第74話 余興――皇女の守護
20180717 更新しました。
「さぁ――我が姉妹! 舞台へ上がってきてくださる?」
ヴィアが観戦席に座るフィーに手を伸ばす。
大衆の前で宣言することで逃げ場を無くし、強制的に試合に参加させることが目的のようだ。
まさか、国の皇女が円卓剣技祭に参戦するということで観客たちは大いに沸いていた。 勿論、この女には民衆を楽しませるなどという考えはないだろう。
円卓剣技祭の開催スタッフや、貴賓席のほうがざわついているところを見ると、この余興はヴィアたち皇族が勝手な行動に出たと考えて間違いないさそうだ。
(……一体、何が目的なのか)
嗜虐的な思考の持ち主である第三皇女は、よからぬことを考えているのだろう。
それに……他の皇女たちが出場するというのも気になる。
俺は観戦席の皇女に顔を向けた。
(……大丈夫だ。
何を仕掛けてこようと守ってみせる)
すると――俺の想いが伝わるみたいにフィーは頷く。
彼女の意志を確認して、俺はフィーを迎えに行った。
そして、
「――行くか」
「うん」
観戦席まで移動した俺は、右手を差し出すとフィーはその手を取った。
「え!?」
「あ、あの少年……さっきまで戦闘場のほうにいたのに!?」
観客たちは俺の動きを全く追えなかったようだ。
俺はその声を気にすることなく、フィーの手を引きそのまま優しく抱きかかえ再び戦闘場に戻る。
そのまま抱えていたフィーを地面に下ろした。
「へぇ……早いじゃねえか」
燃えるような赤髪の円卓の騎士が、ポツリとそんな言葉が漏らし好戦的な笑みを俺に向けていた。
流石に大陸最強と言われた彼らの中には、今くらいの動きで動揺する者はいない。
「……もっとおろおろと戸惑って無様な姿を見せてくれると思ったのに……残念だわ」
「お姉様の思う通りにはなりません。
それにもう昔とは違います。
今のボクには信頼できる騎士がいるから」
フィーは堂々と言い返した。
過去の弱い自分はいない……そう伝えるように。
「……よっぽど彼を信頼しているのね。
あなたが大切にしているものだからこそ……壊してしまいたいわ」
その狂気的な笑みは、ヴィアの性質を良く表しているようだった。
「きゃははっ! 二人で盛り上がらないでよ。
観客のみなさ~ん! 第四皇女イシスも勿論参加するよ~」
「第二皇女アリアも参加いたしますわ」
戦闘場に、二人の皇女が唐突に現れた。
恐らく魔法道具による転移だろう。
二人の皇女が指に付けた指輪が、キラりと煌めいていた。
(……やはり皇族たちは大量の魔法道具を持っているようだな)
それも盗賊団討伐の際、ドグマが使っていたタイプの指輪型の魔法道具。
まさかとは思うが……あれも勇者の遺産の複製品なのだろうか?
(……ドグマたちの背後にいたのは、まさか皇族なのか?)
ふと、そんな疑問がちらついた。
「では早速、余興を始めるとしましょうか。
ルールは基本、貴族生徒の守護と同じですが――」
ヴィアの口から、簡易的なルール説明があった。
学園でやった際は胸元のゼッケンを奪う……というものだったが、今回はゼッケンはない
勝利条件はチームの騎士全員のノックアウト、もしくは貴族生徒を攫われることだ。そこから1分以内に奪還できなければチームは敗北。
さらに、騎士は自分の守護する貴族生徒に触れてはならない……とい条件が付加された。
競技中、相手の命を奪うような危険行為はなし。
それ以外は何をしてもOKではあるが、皇女に対する直接的な攻撃行動は禁止。
「万が一……ですが、事故が起こらないとは限りません。
そこは各自、十分に気を付けてください」
そんなことを言って、嗜虐の姫はフィーに笑いかけた。
だが俺のプリンセスはそんな脅しに屈することはなかった。
「では――問題なければ試合を開始します。
我が騎士たちを除き、円卓の皆さんも戦闘場を離れて、ゆっくりと余興をお楽しみください」
伝えると八人の円卓の騎士は一礼して、戦闘場を離れた。
残ったのは皇族の専属騎士を務める三人の騎士。
「きゃははっ、スカイ……やる以上は負けないようにがんばろうね~」
「ローエン、どうかわたしを勝利に導いてくださいね」
スカイとローエン。
二人の円卓の騎士は主君の前で膝を突き、その願いに全力で応えることを誓う。
「では――5分ほど作戦会議といたしましょうか。
司会者さん、時間になったら声をかけてください」
「は、はい!」
「わ、わかりました」
作戦会議……と言われても、限られた時間では決められることは少なく……だが、とりあえず方針だけでも決めなければならない。
そんな雰囲気の中、
「エクス――貴様はフィリス様を全力で守れ」
とりあえず俺にそんな役割が与えられていた。
「円卓の騎士たちは三人いますが、味方同士ではありません。
彼らが争っている隙に某たちは攻撃を加えます」
とりあえずの作戦は決まった。
正直、会ってないようなものだが……。
「5分経過しました!」
正確に時間を図っていたのだろう。
ミーナから告げられ俺たちは作戦会議を終えて
「それでは思いがけない余興となりましたが『貴族生徒の守護』――いえ、皇女様を守るのですから、今回は『皇女の守護』と言うべきでしょう!
最後に立っているのはどの陣営なのか!?
それでは――皇女の守護、開始!!」
司会者の口から競技の開始が告げられた。
同時に観客たちの歓喜の声と熱気が会場を覆う。
が、騎士生徒たちにそれを気にしている余裕はなかった。
なぜなら――
「なっ!?」
「……そうきますか」
三人の円卓の騎士―ランス、スカイ、ローエンはまるで徒党を組むように、俺たち生徒チームに向かってきたのだ。