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第83話 アン&リリーVSローエン

20180726 更新しました。

            ※




 オルドが皇女とその騎士を打倒した頃。

 双子の最上級魔族であるアンとリリーも反逆者を発見していた。

 少し捜索に時間がかかったのには理由がある。


「……リリー」


「はい。

 間違いありません。

 この下……ですね」


 二人が立っているのは人気の少ない裏通りなのだが、どうやらアリアとローエンは地下に姿を隠しているようだ。


 地下から複数の小さな気配と、人間にしては大きな――中級魔族に匹敵するくらいの魔力反応が一つある為、ほぼ間違いない……と、二人は考えていた。


「じゃあ……やる?」


「少し荒っぽくなってしまいますけど、仕方ないですよね」


 幸い周囲に人はいない。

 だから、


「射貫け――」


 アンは地面に向かい魔弾マジックバレット――魔力で作った弾丸を放った。


 ――ドガアアアアン!!


 地面が穿たれ人が通れるくらいの穴が開く。


「い、今の爆発音はなんですの!?」


 穴の中から声が響いてきた。

 アンとリリーは互いに目を合わせて頷き合う。


「リリー……行く」


「はい!」


 二人は暗い穴の中に飛び降りた。

 穴はそれほど深くはなく、一瞬で着地していた。


「通路……?」


 アンの視界の先には大きな地下通路が広がっていた。

 中は一定間隔で松明が置かれている為、視界を確保できる程度には明るい。


「アン姉、正解みたいですよ」


 リリーの声にアンは振り向いた。

 すると目に入ったのは、数人の兵士を連れている皇女とその騎士の姿だ。


「あ、あなたたち……何者? どうやってここに来たの?」


 アリアは後退り身を固め、ローエンは彼女を守るよう一歩前に出る。

 突然現れた二人を警戒しているのだろう。


「上から」


「落ちてきました」


 魔族の姉妹は当然のことを聞くなよとばかりに返事をした。


「そ、そういうことを聞いているのでありません!

 ここは地下ですよ?

 この隠し通路を知っているのは限られた者だけのはず……」


「……気配でわかった」


「アン姉の言う通りです。

 あと、なんとなくご想像の通りかと思いますが、リリーたちはあなたたちを捕まえに来ました」


 先に聞かれる前にリリーは目的を伝えた。


「つ、つまり追手ということ!?

 あ、あなたたちは城の兵隊ではないでしょ?」


「にぃにのお手伝い」


「は?」


「先輩のお役に立つ為です?」


「いや、だから意味がわからないわ!

 にぃにってなに!? 先輩って誰よ!?」


 アリアは混乱し叫んだ。

 騎士でもなければ王都を守る衛兵でもない双子の姉妹が、どうして追手となっているのか……意味がわからないだろう。


「……アリア皇女殿下、落ち着いてください。

 こいつらが追手だとしても関係ありません。

 ――俺たちのやることは決まっているんですから」


 鋭利な視線でローエンはアンたちを直視する。


「そ、そうね!

 想定よりも動きが速いみたいだけど……統率が完全に取れてはいないはず!

 運がいいことに……追手は二人の少女だけ!

 彼女たちを蹴散らし王城の制圧に向かうわよ!

 皆、行きなさい!」


 皇女が号令を掛けた。

 だが、誰一人として命令に従う者はいない。


「なにをやっているの!

 さっさと――」


「無駄」


 アンは皇女の罵声を遮る。


「? 何が無駄だと……?」


「!? ――アリア様!?」


 最初に気付いたのはローエンだった。

 第二皇女の身体を抱きかかえ跳躍すると、姉妹から距離を取る。

 そしてようやくアリアは気付いた。

 兵士たちが皆、氷漬けにされていることに。


「ど、どうなっているの?」


「……何か魔法を使われていたようです」


「ま、魔法?」


「はい、見てください。

 魔法道具マジックアイテムが反応してる……多分、俺らにも掛けてたんでしょうね」

 ローエンの言葉は正解だった。

 今のはアンの使った魔法であり、皇女とその騎士にも使用していた。

 が……。


「リリー、おかしい。

 あの二人に効いてない?」


「そうみたいですね。

 アン姉の魔法に合わせて、一瞬で防御壁バリアが張られていたみたいです」


「……思ってたより、強い?」


「弱いですけど……どちらかと言えば装備が厄介、という感じですね」


 可憐な少女の口から【弱い】などと侮蔑され、大陸最強の一角である騎士の胸に怒りの感情が沸く。


「ガキが……言ってくれるじゃねえか。

 アリア様――勇者の遺産の使用を許可をいただけますか?」


「――それでこの状況を打開できるのなら」


「お任せください。

 我が姫、アリア・ティ・フィナーリアに絶対なる勝利を――」


 騎士は誓いの言葉を立てると、ローエンの付けていた指輪の一つが輝きを放った。

 途端に尋常ではない魔力が周囲を覆う。

 その力は最上級魔族と同等――もしくはそれ以上だった。


「舞穿て紅き閃光――螺旋を描き形を成せ」


 円卓の騎士の目前で赤い光が螺旋を描いていく。

 この力が発動すると少し面倒になる――と察した姉妹たちは、


「――氷弾アイスバレット


「――炎弾ファイアバレット


 無詠唱で魔法を放った。

 だがローエンとアリアに着弾する前に、魔法の弾丸は霧散する。

 見えない壁に攻撃を阻まれてしまった。


「我が敵は汝の敵、汝の力は――我が敵を撃ち滅ぼさんが為に!」


 膨大な魔力は次第に形を成す。

 それは螺旋の紅剣だった。


「リリー、あれ……イヤな感じする」


「はい、アン姉。

 ……勇者なんて化物の名前が付いているだけはありますね」


 リリーが、オルドと似たようなことを言った。

 だが魔界の住民――魔族にとっての勇者とはそういうものなので仕方がない。


「……久しぶりだな。

 この圧倒的な力の感覚は――さて、まずは……」


 大陸最強の一角が、双子の魔族に交互に目を向ける。


「そっちのチビのほうからだ」


 言ってアンに向かって螺旋の剣を突き出すと――常人の目には捉えぬこともできない螺旋状の紅い閃光が放たれた。

 それは意識した途端に撃ち抜かれほどの速度だったが、


「アン姉!?」


「平気」


 放たれた瞬間、姉妹は障壁を張った。

 魔族との争いでも余程の大技でもなければ凌げるシールドを何重にも掛ける。


 ――バシーーーーーーーン!!


 閃光が衝突し眩い光が散る。

 パリン、パリン、パリン、パリン、パリン――障壁が破壊され、今も障壁を抉り続けている。


「ほう……この短時間に結界を張ったか?

 大した使い手であることは認めるが――」


 頬を吊り上げ皮肉めいた笑みを浮かべるローエンが、再びアンに向かい螺旋の剣を突き出して、


「もう一撃放てば――どうなるかな?」


 螺旋の剣の先端に白と赤の粒子が収集されていく。

 あれは光と火の元素のようだ。

 絶大なる魔力が無尽蔵に元素を集め莫大な力を構築していく。


「穿て――紅き閃光!!」


 バアアアアアアアン!!

 紅に輝く巨大な閃光が放たれた衝撃に地下通路が揺れた。

 アンとリリーの姉妹は防御に集中する。

 とんでもない魔力量ではあるが――集中すればなんとか防げると姉妹は考えていたのだが――バンバンバンバンバン。


 二人が張った防御壁は全て貫かれた。

 そして、


「っ――アン姉……!?」


 飲み込まれれば跡形も残らない。

 それほどの熱量を伴う閃光に姉が覆われるのを、リリーは目にした。


 ――ブアアアアアアアアアアアアアアアアアン


 爆発と衝撃で地下通路の一部が崩れ硝煙が舞う。

 障壁で威力が弱まった状態でもこれほどの破壊力なのだから、次にその攻撃を放てば地下通路は間違いなく崩落するだろう。


「ふふ、あははははっ!

 流石は円卓の騎士――そして勇者の遺産。

 この力があれば……わたしたちは必ずや勝利できるはず!」


 力に溺れる愚者のように、アリアは酔いしれ高らかに笑う。


「……さて……後はもう一人。

 円卓の称号を持つ者を【弱い】などと愚弄した罪は重いぞ」


 ローエンは剣の切っ先をリリーに向ける。

 勝利を確信していたはずの彼だが、唐突に強烈な寒気に襲われた。

 なぜなら、追い込まれたはずのリリーが、殺すような視線で凝視しているからだ。


「けほっ……煙たい……」


「うん?」


 硝煙の中から声が聞こえた。

 目を細めるローエン。

 すると煙の中からてくてくと歩いてくる少女がいた。


「……むぅ、お洋服……破れた」


 勇者の遺産の閃光――その直撃を受けたにも関わらず、アンは生きていた。

 それもほぼノーダメージ。


「ば、馬鹿なっ!? 勇者の遺産の一撃を受けたはずでは!?」


「い、今の攻撃でも傷一つ付いていないというの……?」


 エクスやルティスもそうだが、アンやリリーは自らの身体に強度の障壁を重ね掛けしている。

 それは無詠唱でサッと生み出すものとは次元が違う防御力を誇っており、あれほどの魔法を直撃で受けても服が破れる程度で済んだのだ。


「あ、アン姉……」


「ん……?」


「て、手に擦り傷が!?」


「あ……ほんと」


 慌ててリリーは姉に駆け寄る。

 この程度の傷は最上級魔族である二人にとっては掠り傷であるのだが……だとしても、自分の姉に傷を負わせるという行為は――リリーにとっては許しがたいものだった。


「……ろ、ローエン!

 もう一度、もう一度です!

 そう何度も防げるはずがありません!」


 主君に言われ動揺していた騎士は正常な意識を取り戻す。


「か、かしこまり――」


「おい」


「っ!?」


 勇者の遺産――螺旋の剣を構えなおそうとしたローエンの目前に、リリーがいた。

 彼には見えなかった。

 一瞬のほんの一瞬の出来事。


「テメェら……調子に乗ってんじゃねぇぞ」


 ついさっきの少女とは違う。

 その形相はもう可憐な少女のそれではない。

 今――ローエンの前にいるのは、


「あ、悪魔……――ほばっ!?」


 ローエンの胸元を掴み、アンはひらすら拳を叩き込む。


「おらおらおらおらおらおらおらっ!!!」


「ひ、ひいいいいいいいいいっ!?」


 豹変した少女が狂気に塗れながらローエンに拳を叩き込み続ける姿を見て、アリアは悲鳴を漏らした。


「アン姉を傷者にした責任は――テメェが死んでも償えるものじゃねえぞおおおおおおらああっ!」


 連打を受ける騎士の意識は薄弱ながら残っている。

 一撃一撃が爆弾を叩き込まれるような衝撃を受けて尚、結合指輪コネクトリングや勇者の遺産による強化を受けている為、ローエンは意識を失えずにいたのだ。


「リリー……殺すのダメ」


「……あぁ……」


 姉に肩を叩かれて、胸元を掴んでいた手を離す。

 バタン……と力なく円卓の騎士は崩れ落ちた。


「頼まれたのは捕まえること。

 殺せとは言われてない……」


「ごめんなさい、アン姉……。

 リリー、つい我を見失ってしまいました」


「ん……問題ない。

 ちゃんと生きてる。

 みっしょん、こんぷりーと」


 言ってアンは背伸びして、妹の頭を撫でた。


「アンが傷付いたこと、リリーが怒ってくれたのは嬉しい。

 でも……やりすぎ、ダメ。

 ここは魔界じゃない。

 人間……弱いから」


 珍しく一生懸命に話すアンを見て、リリーは姉が自分を心配してくれていることがわかった。

 姉に比べ、まだまだ実力的にも精神的にも未熟な自分。

 それを恥ずかしいと思いつつも、リリーはアンを抱き締める。


「アン姉……大好きです」


「ん……アンもリリーが好き」


 抱き締め合う仲良し姉妹の下には、地面に崩れ落ちるローエンの姿が――消え去っていた。


「油断したようだな」


 騎距離を取り騎士は微笑を浮かべる。

 リリーの攻撃を受けてできた傷が回復していた。


「治癒魔法……いや違いますね」


魔法道具マジックアイテムの効果?」


 ローエンの指にはめている指輪のいくつかが輝きを放っている。


「これで終わらせる! ――紅き螺旋の閃光よ」


 剣の切っ先に再び魔力が集まっていく。

 何度も何度も――自分の技で戦うわけでもなく、芸もなく道具に頼り切る戦い方に、アンもリリーも飽きていた。


「リリー……もう面倒だから、終わらせる」


「そうですね。

 最後は二人で一気に決めましょうか」


 ダメージを負わせても傷が治ってしまうと言うのなら――再生が不可能なダメージを負わせてしまえばいい。

 二人は互いの得意魔法を放つことにした。


「――氷結地獄コキュートス


 アンの得意属性は氷。

 そして使用したのは伝説級魔法レジェンダリーマジックの一つ。

 それは世界を一瞬で凍えつかせるほどの絶対零度。

 地下通路の中で氷の世界が完成する。


「――業炎地獄インフェルノ


 リリーの得意属性は炎。

 こちらも伝説級魔法レジェンダリーマジックの一つ。

 これは世界を一瞬で業火に包む魔炎。

 地下通路の中に生き地獄が生まれていく。


「ど、どうなっているんだ!?」


 氷と炎がせめぎ合い、世界を半分ずつ覆っていく。

 どちらがどちらの領土を侵すことはなく、調和の取れた幻想的な光景。

 そこはまるで、天上の世界のようだと……ローエンは思わず目を奪われていく。


「なんだろうと構いません! 奴らを倒しなさい!」


「っ!? う、穿て螺旋の剣よ!」


 紅き閃光が螺旋を描き魔族の姉妹に迫った。


「「この争いを終焉へと誘え――氷炎地獄ラグナロク」」


 氷と炎――相反する二つの力は打ち消し合うことなく融合し新たな力を生み出し、迫りくる閃光を凍てつかせ――凍てついた閃光は解けて消える。


「……そ、そんな――そんな――」


「アリア様!?」


 全てを無に帰すその一撃が騎士と皇女を包み込んだ。

 ローエンは勇者の遺産の複製品レプリカ――その全ての力を解放し、アリアを守る為に使用した。

 だが、指輪は一瞬で砕け散った。

 残った結合指輪コネクトリングは小さな輝きを放ち……最後に砕け散る。

 それは、奇しくも氷と炎の世界が顕現を終えたのと同時であった。


「……疲れた」


「ですね」


 倒れる皇女と騎士の姿を確認する。

 指輪も効果が消えたのか、輝きを失っていた。


「一応……回復しておいてあげましょうか。

 威力は緩和しておいたので大丈夫だと思いますけど」


「ん……その後、氷漬けにしておく」


 戦いは魔族姉妹の勝利で終わった。

 さっさと治療を施して、皇女と騎士を拘束する。

 これで、一仕事完了だった。


「あ……そうだ。

 アン姉、お洋服、どうしましょう?」


「ぁ……。

 これじゃ、にぃにに汚いと思われる?」


「そんなことありません!

 アン姉はどんな姿でも可愛いです!

 ……そうだ!

 なら、戻ったら先輩に買ってもらいましょう!」


「? つまり……がんばった御褒美?」


「はい!

 そのくらいの仕事、リリーたちはしましたよね」


 会話を交わしながら、リリーたちは地上に戻る。

 財布が軽くなることを、この時のエクスはまだ知らない。

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