第91話 親子の再会
20180821 更新しました。
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パーティに使われていた一室と比べると小さな……それでも数人程度なら広々と使える別室に通された。
「お座りになってお待ちください。
私は部屋の外で待機しております。
兄は室内におりますので、何かあればお申しつけいただければと」
それだけ伝えてフィルズは外に出て行った。
恐らく皇帝を待っているのだろう。
彼に言われるままに、俺とフィーは高級そうな革のソファに座る。
「皇帝陛下が来るまで暫くかかる……よな?」
俺は視線の先に立つオルビスに尋ねた。
「ああ……お前も見たと思うが、貴族連中が長蛇の列を作ってたろ?
どっかで抜けてくるはずなんだが……まぁ、もうちょっと待っててくれ」
返事をしながらオルビスは苦笑した。
俺がそんな質問をしたのも、先程からフィーはすごくそわそわしているからだ。
期待と不安が入り混じった彼女を見ていると、何かしてあげたくなる。
(……皇帝はフィーに、どんな言葉を掛けるのだろう?)
不意にそんな疑問が思い浮かんだ。
「……ねぇ、エクス。
お父様の――陛下のお話ってなんだと思う?」
どうやら彼女も同じことを考えていたらしい。
「そうだな……」
具体的な会話の内容はまだわからない。
皇帝が、自分の娘としてフィーに言葉を向けるのか。
あくまで皇族としての立場を優先して話をするのか。
それで会話の内容も随分と変化してしまうのだろう。
(……元々は反乱の功労者として、パーティに参加してほしいって話だったが……)
わざわざ別室に呼んだくらいだ。
何か意図はあるのだろう。
「……オルビスは知らないのか?」
隣にいるプリンセスに目を合わせた後、俺はオルビスに尋ねた。
「さてなぁ……。
俺とフィルズは、陛下にフィリス様とエクスを連れて来いって言われただけだからよ」
特に何も知らされていないようだ。
「……そっか。
やはりお父様と直接話してみるしかないね」
視線を伏せるフィー。
今のままでは緊張と不安が拭えないだろう。
だから俺は、話題を変えてみることにした。
「皇帝が何の為に俺たちを呼んだのかはわからないけどさ、フィーの方から話したいことはあるのか?」
「ボクが……?」
「ああ……久しぶりに会うんだ。
少しくらい皇帝だって話を聞いてくれるだろ?」
「うん。
いっぱいあるはずで……ずっと考えていたんだけど。
でも……」
皇女様は笑顔と共に口を開く。
すると彼女の口から出てきたのは、
「一番話したいのはエクスとのこと」
「俺の?」
「うん。
だってエクスはボクの専属騎士で、世界で一番……大好きな人だから」
「フィー……」
普段から想いを伝えあっていても、『好き』という言葉にはドキッと胸が跳ねる。
「王城を離れてから辛いことは沢山あったけど、エクスと出会ってからは楽しいことばかりで……思い出を振り返ると、キミとのことばかり思い出しちゃうんだ。
ボクの心の中は、エクスでいっぱいみたい」
「……俺も同じだ。
いつも気付けばフィーのことを考えてる」
「そっか。
ボクたち一緒なんだ」
嬉しそうに微笑むフィーを見ていたら、俺の心の中は幸せな気持ちが溢れてきた。
「あ~……俺がいるのを忘れないでくれよ」
オルビスは申し訳なさそうに口を開いた。
「ぁ……」
「……すまん」
一応、謝罪しておく。
でもフィーの不安が少しでも和らいだようなので、良かった。
「いや、謝るようなことじゃねぇさ。
まぁ、見てるこっちが恥ずかしくなるくらい仲がいいとは思うけどな」
「か、からかわないでよ」
「これは失礼を」
照れて赤くなるフィー。
対して俺たちを見るオルビスは微笑ましそうだった。
「しかし二人が恋仲なら……将来的にはエクスが皇帝に――」
オルビスが何かを言おうとした時――コンコンコンと、扉がノックされてカチャっと扉が開いた。
俺とフィーは慌てて席を立ち振り返る。
「失礼いたします」
フィルズの言葉の後、室内に入ってきたのは威厳のある壮年の男――フィーの父親であるゼグラス皇帝だった。
彼の持つ雰囲気は自然と他者を引き付けるような、そんな不思議な感覚を覚える。
それは皇族という――いや、皇帝という国を導く立場と、培ってきた経験から得たものなのだろうか?
「オルビス、フィルズ……ご苦労だった」
「「はっ!」」
兄弟騎士は皇帝の意を汲んだかのように部屋を出て行く。
その際、オルビスが小声で『がんばれよ』などと言い残した。
もしかしたら、俺の覚悟を感じ取っていたのかもしれない。
「ラグルド……すまぬが、お前も外してくれ」
ゼグラスは共にやってきた円卓の騎士序列一位――ラグルド・ガラティンに命を下す。
すると、最強と謡われる騎士は頷き部屋を出た。
一瞬、ラグルドは俺に目をやっていた気もしたが……今はそれを気にしている余裕はない。
ついに俺たちは皇帝と対面したのだから。
「お父さ――こ、皇帝陛下……お、お久しぶりです」
明らかな緊張で、フィーの声は震えていた。
だが、
「……フィリス、良く来てくれた。
エクスくんも随分と待たせてしまったね。
抜けるまでに少し時間がかかってしまったよ」
微笑と共に皇帝が言葉を返す。
それだけ一気に厳格な雰囲気は和らいだ。
フィーを見る優しい眼差しは間違いなく――父親としてのものだろう。
俺は少しだけ安堵した。
最悪、ほんとに最悪のケースだが、ただフィーを利用する為だけにゼグラスが声を掛けてきたのでは? そんな可能性を考えていた。
しかし、ただの懸念にすぎなかったようだ。
(って――安心している場合じゃない)
まずは第一印象が大切だ。
しっかりと挨拶をしなければ。
「ご紹介が遅くなりました。
ベルセリア学園で、フィリス様の専属騎士を務めているエクスと申します」
言って深々と礼をする。
今の発言に、恐らく失礼はないだろう。
「気を張る必要はない。
二人とも掛けてくれ」
「は、はい」
「失礼いたします」
促されるままに腰を落とした。
これから一体、皇帝とどんな話をすることになるのか?
俺たちはゼグラスの言葉を待った。