表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/104

第78話 ルティスの説教

20180721 更新しました。

          ※




「っ――」


「エクス、どうしたの?」


「いや、なんだか悪寒が……」


 なんだろうか?

 背筋が震える。

 嫌な感覚がした。

 殺気や恐怖ではない。

 だが、今直ぐ逃げたほうがいいと俺の勘が告げていた。

 それを感じた直後――バン!

 唐突に待機室の扉が開いた。

 何事かと思えば、やってきたのは魔界の顔馴染みたち。


「? 迷子ですか?」


「広い場所だからな……無理もない」


 見た目の幼いルティスやアンがいた為だろう。

 リンとガウルはそんな反応を見せた。


「キミたち、ここはベルセリア学園の選手待機室――」


「うむ、わかっておる。

 邪魔するぞ」


「ふははははっ! エクス、オレ様が来てやったぞ!」


「にぃに……試合、お疲れ様」


「先輩が出場するにはレベルの低い大会ですね」


 一応、断りを入れてルティスたちは足を踏み入れた。

 そしてルティスは、ドシドシと俺の目前まで歩み寄ってくる。


「――エクス!」


「な、なんだ?」


 少し動揺してしまった。

 なぜかってルティスはどこかムスったした様子というか……いや、怒っているように見えたからだ。


「こ、この方々はエクス殿のお知り合いですか?」


「……ああ」


 リンに問われて一言返した。


「貴様の知人だったか……。

 しかし……なぜ仮装している?」


 ガウルの口にした仮装――というのは、魔族の特徴である頭の角のことだろう。


「え、円卓剣技祭は民にとってはお祭りみたいなものだから、別におかしくはないんじゃないかな?」


「確かに……そうかもしれませんね」


 流石に魔族と伝えるのはマズいと考えたのだろう。

 フィーが上手く誤魔化してくれた。

 その間も魔王は俺を真っ直ぐ見つめている。

 俺はこの顔に覚えがあった。

 そう――これはルティスが俺に説教をしようとしている時の顔だ。


「エクス……わらわをお主を信じている。

 だからこそ――お主の口から事実を聞かせてくれ」


「なんだ?」


「まずは場所を移す。

 すまぬが、フィーも一緒に来てもらおうぞ」


 言ってルティスは親指と人差し指を弾くと、俺たちは一瞬で転移していた。


「ここは……?」


「次元の狭間だ。

 ここなら身内の恥を広める心配もないからな」


「恥……?」


 さっきから、ルティスは何を言っているのだろうか?


「うむ……。

 お前の答え次第では、ルティスパンチをお見舞いすることになる」


 ちなみにルティスパンチというのは拳骨のことだ。

 子供の頃にいたずらをした時、何度となく喰らい……その度に俺は涙目になった。


「聞かせてもらうがお主――浮気しておるのか?」


「は?」


「だから……フィー以外の娘と不埒なことをしておるのかと聞いておるのだ!」


 は……?

 浮気?

 俺が……?

 ルティスの奴、絶対に何か勘違いしてる。

 俺は思わずフィー視線を合わせた。

 勿論、彼女は俺がそんなことをしていないのはわかってくれている。

 王家の指輪で心も繋がっているのは……互いの想いが繋がっている証でもあるだから。

「あ、あの……ルティスさん、一体どうしたんですか?」


「お主らの学友が話していたのだ!

 エクスはフィーだけではなく、会長と呼ばれる女とも付き合っていると……しかもあろうことか、結婚の予定まであると!!」


「いや、待てルティス。

 それは誤解だ」


「エクスよ、知っているか?

 業火のないところに、煙は立たぬという言葉を?

 思い当たることが全くないか?

 お主とフィー以外の娘が抱き合っているところを見た……なんて噂を出ておったぞ!


「ぁ……」


 多分、ニースのことだろう。

 抱き合っていたわけではない。

 が、確かに抱きしめられたことは一度や二度ではない。


「お主……やはり思い当たることがあるかっ!」


「い、いや少し話を――」


「少しはいい男に育ってきたと思っていたのに……わらわは育ての親として情けないぞ! 何よりフィーに申し訳ないと思わぬかっ!」


「ぅ……」


 少し前にあった出来事を思い出す。

 フィーを不安にさせてしまったこと。

 あの時の悲しそうな顔を。


「る、ルティスさん、本当に誤解なんです。

 エクスはボクのこと大切にしてくれてます」 


「……本当か?」


「はい……」


「ならばなぜ、こんな噂が立つ?」


「それは……」


 俺はフィーと目を合わせる。

 そして、噂の立った原因にもなった出来事やそうなった経緯を伝えた。


「つまり……エクスに想いを寄せるニースという娘がおって手練手管を用いて篭絡しようとしたわけか……」


「ま、まぁ……少し印象の悪い捉え方になっちゃってるかもしれませんけど……」


「恋人のいる男を奪おうなど、印象も悪くなろうがっ!

 それに――」


 ルティスの目が俺に向く。

 そして、


「ルティス――ぱ~んち!」


「がっ!?」


 ――バゴン!

 ルティスが俺に拳骨を喰らわした。

 避けることもできたが、自分への反省も含めあえて受けた。

 全力ではないにせよ、久しぶりに受けたルティスのパンチはかなり痛い。


「エクス……フィーを守る立場にあるお主が、そんなことでどうするのだっ!

 大切な者ができたなら、その者の為に全力を尽くせ!

 互いを想いを会う上で喧嘩をすることもあるかもしれぬ……だがそれは互いの絆を深める為に必要になるだろう。

 が、何より大切な者の心を傷付けてはならぬ!

 わらわは不誠実は許さぬ!!」


 ルティスの言っていることは最もだ。


「わかってる……なんて、口ではどうにでも言えるだろうけど、俺はもう二度とフィーを傷つけない。

 そうできるよう努力するし、後は行動と結果でそれを証明する」


 ルティスは以前、言っていた。

 女の子には優しくするものだと。

 だけど……フィーとルティスに取った行動は結果的に不誠実なものだ。

 それはルティスが俺に教えたかった優しさではない。


「うむ、わかっているなら良い。

 フィー、改めて言わせてくれ」


「は、はい」


「まだまだ未熟なところはあるが、エクスをどうかよろしく頼む。

 今後も二人で共に成長していってほしい……」


 俺は頭を下げる魔王の姿を初めて見たかもしれない。


「……もちろんです!」


 しっかりと頷くフィーを見て、ルティスは満足そうに頷いた。


「さて……それでは戻るとするか」


 再びルティスが指をパチンと弾くと、俺たちは待機室に戻っていた。

 そして、


「あ……にぃに、戻ってきた」


「ルティス様、ひどいですよ~!

 どうしてリリーたちを置いていくんですか!

 一体、何を話していたんです?」


「まさか……オレ様に内緒でバトルしてたんじゃないだろうな?」


 問い詰めるように三人はバタバタと俺たちの下へやってきた。


「……内緒じゃ。

 お主ら大人しくしていたろうな?」


「ふははははっ! 当然だ!

 オレ様はガウと話していたからなっ!」


「オルド、キミとは趣味が合うようだな」


 相性が悪いかと思っていたが、意外とオルドとガウルは気が合ったようだ。


「アンたちは、リンとお話ししてた」


「はい。

 学園で先輩がどんな感じなのか、聞かせてもらっていたんです」


 俺たちがいない間に仲良くなっていたようだ。


「そうか。

 リンとガウルだったか?

 こやつらの相手をしてもらったこと感謝するぞ」


「いえ……この程度のこと、感謝されるようなことでは……」


「僕もいい息抜きになりました……ところで、あなたは本当にエクスの――」


 ガウルが何かを聞こうとした時、


「失礼しますよ~」


 ケイナ先生の声が聞こえた。

 瞬間――


「それじゃあな、エクス。

 試合、がんばれよ」


 扉が開ききる前に、ルティスたちの姿は消えた。


「気絶していた選手が目を覚ました。

 体調に問題がなければ、もう直ぐ試合再開となりますよ~。

 え~と、まずは序列十二位の生徒から円卓の騎士と試合を行うことになりますから、選手の皆さんも準備を進めておいてくださいね~」


 余興やらルティスの説教という予想外の事態の連続ではあったものの、こうして円卓剣技祭の本試合が始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ