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第93話 皇帝の想い

20180829 更新しました。

「ボクが……皇帝に?」


 あまりにも唐突な申し出にフィーは困惑したようだ。

 そんな皇女を見つめるゼグラスの真剣な表情で見つめている。


「勿論、今答えが欲しいとは言わぬ。

 まずは学園を卒業をすることを第一に考えよ。

 その後、答えを決めてくれればいい」


 皇帝の言葉にフィーは安心したのかほっと息を吐いた。

 どうやら、猶予期間は与えてくれるらしい。

 冗談でこんなことを言っているわけではないのは明らかだが、皇帝の目的は一体なんなのだろうか?


「皇帝陛下……一つ質問がございます」


 少しの間の後、フィーは皇女として口を開いた。

 ゼグラスは頷く。


「うむ。言ってみよ」


「……なぜ第五皇女のボクを皇帝に任命されるのですか?」


 皇位継承権の順位で考えると、フィーは下から数えたほうが早い……と言っていたことがある。

 その為、彼女からすれば当然の疑問だろう。


「先日の反乱クーデターで四人の元皇族の継承権剥奪は決まった。

 現時点でお前は第二皇女という立場になる」


 つまりそれは皇位継承権も上がることを意味しているのだろう。

 だが、


「だとしても、第一皇子と第一皇女は健在です。

 いくら陛下の願いとはいえ……他の皇族と争うのは……」


 優しき皇女がそれを不安に思うのは当然だろう。

 何より、ゼグラスもフィーを権力抗争に巻き込むことは本意ではないはずだ。


「安心せよ。

 あの二人と争いになることはない」


「確かにお二人は権力に固執するような方ではありませんが……」


「その通りだ。

 余の見立たてでは、この国を導く資質を間違いなく持っている。

 何より民を想う心がある」


「……陛下もそう考えているのならどうしてボクに?」


 問われたゼグラスは逡巡するように目を閉じた。

 そして、


「余は皇帝となってから常に感じ続けてきたことがある。

 それは……自分の無力さだ」


 意外な言葉を口にする。


「陛下が無力……?」 


 フィーは意外そうに皇帝を見つめる。

 ユグドラシル帝国の皇帝――この国の頂点に立つはずのゼグラスが無力のはずがない

 この発言を聞いた皆が同じように考えるだろう。


「昨日の反乱クーデターもそうだ。

 余が絶対者であるならば跡目争いなど起こるはずもない」


「それは……」


 それが事実であるからこそ、フィーは言葉を失っていた。 

 皇帝という立場にあっても全てが思うままになるわけではない……というのは、これまでの状況を見れば明らかだ。

 恐らく、パーティにやってきていた元老院やら五大貴族。

 他にも、多くの権力者たちの思惑が絡み合い国策が決まるのだろう。

 だからこそゼグラスは自分が絶対者ではないと口にしたのだ。


「現実の問題として、国をまとめ民を導くには『力』が必要だ。

 余は皇帝となってから、それを感じぬ日はない」


 苦悶にも近い表情がゼグラスの顔に浮かんだ。

 これまでの後悔を心にひしめかせるように。


「……陛下の想いはお察しします。

 ですが……陛下が期待されるような力、ボクには……」


「フィリス……お前はまだ若い。

 未熟であることが事実だとしても、学ぶ時間は十分にある」 


「……どうしてそこまでボクを?」


「お前にはお前の力になってくれる者が傍にいる」


 言って陛下は俺を見た。


「円卓の騎士を破るほどの専属騎士ガーディアンであり、勇者カリバの息子である彼ならば、どんな窮地においてもお前を救ってくれるはずだ」


「陛下……俺が勇者の息子だと知っていたんですか?」


「クワイト――ベルセリアの学園長から報告は受けている。

 それとマリンからも色々とな」


「そうでしたか……」


 色々……の部分が気になったが、今は詮索しないでおこう。


「つ、つまり陛下は、エクスがボクの専属騎士ガーディアンでいてくれることも、皇帝になるべき資質の一つだとお考えですか?」


「うむ。

 端的に言ってしまえばそうだ」


 皇帝は即答した。


「お父様……」


 だが、フィーはむっとした顔になり不機嫌な声を上げた。

 しかも陛下ではなくお父様と口にして。


「ど、どうしたのだ?

 そんな怖い顔をして……」


「エクスはボクを守ってくれるし、ボクを好きでいてくれます。

 ボクも彼を愛しています。

 だからこそ――彼をまつりごとの道具のように考えてほしくありません……!」

 怒りを発露するフィーを見て、皇帝は呆然としていた。


「……陛下に対して失礼な発言をしました。

 お許しください」


「いや、構わぬ。

 誤解を解いておくが、余とてお前の婚約者フィアンセを道具と考えているわけではない。

 しかし現実問題……国をまとめるには圧倒的な力が必要となる。

 先日のような内乱を防ぐ為にもな」


「……それは理解できます」


「力を自ら行使しろと言っているのではないのだ。

 しかし、円卓の騎士を打ち破ったエクスくんの存在は抑止力となるだろう。

 少なくとも元老院や貴族に、お前に危害を加えようと考える者はいない。

 それどころか自分たちの立場を守る為、皇女への心証をよくせねばと頭を悩ましているだろう」


 ゼグラスは苦笑し話を続ける。


「国の安寧を生み出す為の力をお前は既に持っているのだ。

 何より今、反乱を鎮圧したお前たちを国中の民が英雄詩している。

 民を率いていく資質も十分なのだ」


「……だとしても、お兄様やお姉様にご納得いただけるでしょうか?」


「少なくとも欲で目がくらむような二人ではない。

 状況を冷静に判断して決断を下すことができるだろう。

 二人を支持する元老院や貴族もいるが……奴らもフィリスとエクスの様子が気になっているようだしな。

 パーティ会場で今頃、お前たち二人を探しているかもしれないな」


「……何人かに既に挨拶をされました」


「そうであったか……。

 全く周到なことだ。

 ……何にせよ……フィリス、どんな決断を下すにせよ。

 余はお主の想いを尊重するつもりだ」


 国と民――そして皇族の未来を思えばこそ最良の選択を取りたい。

 皇帝の言葉から、そんな感情が窺えた。


「……わかりました。

 少し考えさせてください」


「突然のことで戸惑うのもわかる。

 だが今の腐敗したこの国を率いるには、力が必要であるということは覚えていてほしい。

 今後……傷付く者を減らす為にも」


「……はい」


 頷くフィーの心に様々な感情が渦巻くのを、俺は結合指輪コネクトリングを通じて感じているのだった。

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