第81話 フィーの戦い
20180724 更新しました。
※
序列一位の試合の後に反乱を起こす方針は決まった後も、四人の皇族は悪巧みの相談を続けていた。
「イシス……私兵に勇者の遺産の配備はしたでしょうね?」
「もっちろん!
ヴィア姉様と違って準備は万全だよ~」
「そう。
卑怯なあなたのことだから、てっきり反乱の後のことを考えて戦力を温存しているかもと思っていたわ」
「……二人とも。
反乱成功後は暫く協力しながら政権を守る……。
この約束は忘れていないわよね?
ここでお父様を抑えることが出来たとしても……戦いは終わっていないことを忘れてはダメよ?」
「アリアの言う通りだ。
第一皇子と皇女の私兵や第二騎士アルト、第十騎士ポアロが残っている。
奴らを打倒することでようやく……我々が皇帝になる為の準備が整うのだからな」
争いの後も大勢を巻き込みまた争いを繰り返す。
魔界も戦闘バカは多いが、人間界も大概だ。
いや、性質の悪さは人間のほうが上かもしれない。
当然、皆がそうというわけではないのはわかっている。
だが……国を背負って立つ彼らがこれでは民も今頃失望しているだろう。
(……さて、そろそろかな?)
さっき結合指輪が光った。
あれは、フィーが俺の居場所を探してくれていたのだと思う。
なんとなくそう感じたのだ。
(……だからもう直ぐだと思うのだが……)
そんなことを思っていると、
「あ、あなたは――な、なんなのですか、この騒ぎは?」
「なぜ貴様らがここを守っている?」
「そ、それは――」
「説明はいい、そこをどけっ!」
バン! 叩き付けるような音が聞こえ――勢いよく扉が開く。
「一体、これは何の騒ぎ?」
「ちょっと~、イシスたちを誰だと思ってるわけ~?」
ヴィアとイシスが苛立たし気に視線を向ける。
すると、そこにいる人物――フィーと数人の衛兵たちを見て目を丸めた。
「……フィリス? これはどういうこと?」
「なぜここに来た?」
続いてアリアとグロリアが厳しい視線を向け、扉の向こうを注視する。
二人は状況を把握しようとしているらしい。
「……グロリアお兄様たちに反逆罪の容疑が掛かっています」
「反逆罪……?」
「な、何を言うの!
わ、私たちが反逆などと……」
四人の皇族の顔色が変わった。
明らかな動揺が見える。
追い詰めるなら今がチャンスだろう。
未だに状況を把握できないヴィアたちを見て、
「よう」
俺は気配消しの魔法を解き姿を見せることにした。
「ひいいいいいっ!? え、エクス――!?」
「い、いきなりどうして……!?」
第三、第四皇女が驚愕を見せる。
しかもヴィアは尻餅を突いていた。
「ま、どうやったかは置いておくが、お前ら考えていた悪巧みは観戦席にいた全員が知ってるぞ」
「全員がって、ど、どういうこ――!?」
「アリア!!」
グロリアが怒声を上げる。
なぜなら今、アリアは反攻について否定せず、悪巧みが伝わってしまったことを最初に気に掛けたのだ。
つまりそれは……この場にいた者が反逆者である証拠だった。
「自分から尻尾を見せたな」
「お兄様たちがここで企てていたことは、エクスの魔法で皇帝陛下を含め多くの民の耳に届いています。
もう、ごまかすことはできません」」
「馬鹿を言うな!
オレたちが反逆など――」
「話は法廷でしてください。
……反逆者を捕らえて!!」
フィーの指示で衛兵たちが動き出す。
「ぶ、無礼者!! わ、私を誰だと――」
「イシスは皇女なのよ!
歯向かったらどうなるかわかって――」
「ご、誤解なのです……これは国家転覆を膨らむ反抗勢力による――」
ヴィア、イシス、アリア――三人の皇女の言葉を聞く者はいない。
既に彼らは皇族ではなく反逆者なのだから。
「くっ……――オレはオレはここで終わるような男では――クソ!
捨てられた落ちこぼれの皇女が――オレの覇道の邪魔をするなっ!
フィリス、こうなればお前を人質に――」
狂乱したグロリアがフィーに向かって突進する。
同時に皇子の付けていた腕輪が光る。
あれは勇者の遺産……魔法道具の一つなのだろうか?
どちらにしても、
「往生際が悪いな」
効果が発動する前に俺は、パンっと軽くグロリアの頬を張った。
すると、
「ぶおあっ!?」
ブオン! っと大気を切り裂くように吹っ飛び、
「かはっ!?」
ドカン! と室内の壁に激突した。
「あ……手加減したんだが、ちょっと強すぎたか?」
第二皇子はピクピクと震えている。
その隙に衛兵たちはグロリアを捕縛した。
これで残すは三人の皇女のみ――後は衛兵たちに任せておいて問題は、
「……そんな……まだ何もしていないのに、こんな、こんなところで――こんなところでこの私が――終わるくらいなら――」
衛兵に詰め寄られたヴィアが叫ぶ。
「きゃはははっ! そうだよ! そうだよそうだよ! イシスがこんなところで終わるわけない!!」
「ええ……そうですわ!
ここで終わるくらいなら――今から初めてしまえばいい!!」
皇女たちは狂乱する。
同時に彼女たちの付けていた指輪の一つが光った。
「我が騎士ランス――来なさい!!」
「スカイ! イシスの道を切り開いて!」
「勝ってしまえばいい! そうよね――ローエン!!」
三人の指で光っているのは、結合指輪か?
輝きは増す中、騎士の名を呼んだ皇女たちの姿は消えていた。
「ど、どこに!?」
「反乱を起こす可能性が高い! 急ぎ探せ!」
辺りを探る衛兵たち。
だが、この近くにはいないだろう。
「エクス!」
「ああ」
魔力を探る。
三人の皇女は騎士の名を呼んでいた。
つまり自分を守護する円卓の騎士と共にいる可能性は高い。
余興で試合をしておいて良かった。
ランス、スカイ、ローエン――三人の魔力の波動はきっちり覚えている。
だから探知は直ぐに終わった。
「……あいつら……それぞれ別の場所にいるみたいだ」
「え……?
じゃ、じゃあ……狙いが違うってこと?」
もしくは逃げる為に三方向に分かれたか……。
どうする?
あいつらは、今もとんでもない速度で移動を繰り返している。
転移を使っているのかもしれない。
「流石に全員は追いきれないか……」
そんなことを俺が呟くと、
「ふふ~ん! エクスよ! オレ様が手伝おうか?
というか、勝手にやらせてもらうぞ!」
「アンも……にぃにを手伝う」
「リリーも先輩のお役に立ちたいです!」
馴染みの仲間たちが声を上げた。
魔界の学園に通っていた頃を思い出す。
「なら……わらわはお主らの成長を見守ろう。
何かあったら直ぐに駆けつけてやる」
「ルティス様の出番はない!
なぜならオレ様は最強だからだ!」
「ん……アンたち、結構強い」
「リリーはアン姉と一緒に行きます」
結果はもう見えている。
少なくとも負けることは絶対にない。
だから、
「よし!
なら久しぶりに――誰が最初に戦いを終えるか競争するか」
「おう!」
「ん」
「はい!」
俺の提案を了承すると、三人は一斉に動き出した。
オルドはスカイ。
アンとリリーはローエンの下へ向かったことがわかった。
なら俺はランスとヴィアが相手か……。
「フィーはルティスと一緒にいてくれ」
「エクス――ボクも連れて行って!」
「……それは構わないが、俺が心配ってだけなら一緒には連れていけないぞ?」
彼女を守りながら勝つのは容易い。
だがそれでも、ルティスとここに居てくれたほうが間違いなく安全だ。
「その気持ちは当然あるよ。
でも……それだけじゃない!
これが最後のチャンスだと思うから――ボク自身の弱さに打ち勝つ為にも、ヴィアお姉様のところに連れて行ってほしい!」
そうか。
フィーも戦おうとしてるんだな。
自分の弱さを乗り越えて強くなる為に。
それをフィーがどう為そうとしているのか、結果がどうなるかすらわからない。
でも彼女が、ヴィアというトラウマに打ち勝つ為に戦うと言うのなら――俺の答えは決まっている。
「わかった。
一緒に行こう、フィー!」
「うん!」
俺は皇女を抱えて、ヴィアとランスの下へ向かった。