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第77話 ルティス、キレる。

20180720 更新しました。

              ※




 試合が終わって直ぐ、俺たちは戦闘場バトルフィールドから離れ待機室に戻っていた。今はフィーも傍にいて俺の隣に座っていた。


「あ~……続いて試合の予定だったのだが……少しの間、休憩時間となった。

 だが、闘技場からは出ないでほしい」


 学園長から伝えられたのは実質的な待機命令だった。

 詳しい説明はなかったが、円卓の騎士と皇女が先程の余興で気絶してしまったことが原因であることは、誰の目から見ても明らかだった。


「ヴィアお姉様……大丈夫かな?」


「あれは自業自得だろ?」


「そうかもしれないけど……少し心配だな」


 言って苦笑するフィー。

 あんな姉でも家族である以上は心配のようだ。


「フィーは優しすぎるよ」


 言って俺は皇女プリンセスの頭を撫でる。


「優しくなんてない。

 ボクは臆病なだけだよ……。

 こうしてお姉様を心配しているのは、また嫌がらせを受けるんじゃないかって……それが怖い気持ちもあって……」


「大丈夫だ。

 いつも言ってるだろ?

 フィーの傍には俺がいる」


 強くて弱い……大切な女の子の手を俺は握る。


「……ありがとう、エクス。

 キミの前だと、いつも弱音を零しちゃう……」


「いいんだよ、それで。

 俺の前でだけではありのままのフィーを見せてほしい」


「そんなこと言われたら……ボク、キミがいなくちゃダメになっちゃう」


「俺はいなくならないから大丈夫だ。

 どんな時でもフィーの傍にいる」


 見つめ合う俺たち……温かい気持ちが心に流れてくる。


『エクス、好き。大好き』


 王家の指輪を通じて……フィーの気持ちが流れ込んできた。

 それをフィーも感じたのか、頬が真っ赤になる。


「ご、ごめん……な、なんだか急に繋がっちゃったね」


「ああ……。この指輪、明確な発動条件がよくわからないな……」


 お互い気持ちはわかっているのに、思わず照れてしまう。


「ごほん……エクス殿、フィリス様、それがしたちがいるのをお忘れなく……」


「……全く。

 試合が終わったばかりだというのに……貴様には緊張感というものがないのかっ!」


 頬を赤らめるリンと、なぜか俺から視線を外すガウルに注意されてしまった。

 ちなみに他の代表生徒たちは念の為、治療室に運ばれている。


「し、しかし……やはりエクス殿の実力は凄まじいですね!

 円卓の騎士三人を相手に圧勝してしまうとは!」


「ふんっ……リン先輩、褒める必要なんてありませんよ。

 手加減してくださっていたに決まっています」


 勇者の遺産を使用しなかったという意味では、手加減されていたのかもしれない。

 だが、個人の実力で考えると上級魔族以下だった。

 中級魔族と同程度か少し強いくらいだろう。


「ガウル……それがしも偉そうなことは言えぬが、実力差をしっかりと把握できなければ、命を捨てることになるぞ?」


「ぼ、僕は事実を言って――」


「事実ということなら、円卓の騎士がエクス殿に一蹴されたのもまた事実。

 それは多くの観客たちも目にしている」


「っ……」


 不満そうに歯を噛み締めるガウル。

 あの光景を目にしていたからこそ、反論の言葉が出なかったのかもしれない。


「エクス、すごかったよね!

 一人で円卓の騎士を二人も倒しちゃうだもん!

 キミの活躍、お父様も見ていてくれたと思う」


「少しは印象に残ってくれていたらいいと思うんだけど……」


「少しどころではないかもしれませんよ?

 もしかしたら円卓剣技祭の後――エクス殿には円卓の騎士としての推薦が来るかもしれません!」


 興奮気味に口を開くリン。


「ぐっ……ぼ、僕はまだ、貴様に負けていないからなっ!

 勝負はまだまだこれからだっ!」


 ビシッ! と俺を指さすガウル。

 一体、なんの勝負をしているのだろうか? と少し疑問に思った。


「ねぇ……この後はどうしよう?

 休憩時間って言われたけど……ちょっと外に出てみる?」


「そうだな……」


 ルティスたちの様子も気になるし、観戦席のほうに行ってみるか。


「リン、ガウル……少しだけ出てくるな」


「はい。

 ですがエクス殿――観戦席のほうには向かわないことをおススメします」


「なんでだ?」


「少し考えろ。

 ただの余興で手加減されていたとはいえ、僕たちは円卓の騎士に勝利したのだぞ?

 今、観客たちは大騒ぎに決まっているだろ」


 あのくらい大したことはないのだが……。

 フィーに目を向けると、「仕方ないね。大人しくしていようか」という感じの苦笑を浮かべていた。




                ※




 さてこの時の観戦席の様子を見てみよう。


「今年はとんでもない学生が出てきたな」


「ああ――流石は学生の身でフィリス皇女殿下の専属騎士ガーディアンを務めているだけはあるな」


「円卓の騎士が手玉に取られてたよね?」


「噂だと選定の剣を抜いてるらしいよ!」


「え? じゃあ勇者様ってこと?」


「しかもフィリス皇女殿下と恋仲らしいぞ?」


「じゃ、じゃあ――お二人が結婚されたら……」


「将来的にはエクス国王……なんて……流石にそれは考えすぎだよな」


 噂はどんどん大きくなっていく。

 勿論、エクスもフィーも権力に興味はない。

 二人はただ一緒に穏やかな人生を生きていければそれでいい。

 そんな風に思っているのだから。

 とはいえ……二人の立場を考えれば――そう簡単には普通の人生を望むのは難しいだろう。

 何より――これほど活躍してしまったエクスに、国民たちが期待を寄せるの仕方ないことだろう。


 観客たちが騒ぎ立てる中、


「……つまらぬ試合だったな」


「大陸で最強と聞いていたから、どんなものだったかと思っていたが……ただの雑魚ではないか?」


「にぃに……カッコよかった。

 魔界にいたときより……強くなってた」


「ですね。

 相手がもう少しまともなら、もっと素敵な先輩を見れたのになぁ……」


 ルティスをはじめとする魔族の反応はこんな感じだ。

 大陸最強が弱すぎて拍子抜けしつつも、久しぶりに見たエクスに関心を寄せているという感じだ。


「あいつはまだまだ強くなりそうだな。

 流石はわらわの義息子だ」


「そうでなくては面白くない!

 オレ様も成長しまくりだからなっ!

 さっさとエクスと戦いたいぞ!」


「オルド……どうせ負ける」


「そうですよ。

 先輩と戦うなら、せめてリリーたちよりも強くならないと」


「んなっ!? オレ様はとっくにお前たちよりも強いだろっ!」


「それはない……」


「アン姉の言う通りです。

 総合的な戦闘能力を考えればリリーたちに軍配が上がります」


 言い合いをする戦闘バカと魔族姉妹。

 そんな三人を保護者代わりのルティスはニヤニヤと見つめている。


(……まぁ……わらわから見たら、お主ら五十歩百歩くらいだけどな)


 それでもこの円卓剣技祭というお遊びよりは、オルドたちが戦ったほうが面白そうだ……と、ルティスは思っていた。

 そんな時、


「なぁなぁ、観戦席の人たちが皇女様とエクスが恋仲とか噂してたんだけどさ……」


「ああ、こっちまで聞こえてきたよ。

 エクスってニース先輩と付き合ってるんじゃないのか?」


「あ~おれもそれは思ってた。

 二股なのかな?」


「それはないんじゃない?

 フィリス様とすごくラブラブだし……」


「いや、だけどさ……ニース会長と抱き合っていたところを見たって話も……」


 ルティスの耳にこんな会話が聞こえてきた。


(……二股!? え、エクスが!?)


 ルティスは、勇者の拳を受けた時以上のダメージを心に負った。


(……う、嘘じゃろ? だってわらわの(育てた)エクスだよ?

 そんな不誠実な男になるはずが――)


 しかし世間知らずなエクスが魔界を離れて……もしかしたら欲望の獣になってしまったという可能性も……。


(……いや、ない。

 わらわの義息子むすこを信じてやらねばな。

 それに、エクスはフィーと結婚したいって言ってたもんな)


 悩んだ結果、ルティスはエクスを信じることに――。


「会長、実際のところどうなんですか?」


「なにかしら?」


「エクスくんと付き合ってるんですか?」


「ああ、結婚する予定だけれど?」


 爆弾発言が投下され――この時、ルティスの中で何かが弾けた。


(――あんの馬鹿義息子バカ――フィーという可愛い娘がおりながらっ!!)


 この時、ルティス心は決まった。


「……ちょっとエクスのところに行ってくる。

 どうやら……喝を入れてやらねばならぬようだ」


 魔王様の発言に、騒いでいたオルドたちは不思議そうに首を傾げたものの、


「ならばオレ様も行くぞ!」


「ん……アンも」


「リリーも行きます!」


 一緒に付いていくことに決めたようだ。

 当然だがこんな事になっていることをエクスは知らなかった。

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