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第96話 マリンの思惑

20180910 更新しました。

          ※




 キャメロット城――王室。

 夜の闇が深まる時間にコンコン……と、ノックの音が響いた。


(……緊急の呼び出し……というわけではないようだな)


 だとすると、こんな時間に平気で皇帝の部屋にやってくる人物をゼグラスは一人しか知らなかった。


「陛下、入ってもいいかな?」


 それは天才と呼ばれる宮廷魔法師――マリンの声が聞こえた。


「……構わぬ、入るがよい」


 ゼグラスが許可を出すと扉が開いた。

 そして、出会った時から変わらぬ容姿の女性が部屋に入ってくる。


「いや~、こんな時間に申し訳ありません」


 マリンは苦笑しながら謝罪の言葉を口にした。


「お前が一度でも時間を気にしたことが……ん?」


 ゼグラスは思わず言葉を止める。

 マリンの背後に意外な人物が立っていたからだ。


「陛下……失礼いたします」


 言って一礼したのは、円卓の騎士の序列第1位――ラグルド・ガラティンだ。 

 彼もまたいつの日からか、マリンと同じように容姿の変化が止まっている。

 幼少の頃から二人を知るラグルドでさえ、彼らの実年齢は知らなかった。


「そんなに私の顔をジロジロ見て、まさか『また』愛の告白というわけじゃないだろうね?」


 二人の様子を見ていた皇帝に対して、マリンはからかうように口を開いた。


「全く……いつの話をしているのだ」


 マリンが『また』などと言ったのは、まだゼグラスが幼い頃――姉のような存在である彼女に、


『いつかマリンをキサキにしてやろう』


 そんな告白をした時のことを覚えているからだろう。


「なんだかつまらない反応だな~。

 もう少し動揺してくれたら可愛げもあんだけどなぁ……」


 公の場では皇帝と臣下という立場を崩すことはないが、マリンは未だにゼグラスを子供扱いする。

 ゼグラスに限らず、彼女からすれば大抵の人間は子供と変わらないのだろう。


「マリン様……陛下をあまり困らせぬよう」


 横から救いの手を出したのはラグルドだった。


「別に困らせているつもりはないよ。

 互いに思い出に浸っているだけさ」


 悪意や邪気は微塵もない。

 微笑するマリンを見て、皇帝は苦笑を返す。

 ゼグラス自身、悪い気はしてない。

 彼にとって『友』と言える存在はこの二人だけなのだから。

 しかし、


「過去を懐かしむ時間というも悪くはない……が、本題は別にあるのだろう?」


 ゼグラスの経験上――マリンとラグルドが二人一緒にやって来るときは、必ずと言っていいほど厄介事を持ち込む時なのだ。


「まぁ……残念ながらそうなんだ。

 今回は許可を貰いに来たんだよ。

 何せ……世界の命運が懸かってるからね」


 マリンの顔から笑みが消え真剣な面持ちに変わった。

 だからこそゼグラスは、それが冗談ではないということを直ぐに理解した。


「また、何かを見たというわけか?」


「そう。

 あやふやだった未来が確定したんだ」


 未来視――運命を見通す力をマリンは持っている。

 信じられない力ではあるが、ゼグラスの経験上、マリンの未来視は外れたことがない。 フィーの母であるティア皇妃を救うことができたのも、マリンの力があってこそだったのだ。

 だからこそ、


「なるほど……それで余は何をすればいい?」


 旧知の仲である宮廷魔法師の言葉を、ゼグラスは素直に受け入れた。


「回りくどいのは好きじゃないから、率直に言わせてもらうよ。

 陛下の娘――フィリス皇女殿下を……」


 が、マリンの口から紡がれた言葉は、ゼグラスにとってはあまりにも意外なものだった。 




               ※




 瞼の上から優しい光を感じ、俺は目を覚ました。


(……もう、朝か)


 意識はまだ覚醒しきっていない。

 心地のいい微睡みに包まれながらも俺はゆっくりと目を開く。


「……エクス、おはよう」


「フィー……」


 腕の中にはフィーがいて、俺に優しい笑みを浮かべてくれる。

 視線を少し下げると彼女の雪みたいに白い肌が見えた。

 俺の意識は一気に覚醒して、昨晩の記憶が蘇っていく。

 そうだ。

 昨晩、俺はフィーと……。

 思い出すと全身が熱くなっていく。


「あ、エクス……エッチなこと考えてるでしょ?」


「ち、違――」


 ただ俺は……これからは


「焦ってるのが怪しいけど……でもね。

 エクスだったらいいからね」


「え?」


「キミが求めてくれるなら……ボクはいつでも応えるから。

 ボクの身も心も全部、キミのものだから」


 頬を赤らめながらフィーが俺を見つめる。

 彼女の想いが、言葉が、その全てが愛しくて俺は自然にフィーを抱きしめていた。


「フィー……俺もだ。

 俺の身も心も……全部、お前の為にある」


「……うん。

 エクス……これからもずっと一緒だよ」


 大好きな人が傍にいる。

 その幸せを噛み締めながら、俺たちは互いの体温を感じ合っていた。

 だが、ずっとこうしているわけにはいかない。

 朝食の時間になればニアが起こしに部屋に来るだろう。

 その前に、


「エクス、戻ったぞ……って、あ……」


 扉が開かれると、その先にはルティスがいた。

 そして抱きしめ合う俺たちを見て……バタン。と扉を閉じた。


「ま、魔王様、どうしたんですか?」


「アン……お部屋入りたい……」


「オレ様は少し眠いぞ。

 まさか徹夜で訓練することになるとは思っていなかったから……」


 扉の外から友人たちの声が聞こえた。


「もう少しだけ時間を潰すぞ。

 あと……1時間もあればいいだろ」


 ナイスだルティス。


「フィー……今のうちに」


「キミとこうしている時間は名残惜しいけど……」


 みんなが戻ってくる前に、俺たちは朝食に向かう準備を済ませるのだった。

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