第95話 結ばれる二人
20180906 更新しました。
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パーティは多いに盛り上がりを見せた。
会場では美しい音楽が流れるのと同時に、ベルセリア学園の貴族生徒をエスコートする形で騎士生徒がダンスを披露する。
こういうのも上級階級の嗜みなのだろう。
「エクス……ボクたちも踊らない?」
「あ~……。
すまないが、ダンスの経験はないんだ」
本当は俺からフィーを誘えれば良かったのだが……。
これだけ多くの者たちがいる中で、皇女の専属騎士である俺が無様な姿を晒すわけにはいかないだろう。
それはフィーの名前を貶めることに繋がってしまう。
「大丈夫だよ。
ボクが教えてあげるから」
「だ、だが……フィーに恥をかかせてしまうかもしれない」
「そんなことない。
キミは反乱を鎮圧した英雄なんだよ?
エクスを馬鹿にする人なんてここにはいない」
「そ、それとこれとは……」
違う……と言い掛けたところで、皇女様は上目遣いで俺を見つめる。
「お願い、エクス。
ボク……キミと踊りたい」
「うっ……」
大好きな女の子にそんな可愛くお願いされて、断れる男はいないだろう。
「わ、わかった。
でも……本当に上手くは踊れないからな」
「うん!
そんなことどうでもいいんだ。
ボクは、キミと踊れることが嬉しいから」
言って、フィーが俺の手を引いた。
突然で驚いたけど彼女はすごく嬉しそうに笑ってくれている。
「ボクのステップに合わせてね」
「こ、こうか?」
「そう。
とっても上手だよ、エクス。」
しどろもどろになりながら、必死にフィーに付いていく。
最初は周囲の様子が気になって、周囲の様子を窺ってみたりもした。
貴族たちにおかしく思われていないだろうか?
などと気にしていると、
「エクス、一緒に踊ってるのはボクなんだよ?
だから今は、ボクだけを見て」
「わ、わかった」
「そう。
ボクたちは、ボクたちでこの場を楽しめばいいんだよ」
楽しむ……か。
確かにその通りだ。
俺は周りの目を気にしすぎていたかもしれない。
一緒に踊ってくれているフィーの為にも――今を思い切り楽しもう。
そう割り切った途端、周りのことは気にならなくなった。
ただフィーを見つめ彼女の動きに合わせてステップを刻む。
フィーを見つめ続けていると、まるで二人だけの世界にいるような錯覚に陥る。
だが、決して不快なわけじゃない。
寧ろ心地がいい感覚に浸りながら、俺とフィーは踊り続けた。
「ふふっ、キミはなんでもできちゃうんだね」
「これでも、いっぱいいっぱいだよ」
だが、次第に奏でられる音楽を聴く程度の余裕ができる。
「フィリス様とエクス様……お二人とも素敵です」
「ええ……本当に。
見惚れてしまいますわ」
気付けば俺たちに会場中の視線が集まっていた。
「ほら、ボクの言っていた通りだよ。
キミを馬鹿にしてる人なんていない」
貴族たちの声を聞いて、フィーは満足そうに笑った。
それから、
「エクス……ボクのわがまま、聞いてくれてありがとう」
「こんなの我儘のうちに入らないよ」
フィーの為なら俺は、どんなお願いだって叶えてあげたい。
俺のできる範囲でならどんなことでも。
「……ならもう少しだけ、ボクと踊ってくれる?」
「ああ、フィーがそれを望むなら」
迷うことなく、俺は皇女様の言葉に頷く。
こうして俺たちは、音楽が止むまで踊り続けたのだった。
※
盛り上がり続けたパーティも終わりを迎え。
俺たちベルセリア学園の生徒は宿泊施設に戻っていた。
「お、やっと帰ってきたか」
部屋に戻るとルティスが出迎えてくれた。
「ああ、待たせたルティス」
「遅くなってすみません」
「ふははははっ!
人間界のパーティは飯が美味かったぞ!」
「お城……すごく綺麗だった」
「人間界と魔界は随分と違うのですね。
見識が広がった感じです」
オルド、アン、リリーもそれぞれ王城のパーティを楽しんでいた。
主に食事を……ではあったが。
「楽しんだようで何よりだ。
それで……エクス、フィー」
「なんだ?」
「はい……?」
「どうだったのだ?」
帰ってくるや魔王様はこんなことを尋ねてきた。
それは、皇帝に俺たちの関係は認めてもらたのか? という意味だろう。
「実は……」
俺たちは、王城であったことをルティスに伝えた。
「そうか。
正式に婚約者と認められたなら何よりだ。
まぁ、我が義息子を拒絶するような無能な王であれば、直ぐにでも殴り込みに行くところだ」
「いや、それはマジでやめてね」
一瞬で破局することになるから。
「まぁ、流石に冗談だぞ。
だが……あの小僧が妻を持つほどに成長したとはな……」
「つ、妻……!?
すごくいい響きですけど、ルティスさん、まだ少し早いです……」
フィーは『妻』という単語に強い反応を示して、ぽっと頬を染めた。
「ふふん。
さてさて……そうなると、わらわたちは邪魔者だな」
なぜかルティスはニヤニヤ顔を浮かべている。
一体、何を考えているのだろうか?
「オルド、アン、リリー……少し付き合え」
「……? どこにだ?」
「何か用事?」
「リリー、汗かいちゃったので、シャワーを浴びたいんですけど?」
皆、あまり乗り気ではないようだったが、
「いいから来るのだ。
魔界に戻る前に、夜の町を見て回るとしよう」
半ば無理矢理、ルティスが皆を連れ出した。
「二人共、今日は好きに過ごすがよい」
魔王はニヤニヤ顔を俺に向けた後、バタン――と扉を閉めた。
(……あ、あいつ……)
どうやら余計な気を遣ったらしい。
俺とフィーは思わず目を合わせ――直ぐにお互い顔を背けた。
同時に心臓が跳ねる。
ドキドキと強く鼓動が響いた。
「え、えと……と、とりあえず座ろうか」
部屋に戻りフィーはベッドに腰を下ろした。
「エクスも……座って」
そして、俺を見てベッドをポンポンと叩く。
促されるままに俺はフィーの隣に座った。
(……な、何を話すべきか?)
考えていると、
「今日は……あっという間に時間が過ぎちゃったなぁ……」
フィーが先に口を開いた。
お陰で互いを包んでいた空気に変化が生まれる。
「ああ。
それだけ楽しい時間を過ごせたってことなんだろうな」
「うん……。
今日は本当に楽しかった」
言ってフィーは目を閉じた。
今日会った出来事を思い返しているのかもしれない。
「……お父様とあんな風に話せる日が来るなんて……少し前までは考えられなかった。
本当に夢みたい……」
「でも、夢じゃない」
「うん。
それに……ボクたちの仲も認めてもらえた」
「正式に婚約者になったんだよな」
話しながら俺はフィーとしたある約束を思い出していた。
もしも陛下に俺たちの関係を認めてもらたその時は――。
「……ねぇ、エクス」
フィーが俺を見つめる。
その瞳はうっすらと濡れていて、頬は上気している。
ドキッと俺の鼓動が跳ねる。
多分、フィーも俺と同じことを考えている。
「約束……覚えてる?」
忘れるわけがない。
もしも俺とフィーの関係が陛下に認めてもらえた時は……。
「ボクは……いいよ?」
「っ――」
言われるままに、俺はフィーを押し倒していた。
そのまま彼女の唇を奪い、俺たちは深く長いキスをした。
「んっ……」
少し苦しそうにフィーが声を漏らした。
俺は一度、唇を離す。
勢いのままに行動してしまったが……本当にいいのだろうか?
陛下には良識を持った付き合いをするように念を押されている。
これは、俺たちの関係を認めてくれた陛下を裏切ることになるんじゃないだろうか?
そうだ。
止めるべきだ。
徐々に俺は冷静さを取り戻し――
「……エクス」
「っ!?」
「きて……ボクをキミのものにして」
「――フィー!」
考えていたことが全て吹き飛んだ。
頭も心も感情の全てがフィーへの想いでいっぱいになる。
「愛してる。
俺の一生を懸けて……フィーを幸せにするから」
「うん……ボクも愛してる。
それとね。
もうボクは、エクスにいっぱい幸せをもらってるよ。
だって……キミが隣にいてくれるだけで、涙が出そうなくらい嬉しいんだから」
言葉と共に、フィーはギュッと俺を抱きしめる。
その思いに応えるように、俺も彼女を抱きしめ返す。
傷付けないように、優しく、でも強く。
そして今日、俺たちはこれまで以上に深い繋がりを得ることになるのだった。




