようにつぶやく従者の声が、俺には確かに届いていた。




          ※




 エントランスから階段を上ると、


「あら、エクスくん。

 どこに行っていたのかしら?

 探していたのよ」


 俺に気付いたニースとリンが、こちらに駆け寄ってきた。

 微笑を浮かべる様子はいつもの彼女と変わらない。

 問題は……。


「何か……あったの? 少し顔色が悪いわ……」


 心配そうに、ニースが俺を見つめる。

 不安を抱えながら、俺は口を開いた。


「ニース……それにリンにも。

 確認したいことがある……フィーのことを、覚えてるか?」


「え?」


 俺の質問に、ニースは目をパチパチさせた。

 やはり覚えていないのか? と、リンに視線を向ける。


「エクス殿のお知り合いですか?」


 結果は想像通りだった。

 ニースとリンも記憶の改竄をされているなら、ホテルにいる生徒たちは全て――。


「ふふっ、リンも冗談を言うのね」


「冗談?」


「リン……私のことを気遣っているのかしら?

 確かに私が昨日……エクスくんとフィリス様の婚約について泣きながら愚痴ばかり言ってしまっていたけれど……」


 ニースがフィーの名を口にした瞬間――ドクンと、鼓動が跳ねた。

 これは間違いなく、いつものニースだ。


「フィリス様……ですか?」


 眉を顰め首を傾げるリンを見て、ニースは不思議そうに目を丸める。


「ニース!!」


「ぇ……?」


 俺は思わず彼女の肩を掴んだ。


「え、えええエクスくん? そ、そんなに力強く、み、見つめられると……て、照れてしま――」


「フィーのことを覚えてるのか!?」


「覚えてるのかって……そういえば、フィリス様はどこに……?」


 ニースが周囲を見回す。

 俺の傍にフィーがいないことに違和感を覚えたようだ。


「……まさか……フィリス様の身に何かあったの?」


 ニースがフィーを覚えてくれていたことは――フィーの存在が消えかかっているこの状況を変える切っ掛けになるかもしれない。

 俺の心に僅かに芽生えていた希望が――確かな物に変わっていく。


「あのお二人が口にされているフィリス様という方は一体……?」


「……リン、あなた……本当にわからないの……?

 フィリス様よ? 皇族! ユグドラシル帝国第5皇女フィリス・フィア・フィナーリア様よ!」


 流石の異常を察してか、ニースの表情が変化した。


「こ、皇女殿下ですか?」


「……王都にいる全ての人間が……フィーのことを覚えていないんだ」


「覚えていない……?」


 言ってニースは、自らの専属騎士ガーディアンである少女を見つめる。

 リンの言動が俺の発言が事実であることの証明でもあった。


「冗談でこんなことを言うあなたではないわよね。

 それに……こんなにも不安そうなエクスくんを見たのは初めてだもの……。

 力になれるかはわからないけれど……事情を聞かせて」


 直ぐにニースは俺を見つめ、そう口にしたのだった。

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