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第70話 定まる運命

20180712 更新1回目

「つまり、人間界の最強をエクス先輩がボコるわけですね!」


 話を聞き終えて最初に反応したのはリリーだった。

 人間に比べて魔族の女の子は好戦的な子が多く、少女の発言は典型的な魔族そのものだった。

 最上級魔族であり、オルドと同じように魔王継承権を持っている。

 つまり魔界では最強クラスの魔族の一人だ。

 可憐な容姿からは想像できないかもしれないが、彼女は肉弾戦を得意としている。


「にぃに……戦う?」


「ちょっとした試合をするだけだよ」


「ん……にぃに、がんばって」


「ありがとう、アン」


 俺は感謝を伝える為、アンの頭を撫でた。

 するとアンはとても気持ち良さそうに目を細めた。

 小動物のような印象を与える小柄な少女だが、実はオルドやリリーよりも強い。

 が、魔族にしては珍しく戦い嫌いで、内向的な性格もあり、自ら魔王継承権を放棄している。


「あ~アン姉だけずるいです! エクス先輩、リリーにもしてください!」


 おんだりされるままに、俺はリリーの頭も撫でた。


「えへへ……先輩のナデナデ久しぶりです」


「ん……にぃにのナデナデは最高……」


 魔族の姉妹はどちらも幸せそうに表情を緩ませていた。

 どちらの髪もふわふわサラサラで、ずっと撫でていたくなる。


「……お主ら相変わらずエクスにベッタリなのだな。

 こうして見ていると本当の兄妹のようだ」


 ルティスはそんなことを言ったが、俺たちは兄妹ではない。

 が、子供の頃からこの『双子』からは本物の兄のように慕われていた。


「そんなだから恋人の一人も出来ぬのだ」


「別に要らない」


 呆れるルティスにアンは淡々と答えた。

 間違いなく本心だろう。


「同じくです。

 そもそもリリーは自分より弱い男に興味ありませんから」


 こちらもまた本心だろう。

 魔界は絶対実力主義で成り立っている。

 力ある者が魔王となり魔界を統一する……という決まりがあるのだ。

 しかし、アンとリリーより強い男はほぼいない。

 二人とも非常に整った容姿の為、複数の魔族から言い寄られているのを見たことがあった……が、相手にもしていなかった。


「まだまだ若いの。

 男というのは決して力だけが魅力では――」


「そもそも彼氏がいないのは魔王様も同じじゃないですか!」


「はぁ!? い、いないんじゃない! わらわは作らないだけなのだぞ!」


 激しく動揺するルティスだが、恋人がいないのは事実である。

 姦しく騒ぎ出す女性陣の横で、


「エクスが参加するというのなら、オレ様も参加するのだよ!

 人間界で最強と言われる者たちがどの程度かも興味があるしな」


 オルドは魔界一の戦闘バカの称号に相応しい発言をした。

 だが、


「多分、無理だぞ」


「なぜだ?」


「試合に参加できるのは、ベルセリア学園の専属騎士ガーディアン――その中で序列12位までの生徒だけだからな」


「エクス、お前はバカか?

 簡単に参加する方法があるのだよ!」


「?」


「試合に乱入すればいいのだよ!」


 お前のほうがバカだろ……というのが、俺の心の声だった。


「とにかく今は大人しくしてろ。

 円卓剣技祭が終わったら、一戦相手をしてやるから」


「!? 本当なのだな!」


「ああ」


「わかった。

 ならば今は力を温存しておこう!

 ふははっ――エクスと戦えると思うだけで、今からワクワクが止まらぬのだよ!」


 オルドは一瞬でご機嫌になっていた。

 その後、


「なぁ、ルティス。

 とりあえず場所を変えないか?

 騒ぎを聞きつけて、城の騎士たちがここに来るかもしれない」


 姦しい女性陣の会話を遮った。


「……確かにその通りだな。

 エクスよ、お主の止まっている宿に案内あないするといいぞ!

 円卓剣技祭とかいうのが始まるまで、そこでくつろがせてもらおう」


 家族ではあるが、部外者をホテルに入れて大丈夫だろうか?

 いや、だが……。


(……ルティスたちをこのまま野放しにしておくほうが心配だ)


 このロリ魔王は意外と常識人ではあるが……特にオルドは心配だった。

 逡巡の後、


「わかった。

 ……それと試合の観戦もするつもりなのか?」


「当然であろう!

 わらわが弟子の成長を見届けてやろうというのだ!

 円卓の騎士……だったか?

 そんな奴らに苦戦するような姿を、わらわたちに見せるでないぞ」


「……言っておくが、今の俺は魔界にいる時よりも強くなってるからな」


「ほう……それは楽しみだぞ」


 ニヤッと好戦的な笑みを見せる魔王様。

 近いうち、ルティスとも再戦してやる。

 魔王継承戦の最後は人間界に無理矢理送還されたせいで、まるで勝った気がしていないからな。

 近いうちあの時のリベンジだ。


「アン姉、宿って聞くと旅行っぽい感じが出てきましたね!」


「ん……にぃにとアンと旅行」


「わらわとオルドもいるのを忘れるなよ」


「ふははっ! 早速行くのだ!」


 一人で勝手に歩き出すオルド。

 だが、


「待てオルドよ」


 ルティスが引き留めた。

 そして、


「ここは人間界だぞ。その立派な角を隠せ」


「なぜだ!?」


「人間はわらわたち魔族と違い、角が生えていないのだ」


「ふははははっ! 角がないなど見た目からして弱そうなのだよ!」


 ずーん……と、俺の心に重い物がのしかかってきた。

 俺、角ないんだよなぁ……。


「にぃに……気にしないで」


「そうです! エクス先輩、角なんてただの飾りです!

 実際、角があってもオルドは、先輩に一度だって勝ったことないんですから!」


 俺が沈んだ表情を見せたせいか、慰めるように二人は俺の頭を撫でた。


「ふんっ! 今はまだ、だ! 最後の最後にはオレ様が勝つ!」


 オルドはどこまでもポジティブだった。

 この調子なら、こいつはきっともっともっと強くなるだろう。


「……とにかく今は、魔法で角を目視できぬようにするからな。

 それと魔力は限界まで抑えておくのだぞ。

 多少の手練れなら気配でわらわたちに気付くだろうからな」


 そして四人の魔族が角を消し大穴から出た時だった。

 少し強い気配がこちらに近付いてきていた。


「……誰か来るようだな。

 ではその前に……」


 ルティスは中指と親指を合わせて、パチン――と弾くと、一瞬にしてこの場が元通りになっていた。

 流石は現役の魔王だ。

 魔法に関してはルティスに叶うものはいないだろう。


「さて、行くとするか」


 俺たちは気配を消しの魔法と重力制御グラヴィティを使い、ホテルに向かったのだった。




               ※




 その頃――つい先程までエクスたちのいた場所に、二人の男がやってきていた。


「あ~ん? 化物みたいな気配があったのはこの辺りじゃねえのか?」


「兄さん……間違いないよ。

 ここ――魔力の波動が残ってる。

 それも……気味が悪いくらいに強い……」


「あ~……ああ、本当だな。

 まさか、マリンの奴が実験でもやったのか?」


 この二人の名は――オルビスとフィルズ。

 大陸最強と言われる円卓の騎士の第7位と8位に任命された兄弟騎士である。

 皇帝陛下の忠臣でもある二人は強い気配を感じこの場に来たのだが、


「この魔力はマリン様のものとは違いますよ……」


「……なら、一体誰が……」


「魔力の波動から追跡が可能かと思いましたが、不可能のようですね」


 この場にあったはずの気配は、不自然なくらい完全に消えている。


「ったく。

 円卓剣技祭の前の準備運動でもしようかと思ってたのによ」


「兄さん……もしここに敵がいたら、それどころではないですよ」


 大陸最強の騎士の一角である二人は、十分に理解していた。

 この場にいた『誰か』は確実に自分たちを超える実力者であると。


「はっ――だとしても、俺たちに負けはねえだろ?

 俺たちには陛下から賜った勇者の遺産もあるんだ」


「とはいえ、慢心はいけませんよ。

 勿論……相手が誰であろうと負けるつもりはありませんが」


 二人の騎士は互いの顔を見て笑う。

 兄は不敵に、弟は冷徹に。

 そんな彼らだが、まさか次元の彼方から魔王様と最上級魔族が人間界に来ているとは、露にも思っていないだろう。

 そして、


「遅いなぁ、キミたちは……」


 実はこの場にもう一人。


「まさか、ルティス様までこっちに来るなんて……」


 マリン・テンプルがいた。

 彼女は実はエクスよりも先にこの場に来て、ルティスたちの様子を窺っていたのだ。


「……相変わらずの化物だな、彼女は……」


 マリンは思い出す。

 勇者と魔王の戦いを――。

 身震いするほどだった。

 恐怖は勿論だが、それ以上に興奮したのだ。

 あれは、人知を遥かに超えた戦いだ。

 あの頃に比べれば、マリンも大きく成長はしているが……。


「次元移動をそれも4人同時って……どれだけ膨大な魔力を内包してるんだよ……」


 まだまだ魔王ルティスには及ばない。

 いや到底敵うものではない……という事実をマリンは思い出すことになった。

 しかし、


「でも、まいったなぁ……」


 マリンにはつい先程、新しい未来が見えた。

 あやふやだった世界の先が――途中までではあるが確定したのだ。

 その理由はわからないが……魔王ルティスたちの来訪が関係しているのかもしれない。

 何せ彼女たちもこの先の未来にバッチリと関わっているのだから。

 しかし……この未来は――マリンの想像を遥かに超えるほど最悪なものだった。


「……もたもたしてる暇はないみたいだ」


 未来を修正する為の解決策はある。

 それは――割と単純明快なものだ。

 だが、それをすれば……魔王ルティスは間違いなく大激怒することになるだろう。


「私……死ぬかもなぁ……」


 これは正に一世一代の大勝負と言ったところだ。

 苦笑しつつも、自分の命一つで世界を救えるのなら安い物だろうとマリンは思う。

 これも秩序の管理者としての仕事なのだから。


「さて――仕掛けるのは円卓剣技祭の後……かな」


 張っていた布石が役立ちそうだ。

 そんなことを思いながら、マリンは静かにこの場を去るのだった。




                ※

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