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第71話 フィーと魔族たち

20180713 更新1回目

 俺はルティスたちを連れてホテルに戻ってきていた。


「ふむ。

 ここがお主の泊まっている宿か」


「ふはははっ! まるで城のようだな……!」


「でも、エクス先輩が泊まるならもっと豪華でもいいくらいです」


「ん……アンもリリーと同意見」


 アンもリリーも身内贔屓すぎる。

 二人の姉妹は何かあると俺を立てようとするのだ。


「みんな、入るぞ」


 俺は先導してホテルの中に入った。

 エントランスにはホテルの従業員とニースとリン、それに一部の教官と町の城の騎士らしき人物が話している。 


「第7騎士オルビス卿と、第8騎士がフィルズ卿が事態の収拾に向かわれました」


 どうやらあの騎士は連絡係のようだ。


(……あの時の気配は円卓の騎士だったのか)


 しかし、事態の確認……ではなく収拾か。

 円卓の騎士が向かったなら、どんなトラブルが起ころうと直ぐさま解決するとでも考えているのだろう。


「そうですか。

 お二人が向かわれたのなら直ぐに問題も解決することでしょうな」


 学園長も騎士たちと同じことを思っているらしい。


「……もうきっとエクスくんが解決してるわよ」


 ニースの呟くような声が聞こえた。

 一応、解決できたと言っていいかもしれないが、この騒ぎを起こしたのが身内だと思うと途端に申し訳なくなる。

 開いた大穴は塞いだのと、被害が出なかったのは幸いだが……。

 ルティスたちには後で、生徒や町の住民たちの役に立ってもらうとしよう。


「みんな、ちゃんと付いてくるんだぞ」


 そんなことを考えながら、俺たちはフィーの待つ部屋に向かった。

 だが……


(……うん?)


 部屋を覆うようにかけていた防御壁にダメージの後が残っていた。

 勿論、突破した形跡はないが……襲撃者がやってきたのは間違いないようだ。


(……騒ぎに乗じてホテルに侵入したってわけだ)


 やはり油断はできない。

 一目の少ない場所では絶対にフィーを一人にはできないな。

 円卓剣技祭で試合に出ている間の警護はルティスたちに頼むとしよう。


「フィー」


 扉の前で気配消しの魔法を解き、コンコンとノックをする。


「……エクス?」


 扉の中から返事が返ってきた後、俺は扉を開いた。


「ただいま、フィー」


「エクス~~~~~!」


 俺の姿を見た途端、フィーはいてもたってもいられない様子で俺に向かって飛びついてきた。

 そんなフィーを俺はしっかりと抱きとめる。


「フィー、大丈夫だったか?」


「うん! 少し前に扉を叩くような音が聞こえたくらいだったよ。

 それよりも、エクスは大丈夫? 怪我してない?」


 俺のことをずっと心配してくれていたのだろう。


「心配かけてごめんな、フィー」


 抱きしめ合いながら見つめ合う俺たちだったが……。


「おい、エクス。わらわたちがいるのを忘れるなよ」


「わかってる」


 背後から聞こえるルティスの声。


「え? この声って……」


 聞き覚えのある声に、フィーははっとした顔で俺を見る。


「フィー……突然ですまないが客人がいる」


 俺が言うと、背後から四人が顔を出した。


「ふむ、ふむふむ……なるほどの」


 魔王はプリンセスに接近すると、ぐるぐると観察を始めた。


「あ、あの……」


「ルティス、いきなりなんなんだ」


「いや……エクスを射止めた女子おなごはこういう子なのかと……思わず観察してしまったのだ。

 わらわに負けず劣らぬくらいには可愛い子ではないか」


「あ、あの……あなたはもしかして……」


「ああ、一応は始めましてと言っておくべきか?

 わらわはルティス。

 エクスの育ての親にして魔界の王であるぞ!」


 ルティスは威厳を示そうとしてるのかふんぞり返った。


「!? お、お初にお目に掛かります。

 ぼ、ボクはエクスとお、お付き合いしているふぃ、フィリスと言います」


「うむ……! そんなに緊張するでない。

 エクスよ、なかなか愛い少女のようだな」


「ああ、フィーはとってもいい子だ。

 優しくて、温かくて……何より俺を好きでいてくれてる」


「ほう……お主、だいぶ惚れておるな」


「ああ。

 ルティス……折角の機会だから聞いてくれ」


「うん?」


 隠す必要はないし、俺の想いは生涯、絶対に変わることはない。

 だから、育ての親であるルティスには先に伝えておくことにした。


「フィーとは将来的には結婚するつもりだからな」


「エクス……!」


 まさか今、俺がそれを伝えると思っていなかったのだろう。

 フィーは驚いたように目を丸めたが、


「る、ルティスさん――ボクもエクスと同じ気持ちです。

 まだ先の話になると思いますが、エクスを愛する気持ちは変わりません」


 直ぐに自分の義母になる魔王に想いを伝えた。


「ふむ……少し前に恋人ができたと聞かされたばかりだと思っていたが……子供の成長とは早いものだな……」


 少し寂しそうに呟く魔王様。


「ほう! つまり――わらわの娘となるわけか」


「ゆ、許していただけるでしょうか?」


「いいよ。

 わらわのことは、今日からお義母様と呼ぶがいい」


 真剣なフィーに対して、ルティスのノリは軽かった。


「俺が言うのもなんだが……もう少し、何かないのか?」


「お主が選んだ子なら心配なかろう。

 それに、わらわの勘がこう言っておる。

 この子とエクスはべストパートナーになれるとな!」


 ちなみに適当言っているようだが、ルティスの勘はよく当たる。

 未来予知……とは違うけどこれもこの魔王の持つ魔法――いや、技能スキルの一つなのかもしれない。


「それにわらわ、フィリスを気に入ったよ。

 これからはフィーと愛称で呼んでもよいか?」


「は、はい! 是非!」


「うむ。フィーよ、エクスを頼むな。

 エクスよ、この子を悲しませるようなことをするでないぞ!」


「勿論だ」


 こうして俺の育ての親である魔王に挨拶を済ませた。

 きっとフィーとルティスは仲良くやっていけるだろう。


「にぃにの……恋人? 結婚する?」


「エクス、この子は?」


「魔界にいた頃の後輩でアンナシア――だから愛称はアンだ」


「じゃあ、ボクもアンちゃんって呼んでもいい?」


「ん……じゃあアンは……」


 口数の少ない魔族の少女は一度口を閉ざすアン。

 何か考えるように首を捻った後、表情をパッと煌めかせた。

 そして、


「ねぇねって、呼んでいい?」


「ねぇね?」


「ん……にぃにの恋人なら、アンにとってはねぇね……」


「!? お姉ちゃんってことだね。

 うん、大歓迎だよ!」


「ん……ねぇね」


 するとアンはフィーに身体を寄せてギュッとした。

 初対面の人物にここまでアンが懐くのは珍しい。

 だが、それだけフィーが気に入ったのだろう。


「ふふっ、よろしくねアンちゃん」


 対してフィーは、アンに微笑み頭を優しく撫でていた。


「せんぱいがけっこんせんぱいがけっこんせんぱいがけっこんせんぱいがけっこん……」

 無表情で同じ言葉を連呼する後輩女子リリー


「お、おいリリー。大丈夫か?」


「はっ!? え、エクス先輩、はいリリーは大丈夫です! リリーは強い子!」


 両手を握って胸の前でグッとしているが、さっき壊れかけていたので説得力がない。


「フィー、この子がリリアスでリリーだ。

 アンとは双子の姉妹で妹になる」


「じゃあリリーちゃんって呼ばせてもらってもいいかな?」


「……フィリスさん……」


「うん?」


「リリーはまだ、アン姉みたいにフィリスさんをお姉ちゃんなんて呼びませんからね!」

 涙目宣言する妹魔族。

 だが、


「……そっか。

 リリーちゃんは……」


 するとフィーは何かを理解したように呟き。


「わかったよ。

 でも、ボクはこの想いに嘘は吐けないから。

 だから、いつかリリーちゃんにも、エクスとの関係が認めてもらえるくらいの女性に、成長してみせるから」


 真摯な眼差しで皇女様はリリーを見つめる。


「っ……え、エクス先輩を悲しませたら許しませんから!」


「うん。誰よりもボクはエクスを幸せにしてみせるから」


 再び直視されると、リリーはフィーの視線から逃げるように顔を背けた。


「うぅ……眩しいくらいに先輩を想ってる気持ちが伝わってきます……。

 本当にいい人です……でも、でも……」


 そんな呟きはフィーには聞こえていないだろう。

 が、俺と多分、ルティスとアンにも聞こえていた。 

 ちなみにオルドは、


「エクス、お前――彼女できたのか!?

 なんでオレ様に報告しない!?」


「寧ろなんで当然のように報告義務がある?」


「ライバルだからだ!」


 その理屈、絶対おかしい……と思ったが、こいつのライバル=親友のような扱いなのかもしれない。


「え、エクス、この人は?」


「オルドだ。……戦闘バカだが、根は悪い奴じゃない」


「ふははっ! よろしく頼むのだよ、フィリス!」


「うん、よろしくねオルド」


 これでとりあえず、全員の紹介を終えた。


「フィー……少しだけ外していいか。

 ニースや学園長に、あの爆発に危険性がないことを伝えておきたい」


「うん、大丈夫だよ。

 その間、みんなと話しているから」


「ふふ~ん、フィーよ。

 ならば今から、エクスの昔話でも聞かせてやるぞ」


「本当ですか!?」


 ちょ!? ルティス!? お前、フィーに何を言うつもりだ!?

 動揺する俺を見て、魔王は悪魔的な笑みを浮かべた。

 くっ……だが、やることやらねば。

 ニースをはじめ、多くの生徒たちが不安を抱えているはずだから。


「直ぐに戻ってくるから!」


 言って俺は部屋を出て、全速力でエントランスに戻った。


「ニース、リン、学園長――」


 俺は今も、ホテルの前で報告を待つ三人に呼びかけた。


「エクスくん、大丈夫だった?」


「襲撃者でしたか?」


「? ま、まさかエクスくん、君は爆発の原因を突き止めにいったのか!?」


 会話の内容から、学園長は俺がホテルの外に出ていたことに気付いたようだ。


「いや……違う。

 だが、もう心配はない」


 原因についてはあとで詳しく説明しよう。

 今は問題ないとだけ伝えておきたかった。


「そう……よかった。

 でも、こんなに早く解決してしまうなんて、流石は私の愛するエクスくんね」」


「ええ、流石はベルセリア学園最強の騎士です!

 某も少しでもエクス殿に追いつけるよう精進せねば……!」


 まるで俺を称える二人だったが……俺は褒められるようなことはしていない。


(……ほんとに身内がすみません)


 心の中で俺は、迷惑をかけてしまったみんなに心からの謝罪を伝えた。


「とりあえず我々は王城から正式な通達を待つ。

 が……もう室内待機の必要はなさそうだな。

 教官方は、生徒たちに安全が確保できたと伝えてほしい」


 学園長の指示に従い、教官たちが迅速に行動を始めた。

 それから俺も急ぎ部屋に戻ると、


「エクスって昔から変わらないんだね」


「?」


「そうだぞ、フィー。

 ルティスを守れるくらい俺は強くなる~! なんて、がきんちょのクセに、男らしいことを言ってなぁ……」


「なあああああああっ!?

 お前、なに言ってやがるっ!?」


 子供の頃から恥ずかしいエピソードを一つ、しっかりとフィーに聞かれているのだった。



                ※




 少しして俺たちは朝食を済ませた。

 その間に円卓剣技祭の委員会から少し遅れることになるが、円卓剣技祭は問題なく開催することが正式に伝えられ……会場となる闘技場に移動するよう指示が出されたのだった。




                ※



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