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第94話 婚約報告

20180831 更新しました。

「……もう少しお前たちとも話したいが……そろそろ戻らねばな。

 皇帝と皇女が同時に会場を離れていては、くだらぬ詮索をする輩もいるだろう」


 言ってゼグラスは苦笑した。

 皇帝と皇女が共にパーティ会場を離れていては、確かに心証は良くないだろう。


「そうですね。

 お父様……また機会がありましたらその時はもっと色々なお話をさせてください。

 聞いていただきたいことが、まだまだ沢山あるんです!」


「うむ。

 余も楽しみにしていよう」


 そして、俺たちは席を立つ。


「フィリス……久しぶりにお前と話すことができて、余は本当に嬉しく思う。

 見守り続けることはできなかったが……成長を実感することはできた」


「お父様……」


 別れを惜しむようにゼグラスはフィーを抱きしめる。

 今のセグラスはただ、子供の成長を喜ぶどこにでもいる父親だった。


「本当に立派になった」


 皇族という立場はあれど『親』というのはそういうものなのだろう。

 うちの魔王様や、多分……勇者も。


「そうだ。

 戻ったら報告を済ませなければならぬな」


「……? お父様、報告というのは?」


 首を傾げるフィーを見て、陛下は平然と口を開く。


「パーティ会場で、皇女の婚約者を紹介するのだ」


「……!?」


 思わぬ発言に俺はビクッと身体が揺れる。

 そして直ぐに尋ねた。


「へ、陛下……先程は、婚約発表は近日とおっしゃっていたような……?」


「それはユグドラシルの民に向けてだ。

 折角、貴族みなが集まっているのだから、皇女の婚約者を紹介するにはこれ以上ない場であろう?」


 確かにその通りだ。

 あそこにはベルセリア学園の生徒だけではなく、国の権力者たちが集まっているのだ。

 彼らの中には、あわよくば自分たちの子息を皇族の一員に……と考える者がいてもおかしくはない。

 ならば先に婚約者がいることを伝えておけば、余計な面倒事は避けられる。

 何より俺もその方が安心だ。


「二人とも問題はないな?」


 俺とフィーを交互に見て、陛下は確認を取った。


「ボクは、エクスが構わないなら……」


 皇女様に見つめられ俺は頷いた。

 先程は動揺してしまったが、ダメな理由なんて何一つない。


「俺もだ。

 フィーが俺のものだって今直ぐみんなに伝えたい」


「エクス……」


 迷わず答えると、フィーの頬は紅色に染まった。

 見つめ合う瞳に熱が帯びる。


「――ゴホンッ」


 と、妙なタイミングで咳払いしたのはゼグラスだった。


(……しまった!? 陛下の前で俺はなんてことを!?)


 俺はおそるおそる視線をゼグラスに向けると、


「エクス――近いうち余の義息子むすこになるとはいえ、婚儀までは学生らしい付き合いを頼むぞ」


「も、勿論です!」


 内心焦りながら俺は即答する。

 陛下は微笑を浮かべているが、目は笑っていない。

 完全に大切な娘を守る父の顔だった。


「……そうか。

 ならばその言葉を信じるとしよう。

 それと……まだ伝えていなかったが……」


 途中まで言って陛下は口を閉じた。

 一体、この先に紡がれる言葉はなんなのだろうか?

 俺は緊張に身を硬くする。


「此度の反乱クーデター鎮圧、大義であった。

 余と民の命を救った英雄に心から感謝する」


「陛下……」


 まさか俺に一国の皇帝が頭を下げるなんて……。


「次の機会にキミともゆっくりと話したいものだ。

 キミの育ての親である魔王のことも含めてな」


「!? へ、陛下、知っておられたのですか?」


「勿論だ。

 これでもユグドラシルの皇帝なのだぞ?

 多少……この『世界』の事情も把握している」


 勇者の話が出た時点で、もしかしたらとは思っていたが……。

 もしかしたらゼグラスは、勇者に俺とルティスのことを聞いているのかもしれない。

 実際のところはわからないが……陛下は魔王に育てられたことを知って尚、俺を受け入れてくれたのか。


「……陛下、感謝いたします」


 少なくともゼグラスは魔族に対する偏見はない。

 それがわかっただけでも、俺はたまらなく嬉しかった。


「感謝すべきは余のほうだ。

 エクスよ――フィリスのことを頼むぞ」


「お任せください!」


 フィーの専属騎士ガーディアンとして、そして婚約者フィアンセとして、俺は皇帝に誓うのだった。




             ※




 そして俺たちはパーティ会場に戻った。

 突然の婚約発表――そして俺がフィリスの婚約者フィアンセであるという発表に、室内は騒然となった。


「こ、このタイミングでそんな発表……や、やるじゃないフィリス様……で、でも私は……あぅ……」


 ニースはショックでふらついていたが……彼女ともどこかで、話しておく必要はあるだろう。


「え、エクスがフィリス様の婚約者!?

 だとしたら、将来的にボクは奴に仕える可能性があるということか!?」


 ちなみにこんなことを言っているのはガウルだ。

 別に俺が皇帝になるわけではないのだが……まぁ、今は放っておこう。

 あまり度が過ぎた発言があれば、セレスティアが止めてくれるはずだ。


「余の娘とその騎士――この国を救った二人の英雄の婚約を、皆に祝福してほしい!」


 皇帝が告げる。

 すると、


「これはおめでたい!

 この国を救った二人の英雄の婚約発表とあっては、民も感涙に咽ぶでしょう!」 


 貴族たちが祝福の声を上げた。

 彼らの腹の中までは見えないが……徐々に戸惑いの空気は消えて、会場内は祝福に満ちていく。

 こうして俺とフィーは正式に自他ともに認める婚約者という関係になったのだった。

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